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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第五話 それでも、選ぶ理由

その夜、食堂には早くから灯りが入っていた。

だが、鍋に火は入っていない。

王都の使者が去ったあと、村人たちは口数が少なかった。

誰も責めない。

誰も引き止めない。

それが、何よりも重い。

「行くべきだと思う」

老女が、ぽつりと言った。

「ここで一日一皿を続けるより、王都で百人に料理を出せるなら——」

否定できない。

それは正しい。

正しすぎるほどに。

「あなたがいなくなっても、この村は回る」

若い男が続ける。

「でも、王都は……

あなたがいなければ、また壊れるかもしれない」

レインは、黙って聞いていた。

宮廷にいた頃、何度も聞いた言葉だ。

“君がいなければ困る”。

だがその言葉は、いつも条件付きだった。

夜が更け、村人が去ったあと、

最後に残ったのが、病を抱えた客だった。

「今日は……食べられません」

そう言って、客は席に座る。

「それでも、来てしまいました」

「構いません」

レインは、湯を沸かし、茶を出した。

「王都へ、戻るのですか」

客の問いは、静かだった。

探るでもなく、試すでもない。

「迷っています」

レインは、初めてそう答えた。

「戻れば、もっと多くを救える」

「ここにいれば、救える数は限られる」

「数、ですか」

客は小さく笑った。

「私も、数で判断されてきました」

レインは顔を上げる。

「病を抱えた当主は、“効率が悪い”存在です」

客は続ける。

「政務は部下に任せろ」

「表に出るな」

「治る見込みは薄い」

それらはすべて、正しい判断だった。

「ですが……」

客は、胸に手を当てた。

「あなたの一皿は、“数に入らない時間”をくれました」

レインは、言葉を失った。

「食べられる日も、食べられない日も」

「ここに来ると、“今日を生きていい”と思える」

沈黙。

その沈黙は、答えを急かさなかった。

「王都へ戻れば、あなたはまた“全員のための料理人”になる」

客は言う。

「ですが……

それは、本当にあなたの料理ですか」

レインは、答えなかった。

だが、胸の奥で何かがほどけていくのを感じていた。

客は立ち上がり、深く頭を下げた。

「私は、もう長くありません」

レインは、目を逸らさなかった。

「それでも、あなたが選ぶ一皿が、今日どこにあるかを、私は知りたい」

その夜、レインは火を入れなかった。

だが、眠れなかった。

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― 新着の感想 ―
レインが「数よりも一人ひとりの時間」を尊重する葛藤が描かれ、選択の重みと料理人としての使命感が胸に迫る場面です。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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