正論パンチをお見舞いしたら
「レイシア! あなたもうすぐ貴族令嬢になれるわよ!」
「え? 私が貴族令嬢?」
「そうよ、あの人が私達を家に引き取ってくれるのよ!」
私レイシアはキョトンとしながら嬉しそうに話すお母さんの姿を見ていた。
私達母娘は王都の長屋に暮らす平民でお母さんは日雇いの仕事をしながら慎ましく生きている。
偶に身なりのいい男性の人が訪ねてくるけど多分その人がお父さんなんだろう。
お母さんの話だとお父さんは別の人と結婚しているんだけどその人が病気で亡くなったらしくてそれをきっかけにお母さんと私を家に引き取ってくれるそうだ。
……間違いなく私達て愛人とその娘、ていう立ち位置だよね。
平民でも浮気するのはダメだしトラブルはある。
隣のおばさんが鬼の形相で包丁持っておじさんを追いかけ回しているのを見た事ある。
「お母さん、私ついていかないよ」
お母さんの説明を聞いて出した私の結論はこれだ。
「え?何言ってるの? 家族みんなで暮らせるのよ」
「家族って言ってもお父さんは多分たまに来る身なりのいいおじさんでしょ? お母さんとはイチャイチャしているけど私にはあまり興味ないみたいだもん、そんな人をお父さんだなんて思えないよ。それにそもそも奥さんが亡くなったから、って言ってすぐに私達を引き取るのはどうか、って思うよ。喪が明けたりとか親類に話を通したりとか色々やらなきゃいけない事があるでしょ」
「きっと歓迎してくれるわよ」
「どうしてそう思えるの?」
「それは……、『妻とは愛のない結婚で本当に愛しているのはお前だ』って言ってくれるのよ」
「口だけならなんでも言えるよね? それじゃあなんでお父さんはすぐにお母さんと結婚しなかったの? お母さんの事を本当に愛しているなら家とか身分とか捨ててでも一緒になるよね? それに平民がいきなり貴族になれるなんて無理なんだよ。 貴族にはマナーや知識とか行儀とか色々覚えなきゃいけない事があるんだよ。 豪華な服着て美味しい食事するだけじゃないんだよ。 私だけじゃなくてお母さんも覚えなきゃいけないんだよ」
そう言うとお母さんはハッとした。
娘の私にここまで言われないと気づかないなんてどれだけ浮かれていたんだろ……。
そりゃ幼い頃だったら私も一緒に浮かれていただろう。
でも、私は10歳である程度の常識や社会もわかっている。
おとぎ話のお姫様に憧れた時期は既に過ぎている。
「結婚するのはお母さんの意志だから止めないけど私に貴族令嬢なんて無理だよ、私は私で1人で生きていくから」
そう言って私はこの話を終わらせた。
結論から言えば結婚話は無くなった。
後日、私達はお父さんの家に行ってお父さんのお父さん達、私にとっておじいちゃんやおばあちゃんになる人達の前で話し合いが行われた。
その場でお母さんはお父さんとの結婚は無い、と宣言したのだ。
「娘に説教されて目が覚めました……。 私達は私達で暮らしていきますのでどうか忘れてください」
お母さんはすっかり冷静になったみたいだ。
逆にお父さんは『そんな……』とか『本当に愛しているんだ』とか言っていたけどおじいちゃんがピシャリと言ってくれた。
「まだ子供なのにこの子の方が世の中を冷静に捉えている。 平民が貴族として無事に暮らせるなんて到底無理な事だ。 本当に結ばれたいならこの家を出ていくんだな」
お父さんはガックリと項垂れた。
「レイシアと言ったな、子供なのにその冷静さは気に入った。 家族として迎える事は出来ないが支援はさせてもらおう」
どうも気に入られたらしい私はその後もおじいちゃん達との交流は続いている。
お父さんは再教育として厳しい監視の中、働いているらしい。
私は頼りないお母さんとこれからも暮らしていく。




