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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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【第三部】一日一皿が仕事になった日編 第一話 当たり前になった一皿

一日一皿を続けて、もう何年になるだろう。

レイン自身、正確な数を覚えていなかった。

季節が巡り、畑の作物が変わり、

村の子どもたちの背が少しずつ伸びていく。

その間、食堂の扉はほぼ毎日、同じ時刻に開き、

同じように火が入り、同じように閉じられてきた。

それはもう、特別なことではなかった。

「今日は誰だろうね」

朝、老女がそんなふうに言う。

期待でも緊張でもない、ただの確認。

天気の話をするのと変わらない調子だ。

レインは、その言葉を聞きながら鍋を洗った。

かつては、その一言に重みがあった。

選ぶこと、選ばれること、その間にある沈黙。

今はもう、それらが風景になっている。

悪いことではない。

村に溶け込んだ証拠だ。

だが、変わったものもあった。

包丁の柄は、少し削れている。

鍋の底も、前より薄くなった気がする。

気のせいだと思いたかったが、

研ぎ石を当てる回数は確実に増えていた。

昼前、帳簿係の男が食堂を覗いた。

料理を待つためではない。

彼はいつも、食べない。

「これ、今月分」

差し出された紙には、

食材の仕入れ、修繕費、

細かい数字が並んでいた。

「……厳しいですね」

レインがそう言うと、男は肩をすくめた。

「正直に言えばね」

「これはもう“善意”じゃない」

その言葉に、レインは手を止めた。

「善意で続けるには、長すぎる」

男は淡々と続ける。

「村にとって、あんたの店はもう

“あるのが当たり前”だ」

「誰も疑ってないし、感謝もしてる」

「でもそれって――仕事だろ」

仕事。

その言葉は、重くも軽くもあった。

「続けるなら、考えなきゃいけない」

「値上げ、量、休み」

「どれも、裏切りじゃない」

レインは、帳簿を見つめたまま答えなかった。

外では、いつもの顔ぶれが静かに待っている。

誰も急かさない。

誰も疑わない。

それが、少しだけ怖かった。

昼を過ぎ、鍋に火を入れる。

今日の一皿は、

昨日から決まっていた。

料理を出すと、

受け取った者が小さく頭を下げる。

「ありがとう」

その声を聞いて、

レインはようやく息を吐いた。

(続けたい)

その気持ちは、変わっていない。

だが、続けるということは、

選び続けるということとは違う。

続けるために、

変えなければならないものがある。

その日の夕方、

仕入れの帰り道で、

レインは聞いた。

「近くの町にさ、“一日一皿”の店ができたらしいよ」

足が、わずかに止まった。

「流行ってるってさ」

「うまいらしい」

レインは何も言わず、

袋を持ち直して歩き出した。

一日一皿は、もう自分だけのものではない。

その事実が、静かに、だが確かに――

次の仕事を連れてきていた。

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― 新着の感想 ―
一日一皿が日常となり、村に定着したことで重みと責任が「仕事」として現れ、レインの覚悟と次の挑戦への兆しが静かに描かれています。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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