やっぱりあれは、プレイの一環なの?
無心で皿洗いを続けていると。時折、唐木田さんが様子を見にきてくれた。
「問題なさそうか?」
「はい。今のところは」
「お? むしろ暇してる?」
唐木田さんが、シンク内の洗い物の数がかなり減ってきていることに気が付いたらしい。
「もう少ししたら今ある分はなくなるかもですが。如何せんどんどんくるので……」
「はは。そうだな。でも、聞いた通りの有能みたいで安心だ。助かる助かる」
「いえ、そんな」
「ひと段落したら、ちょっと休んでもらっていいから。いい感じにサボりつつやってくれ」
「はい」
唐木田さんは、他の従業員にも指示を出しながらどこかへと消えていった。
「ふんふふふ~ん」
しばらくすると、ご機嫌な鼻歌がどこかから聞こえてきた。
店長と入れ替わるようにして、鮮やかな青の髪先がホールから厨房へと覗く。
「お。コタローくん発見。手伝ってくれてんだね」
不意にそう声をかけてきたのは、青髪が素敵なギャルメイド、ルイにゃんさんだ。
「あ、お久しぶりです。コタローではなく、公太郎です」
「コタローくーん」
「……まあ、なんでもいいですけど」
ルイにゃんさんは、空になった食器をどかっと洗い場に置いた。配膳や回収役を行っているのだろう。
先ほどの鼻歌の主は、ルイにゃんさんか。
「ご機嫌ですか?」
「ん? うん。さかにゃんがめっちゃ働いてんの、珍しくてウケるから」
「あ、はは……」
やはりルイにゃんさん、かなりの曲者の気配。
「ところで。さかにゃんさ、なんかいつもより元気なさそうに見えるけど、コタローくんなにか知ってる?」
「? いえ。忙しいからじゃないんですか?」
「うーん。それだけじゃない気がするんだけど……。まあ、また話聞いたげてよ」
「は、はい」
その役は、同僚のルイにゃんさんではなく僕なんかでいいのだろうか。
まあ、榊さんの様子は注意深く観察しておくことにしよう。
食器を洗いながら会話をする僕を見て、ルイにゃんさんが感嘆の息を吐く。
「頑張ってんねー。ボクは皿割りまくるから食器洗いさせてもらえないんだよ」
「あ、そうなんですか?」
「入りたての頃、皿割りまくって同僚にドン引きされた。店長は爆笑してたけど」
この人、ドジっ子属性もあるのか……。あざといな。
「でも、配膳は大丈夫なんですか?」
「たまに割っちゃう」
「えぇ……」
「ボクが皿割ると客が喜ぶから、配膳は店長にオーケーされてる」
「……」
お客さんも唐木田さんも、個性的なキャストに寛容だな。
むしろ、そこを楽しんでいるまでありそうだ。
「ちなみに、落ちた料理はスタッフ(ボク)が美味しくいただいてるから安心して」
「逆に心配ですよ」
衛生的な意味で。
「だいじょぶ、だいじょぶ。さすがに床に付いた部分は捨ててるから」
「もし、僕もその場面に居合わせたら、食べるの手伝いますよ」
「お。せんきゅー」
ルイにゃんさんは、食器を置いてもすぐには去ろうとせず、しばらく僕の作業をじっと見つめていた。
綺麗な顔に観察され、僕はたじろいでしまう。
今更だが、『メイドを舐めるにゃ!』のメイドさんって皆、顔面偏差値高いよな。メイド喫茶だからビジュアルが大事なのはなんとなくわかるのだが、それにしても、だ。
榊さんを筆頭に、ルイにゃんさんも、まりにゃんさんも、その他のキャストの方も、全員美人さんだ。
もしかして唐木田さん、完全顔採用してる……?
だとすれば……。かなり──いや、少し抜けた所や変な所のあるさかにゃんやルイにゃんさんが今も活躍し続けていることにも納得がいくが。
ま、まさかな。
「ところでさ~。コタローくん」
「はい」
ルイにゃんさんは、無表情のまま僕の耳に口を近づけてくる。
そして、小さなリップ音が耳で弾けた。
ゾクリとした感覚に僕が体を震わせたのも束の間。
ルイにゃんさんが、湿り気のある声でこう囁いた。
「──コタローくんのジャージメイド、かなりエロかったよ」
「ゴホっ……!」
思わず、皿がすっぽ抜けてしまいそうになった。
ルイにゃんさんを見ると、小悪魔的な微笑がこちらを覗いていた。
「ちょ、ちょっと待って! ど、どこでそれを!?」
「ん? さかにゃんの待ち受けがチラ見えしただけ」
「……」
やっぱ、待ち受け変えてもらおうかな。
もう遅い気もするけど。色々。
ルイにゃんさんは、興味深そうな瞳でこんなことを訊いてくる。
「やっぱ、もうえっちしてるんだ?」
「してないですよ!?」
なんであの画像を見ただけで、えっち済み判定になるんだ!?
「やっぱりあれは、プレイの一環なの?」
「違いますし、してないですって!」
「無理やり着せられて、襲われて。……『女の子になっちゃう~~』みたいな?」
「違いますから!」
「ふ~~~ん」
「しかもなんで僕、襲われてる前提なんです!?」
「コタローくんは、なんとなく総受けっぽいなーって」
「そんなこと──」
……。
クソっ! そんなことないと言い切れない自分が情けない……ッ!
ニヤニヤと嗜虐的に笑いながら、ルイにゃんさんは僕の傍からはなれた。
この人、この感じで下世話な話ばっかりするの本当になんなんだよ。
「おーい。ルイにゃん。さっさとホール戻れって」
厨房の奥から現れた唐木田さんが、ルイにゃんさんを注意してくれた。
「は~い」
語尾にハートマークでもついていそうな甘い声を出しながら、ルイにゃんさんは厨房を出ていった。
……まったく。
食えない人だ。




