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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第三話 真似される理想

町は、村よりも騒がしかった。

人の声、馬のいななき、荷車の軋む音。

どれも久しぶりだが、懐かしさはなかった。

問題の店は、すぐに分かった。

入口に掲げられた看板には、

大きな文字でこう書かれている。

一日一皿。

装飾は派手で、色も多い。

レインの店とは、何もかもが違った。

中に入ると、人が多い。

笑い声、ざわめき、

そして妙に張りつめた空気。

「今日は、誰が選ばれるんだ?」

客たちは楽しそうに、

だがどこか落ち着かない様子で待っている。

店主は若い男だった。

手際はよく、声も大きい。

「本日は――」

名前が呼ばれる。

選ばれた客が歓声を上げ、選ばれなかった者が、肩を落とす。

料理は、確かにうまそうだった。

香りも立ち、盛り付けも丁寧だ。

「……悪くない」

レインは、そう思ってしまった自分に驚いた。

店主は、レインに気づくと笑顔で近づいてきた。

「見学ですか?」

「うちは今、流行ってまして」

「ええ」

「“選ばれる体験”って、やっぱり特別でしょう?」

その言葉に、レインは答えなかった。

「あなたも、同じことをしてるんですよね」

「一日一皿」

「……似ているだけです」

店主は気にした様子もなく笑った。

「でも、客は分からない」

「名前が同じなら、同じものだと思う」

それは、責めでも挑発でもなかった。

事実の指摘だった。

店の隅で、小さな口論が起きた。

「なんであいつばっかり!」

「昨日も選ばれただろ!」

店主が慌てて間に入る。

「まあまあ、今日は運ですから!」

運。

その言葉が、妙に耳に残った。

レインは、料理が出される瞬間を見なかった。

それ以上、ここにいる理由がなかった。

外に出ると、選ばれなかった客たちが、黙って散っていく。

誰も怒鳴らない。

誰も抗議しない。

だが、その背中は硬かった。

帰り道、レインは考える。

一日一皿。

選ぶこと。

待つこと。

それらは、

“特別感”のための装置ではなかった。

だが、仕事になった瞬間、そう解釈されても仕方がない。

村に戻ると、いつもの食堂がそこにあった。

派手さはない。

静かで、変わらない。

「今日はどうだった?」

帳簿係が聞く。

「……繁盛していました」

「じゃあ、やっぱり正しかったんだな」

「真似されるってことは」

レインは、首を振った。

「正しいかどうかは、まだ分かりません」

その夜、鍋に火を入れながら、レインは思った。

理想は、守らなければ消えるものではない。

だが、

仕事になった理想は、

勝手に別の形で歩き出す。

それを止めるか、

見送るか、

向き合うか。

まだ、決めていなかった。

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― 新着の感想 ―
レインの理想が外で「特別体験」として消費される現実を目の当たりにし、理念と現実のズレに直面する姿が静かに緊張感を持って描かれています。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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