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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第四話 作らないという責任

第4話 作らないという責任

異変は、朝ではなく昼に起きた。

食堂の前に、人が並びすぎていた。

村人だけではない。

近隣の集落から来た者、旅の途中の商人、傭兵崩れ。

噂が、はっきりと形になり始めている。

「一日一皿の料理人」

「選ばれた者しか食べられない店」

それは、期待と同時に、敵意も呼び寄せる。

その列の端に、病を抱えた客がいた。

今日は、顔色が悪い。

立っているのも、辛そうだ。

「……今日は、来るべきではなかったかもしれません」

レインは即座に言った。

「座ってください」

「でも……

 他の人が」

「今日は、まだ何も決めていません」

それは事実だった。

だが、列の視線が一斉に集まる。

「また、あの人か」

「病人ばかり優先するのか」

囁きは、はっきり聞こえる音量だった。

そこへ、別の声が割り込む。

「待ってくれ!」

若い男が、子どもを抱いて前に出た。

額に手を当てている。

熱があるのは、誰の目にも明らかだった。

「この子は、今朝から何も食べられていない」

「せめて、今日だけ——」

沈黙。

視線が、レインに集まる。

病を抱えた客。

熱を出した子ども。

どちらも、“今日”を必要としている。

レインは、包丁に手を伸ばし、

そして、止めた。

「今日は……作りません」

ざわめきが、一気に膨らむ。

「逃げるのか!」

「選べないだけだろう!」

「それが料理人のすることか!」

怒号。

だが、レインは動かなかった。

「選べないから、作らないのではありません」

声を張らずに言う。

「作ることで、どちらかを“正しく切り捨てる”ことになるからです」

「切り捨てる……?」

病を抱えた客が、かすかに息を吸った。

「……レイン」

初めて、名を呼ばれる。

「私は、大丈夫です」

レインは振り返る。

「今日は、来られただけで」

「違います」

レインは、はっきりと言った。

「あなたが“我慢する前提”で成り立つ選択は、もう、選択ではありません」

客は、目を見開いた。

「あなたが耐えることを、当然だと思い始めたら——

 それは、私が宮廷で壊れた理由と同じです」

その言葉で、空気が変わった。

子どもを抱いた男が、視線を落とす。

「……すまない」

「いいえ」

レインは首を振る。

「誰も、悪くありません」

その日、レインは鍋に火を入れなかった。

だが、食堂は閉めなかった。

代わりに、座らせ、話をさせ、保存や火入れの話をした。

「料理は、急ぐと壊れます」

「人も、同じです」

夕方、病を抱えた客が立ち上がる。

「……今日は、何も食べていないのに」

「はい」

「不思議ですね」

客は、かすかに笑った。

「それでも……ここに来てよかったと思える」

レインは、その言葉を胸に刻んだ。

夜。

食堂の戸口に、一通の封書が置かれていた。

王都の紋章。

レインは、それをすぐには開けなかった。

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― 新着の感想 ―
レインの「作らない選択」が、人の命や気持ちを尊重する責任感として描かれていて、ただの料理話ではなく倫理や覚悟の物語になっている点が印象的です。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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