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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
(間章)extra carton

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extra carton3(前編) 法律って、お前みたいなやつがいるから生まれたのかな

「今日一日、(さかき)さんのことをずっと観察しててもいいですか?」

「法律って、お前みたいなやつがいるから生まれたのかな」


 とある休日の、僕の部屋でのこと。

 榊さんと一緒に、朝食にバタートーストを食べながらそう切り出したのだが、食い気味に引かれてしまった。


「僕たちって、休日大体一緒にいるじゃないですか。だから、榊さんが休日一人のとき、なにしてるか知らないなと思いまして」

「だから、一日あたしをストーカーしたいって?」

 ストーカーとは言ってないんだけど。

 というか、いつも一緒にいるのにストーカーにはならないだろ。


「まあ、そういうことです」

 そういうことでもないだろ。なに言ってるんだ、僕。


 僕の言葉を聞き、榊さんは眉に怪訝な色を混ぜた。しかし、怒っているようにも不快になっているようにも見えない。

 ただシンプルに、「なに言ってんだコイツ?」という目をしている。


 榊さんはじっと僕を見つめた後。

「……あー。お前といないときのあたしがどんなことしてんのか知りたいわけか」

「はい」


「ふーん? ……でもさ。観察するっつっても、具体的にはどうやンだ?」

「榊さんにはいつも通り過ごしてもらって、僕は隣で榊さんを観察します。その際、榊さんは僕がいないものだと思ってくれたら嬉しいです。いわば、僕は透明人間見たいなものですね」

「……」

 榊さんの瞳から、スッとハイライトが消えていった。


「お前の性癖もいきつくとこまでいきついたな。まだ発見されてない性癖の名づけ親にでもなるつもりかよ、この性癖開拓者が」

「新種の星の発見者みたいに言わないでほしいです」

 まあ、僕の思考と発言がキモイのはその通りだが。


「まあ、オモロそうだからいーけど」

「いいのかよ」

 めちゃくちゃ簡単に承諾されてしまった。まあ、榊さんは面白いことが好きだからな。

 透明人間に扮する僕に観察されるのが面白いと思う彼女の感性はかなり尖っていると思うが。それはそれ。


「あ、ありがとうございます」

「ん。……で、それってさ。風呂とかトイレにもついてくるわけ?」

「いや、さすがにそこまでは」

「そか? 面白そうだからあたしはいいけどな」

「ぼ、僕がよくないです!」

 慌てた僕は胸の前で大仰に両手を振る。


「それに主題がずれちゃってますよ!」

「んお?」


「僕がしたいのは透明人間になって榊さんの休日を観察することではありません。透明人間になるのは、あくまでサブ! 僕は、僕といないときの榊さんがどう過ごしているのか知りたいだけですから!」

「いや、そんなん口頭で教えるけど」

 呆れたように、榊さんの眉が下がる。


「一応訊いときますけど、ちなみに、なんですか?」

「なにって、Twitterだけど」

 僕は今座っているのだが、心境的にはその場に膝から崩れ落ちてしまいそうであった。


 ……そ、そうだった。この人、暇があればずっとTwitterをしているのだった。

 休日は、ネタツイを見るかネタツイを考えることしかしていないではないか!

 その様子を、一日中隣でずっと観察するというのか?


 ……。


 うん。


 それはそれで、面白そうだな……。


 榊さんは口の中のトーストを飲み込んでから、だらしないニヤけ面を披露する僕に向かってこう呟く。


「妄想でそんな幸せそうな顔できんなら、もう観察の必要ねぇだろ」

「た、確かに……」


   〇


 それはそれとして。「休日の榊さん観察実験」は、ぬるっと始まった。


 朝食を食べたあと、僕は榊さんに「僕をいないものとしていつものように過ごしてください」と告げた。

 榊さんは小さく頷き、僕のベッドに横になってスマホを眺め始めた。


 僕は透明人間に徹し、床に座ったままそんな榊さんをただ見つめる。

 ……いや、普通にスルーしかけたが、この人僕がいないときも僕のベッド普通に使ってるんだな。今は、床に敷きっぱなしの榊さんの敷布団もあるというのに。

 まあ、別にいいんだけど。

 というか、なんだかちょっと嬉しいかも……?


 数分間無言でスマホを眺めたあと、榊さんは液晶画面を見つめたままこう声をこぼした。

公太郎(こうたろう)。この動画オモシ──」

 途中でハッとし、榊さんは咳払いを挟んで言葉を誤魔化した。


 今のは少し(あや)うかったが、きっちりと設定を守ってくれる気概はあるらしい。


「……」

「……」


 なぜか少し緊張感のあるような無言の時間がただ過ぎていく。


 透明人間に扮する僕と、僕を透明人間として扱う榊さん。

 ……うん。そんなつもりは全然ないんだけど、なんか本当にそういう特殊なプレイをしてるみたいでちょっと変な気分になってきてしまった。

 なんで体温上がってるんだ? 僕。


 榊さんも、なんか耳が赤くなってるし。

 まあ彼女のは、真面目に僕をいないものとして扱っている自分を客観視して、恥ずかしくなってきたとかそんなところだろうと思うけれど。


 お互いに妙な気恥ずかしさを覚えつつも、時間は着実に過ぎていった。


 榊さんは気の抜けた顔でずっとスマホを眺めているが、ふとした瞬間に僕の方に視線を送ってくる。

 そりゃあ気になるよな。透明人間に扮する僕が同じ空間にいれば。


 不意に、スマホをスカートのポケットに入れ、榊さんが立ち上がる。そして彼女はそのままわざとらしく伸びをする。


「……。あ~。せっかくの休みだし、昼飯買いに外にでもいくかぁ」

 棒読みを口から垂れ流しながら、榊さんは立ち上がった。その際彼女は僕に一瞥をくれる。

 ちゃんとついてこいよ? と目で言っている気がした。

 玄関に向かう榊さんを、静かに追う。


 しかし、休日の榊さんなら家でずっとだらだらしていてもおかしくないだろうに、どうして急に?


 まさか彼女、家でずっとスマホを見ている自分を見ていても楽しくないだろうからと、気を遣ってくれたのか?


 そんな榊さんの優しさに甘えながらも僕は、今更ながらめちゃくちゃ変な提案をしてしまったことに気が付いた。

 これって、せっかくの休日なのに、榊さん凄く過ごしづらいよな……。


 いつでもやめていいと、彼女に伝えておいた方がいいかもしれない。

 一応透明人間の設定を維持するため、声をかけるのではなく榊さんにLINEを送ることにした。


『めんどくさくなったらいつでもやめていいですからね』

 僕の通知に気が付いた榊さんが、スマホの画面を見て高速タイピングを行った。


『ん。今んとこ変な体験ができて楽しいから大丈夫。あと、お前、あたしに変な気ィ遣いすぎなくていいから』


 榊さんに大人の余裕を見せられ、不覚にもトキメいてしまった。


 今日は、榊さんの優しさに甘えるとしよう。


 一日の終わりに、お礼としてお酒かおつまみを奢りたくなった僕なのであった。



後編は明日公開予定です。

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