extra carton2 ほろ酔いをさぁ
月の欠伸でも聞こえてきそうな更けた夜の、とある日のこと。
榊さんは、宅飲みでカパカパと飲みまくったせいでかなり酒が回っていた。
相手は酒を飲めない僕なのに、よくここまで酔うことができるものだ。
僕と飲んで、なにがそんなに楽しいのだろうか……。
空になったチューハイの缶をローテーブルに置きながら、榊さんは焦点の定まらない視線を僕に送った。
「ほろ酔いをさぁ」
「はい」
「ただのジュースじゃんってバカにするやつがいっけど」
ほろ酔いとは、度数が低く飲みやすい酒のことだ。榊さんがたまに飲んでいるから知っている。
「なんだかんだ味として美味いのはほろ酔いなわけよ。飲みやしーしな。種類もめっちゃあるし」
「はぁ……」
「だけんども。わかりやすい酒を求めてるやつにはほろ酔いは物足りねーわけ」
榊さんの顔は、温泉につかったみたいにのぼせ上っている。ここまで酔いがまわった榊さんを目にするのはかなり珍しいかもしれない。
「そーなっと、次に手を出すのは氷結とかになってくるわけ。ほろ酔いより度数が高くて、ちょっと酒感が強くなる。でも、まだ飲みやしーんだ」
「はい……」
榊さんが現在飲んでいる缶には、氷結ストロングと書かれている。現在彼女が話している氷結よりも、少しばかり度数が高いバージョンのお酒だろうか?
「氷結も味の種類がめっちゃあんだよな。キンッキンにして飲むとうめーんだ、これが」
「はぁ」
「氷結でも物足りねーやつは」
榊さんが、ピッと人差し指を天井に伸ばす。
「タカラの焼酎ハイボール飲め。度数は大体七パーくらい」
「……」
「これはなー。炭水化物が少なくて、太らなくていいんだよ」
榊さんは、氷も入っていないコップにウィスキーをドボドボと注ぎ、炭酸水をちょろっとだけ混ぜて飲んでいた。
「そいで。これも味の種類が結構あんだ。あたしはまあ、レモンかドライかな。期間限定のもウメーぞ」
「……」
「そんでも物足りねー欲張りちゃんは、ストゼロ飲んどき。アルコールの味がしてうめぇぞ」
……もう、アルコール舐めとけばいいんじゃないか?
「今回は缶チューハイばっか例に出したけど、日本酒とか洋酒とかはもっと度数ある。そいで、種類も多いし、奥が深ぇ」
榊さんの瞼が重くなってきた。今回は、眠くなるタイプの酔い方らしい。
彼女は、空になった缶を片手に持ちながら舟を漕ぎ始めてしまった。
なら、そろそろ突っ込みを入れさせてもらおうかな。
「榊さん。僕にお酒の話をされてもあんまりわかりません。未成年ですし」
これはなにも、榊さんの話に僕が退屈しているというわけではなく──。
「……スミマセン。面白い話し相手になれなくて」
──面白いリアクションを取ることができない僕に、榊さんが退屈していないか不安だったのだ。
「ん? んー……」
かくかくと。振り子のように時折こうべを垂れる榊さん。
ほどなくして、八割ほど閉じてしまっている榊さんの目が、確かにこちらを捉えた。
「あー。いンだよ。公太郎と一緒に飲める日が楽しみで、先走ったあたしが勝手に酒の話してるだけだから……」
榊さんの目は、ゆだったかのようにぼんやりとしていて──。
「お前が二十歳になったら、どんな酒一緒に飲もうか、考えてただけ、なん、だ……」
「榊さん……」
言い切った瞬間。かくりと榊さんの首が前に折れ、彼女はローテーブルに突っ伏してしまった。
「……大丈夫ですか?」
しばらく彼女のことを眺めていると、かわいらしい小さな寝息が聞こえてきた。
どうやら眠ってしまったようだ。
やれやれとため息をはく。
僕は榊さんを優しく横抱きにし、僕のベッドに彼女を寝かせた。
「風邪引いちゃいますよ」
「んー……」
慣れた手つきで彼女に掛け布団を被せる。
僕は、遊び疲れた子供を寝かせる親のような心境になっていた。
……なんて恰好つけてはいるけれど。
実際のところ、眠る榊さんを見つめる僕の体は、まるでお酒を飲んだみたいに火照っていたのだった。
「僕も、楽しみにしてますよ」
たぶん榊さんよりも、僕の方が、ずっと──。
僕が二十歳になるまで、あと、約一年とちょっと。




