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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第六話 この一皿が、届くまで(第二部・完)

翌朝、村に不穏な知らせが届いた。

病を抱えた客が、倒れたという。

屋敷に向かうと、医師が首を振った。

「峠は越えましたが……食事は、まだ難しい」

レインは、静かに頷いた。

「無理はさせないでください」

屋敷を出るとき、レインは一度だけ立ち止まった。

自分が料理人であることを、

初めて“無力”だと感じた瞬間だった。

その足で、王都の使者のもとへ向かう。

「お返事を」

「今は、戻りません」

使者は、驚かなかった。

だが、その目には確かな落胆があった。

「……理由を、伺えますか」

レインは、少しだけ考えた。

「私の料理は、全部を救うために作られていません」

「それは……職務放棄ですか」

「いいえ」

レインは、はっきりと言った。

「届く人に、確実に届かせるためです」

使者は、長い沈黙の末、頭を下げた。

「……分かりました」

その日、レインは食堂に戻った。

鍋に火を入れる。

今日の一日一皿は、

病を抱えた客のためではない。

“来られなかった人”のためだ。

柔らかく煮た野菜。

喉を通る温度。

匂いだけでも、届くように。

皿を持って、屋敷へ向かう。

客は、目を開けていた。

「……今日は?」

「食べなくていいです」

レインは、皿を置く。

「ここに置いておきます」

客は、ゆっくりと目を閉じ、

微かに頷いた。

「……それで、十分です」

レインは、その場を離れた。

村に戻ると、老女が待っていた。

「今日は、誰の日だったんだい」

レインは答える。

「今日に、間に合わなかった人のためです」

老女は、少し考えてから笑った。

「それも、いいね」

夕暮れ、レインは食堂の火を落とす。

一日一皿は、命を治す魔法じゃない。

それでも、

届くまで待つ理由を、今日に残す。

レインは、鍋を洗いながら、

初めて迷いのない顔をしていた。

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― 新着の感想 ―
レインが「全てを救うのではなく、確実に届く人のために作る」という信念を貫き、料理人としての覚悟と成長が静かに描かれた感動的な締めです。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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