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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第二話 続けるための計算

帳簿は、正直だった。

そこには感情も事情もなく、ただ数字だけが並んでいる。

「先月より、さらに下がってる」

帳簿係の男は、淡々と言った。

声に責める色はない。

それが、余計に重い。

「仕入れが上がってるんだ」

「運ぶ人間も、道具も、全部な」

レインは黙って数字を追った。

一つ一つは小さい。

だが、積み重なると確実に効いてくる。

「値上げすれば?」

村人の一人が言った。

悪気はない。

むしろ現実的な提案だ。

「一日一皿なんだ」

「少し高くても、納得する人は多い」

レインは首を振った。

「価格を上げると、“選ばれる理由”が変わります」

「変わるって?」

「待つ理由が、料理じゃなくなる」

その場にいた誰も、すぐには理解できなかった。

だが、否定もしなかった。

帳簿係が続ける。

「じゃあ、量を減らす?」

「休みを入れる?」

「週に一日、閉めるだけでも違う」

どれも、間違っていない。

どれも、“続けるための工夫”だ。

レインは、鍋の縁に手を置いた。

「一日一皿は、“少ない”ことに意味があるわけじゃありません」

「じゃあ、何に?」

「選び直せることです」

沈黙。

その言葉は、数字に向かない。

「……正直に言う」

帳簿係は、少しだけ声を落とした。

「このままだと、あんたは“続けられない”」

その言葉は、脅しでも忠告でもなかった。

事実の提示だ。

昼過ぎ、レインは仕入れに出た。

いつもの商人は、申し訳なさそうに言う。

「悪いが、次から少し上がる」

「燃料も、人手も足りなくてな」

「分かりました」

そう答えながら、

レインは内側で計算していた。

一日一皿。

量を増やさず、

値を上げず、

休みも入れず。

それはもう、

“理想”ではなく、

“無理”に近づいている。

帰り道、村の外れで声をかけられた。

「ねえ、知ってる?」

若い男が、少し楽しそうに言う。

「町の“一日一皿”、予約が取れないらしいよ」

「予約?」

「そう。選ばれるってやつ」

「特別感があってさ」

レインは足を止めなかった。

「料理も、うまいって」

その言葉に、胸の奥で小さく何かが動いた。

うまいか、まずいか。

それは、ずっと後回しにしてきた尺度だ。

夜、帳簿を閉じて、レインは一人、食堂に残った。

火を入れていない鍋を見つめる。

(続けたい)

その気持ちは、変わらない。

だが、続けるために

何を守り、何を削るのか。

その計算を、誰かに任せるわけにはいかなかった。

翌朝、帳簿係がふと思い出したように言った。

「一度、見に行けばいい」

「その店」

レインは、少し考えてから頷いた。

「……そうですね」

一日一皿が、

仕事になった瞬間。

それは、自分の外側で起きている話ではなかった。

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― 新着の感想 ―
数字と現実が突きつける厳しさの中で、レインが「続けるために何を守り、何を削るか」を自分で計算し、覚悟を新たにする姿が印象的です。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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