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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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メイド服着て、接客

 現在の時刻は十二時前。


 春にしては少し強く感じる日光に体を焼かれながら、僕は駅に向かって一心不乱に足を動かしていた。


 行き先は勿論、(さかき)さんが働くメイド喫茶。

 走りながら榊さんに電話をかけるが、彼女は一切応答してくれない。仕事で出られないだけならいいのだが……。


『──助けてくれ』

 榊さんのたった一言のLINEが僕の頭の中にずっと鎮座している。


 恐らく……いや、絶対。……絶対、しょうもないことだろうなとは思う。

 仕事が忙しいとか、仕事が面倒だとか、変な客がきたとか。きっと、そんなこと。

 だからあのLINEも、そのストレス解消とかで適当に僕に送ってきただけに違いない。


 しかし、助けてくれ以外の文言が一つもないことが気にかかる。


 もしかしたら、本当に危険な事件に巻き込まれている可能性だってあるだろう。


 電車に乗る前に、メイド喫茶に電話してみるか? 今日、さかにゃんはちゃんと出勤していますか? そう訊けば、榊さんの安否確認ができる。

 ……いや、なんだよその客。ちょっとキモくないか?


 クソ。まりにゃんさんとルイにゃんさんに、連絡先でも聞いておくべきだったか?

 いや、それはそれでキモすぎるな。


 駄目だ。榊さんが関係すると、凄くキモくなってしまうのが僕の悪い所だ。

 ……だが、キモ男はキモ男なりにキモく頑張らせてもらおう。


 錦糸町駅に滑りこみ、僕は秋葉へ向かう電車に飛び込んだ。


   〇


 秋葉のとある雑居ビルの四階にて、榊さんが働くメイド喫茶、『メイドを(にゃ)めるにゃ!』は営業している。


 階段で急いで四階に向かったが、僕は店の入り口に辿り着くことができなかった。

 なぜなら、入り口から階段に向かって小さな列ができていたからだ。


 日曜日だからというのもあるのだろう。だが、僕が今まで訪れたなかでここまでの行列を見たのは初めてだ。


 僕は今日、メイド喫茶に遊びにきたわけではない。榊さんの安否を確認しにきただけだ。

 だから、この列に並ぶべきなのかどうなのか迷っていたのだが……。


 唐突に、アニメ声が上から降ってきた。

「あー! こうにゃんだ!」

「こ、こうにゃん?」

 階段の上から聞こえたその声は、どこかで聞き覚えがあった。


 ピンクのツインテールを揺らしながら僕の元まで歩いてきたのは……。

「こうにゃん! 助かったにゃ!」

 榊さんの同僚、まりにゃんさんであった。

 彼女はどうやら、この列を一人でさばいているらしい。


「た、助かったってなんです?」

「ん? 手伝いにきてくれたにゃんよね?」

 メイド喫茶の手伝いを? 僕が?


「そんなこと一言も言ってませんし、僕はなにも聞いてないですよ?」

「え? でも、さかにゃんが、こうにゃんがもうすぐ手伝いにきてくれるって言ってたにゃんよ?」

「えぇ……?」

 なに勝手なこと言ってるんだ? あの人。


 しかし、これで一応榊さんの無事は判明したことになる。

 無事……なんだよな? 


「さかき……さかにゃんは無事なんですね?」

「んー、無事といえば無事! ちょっと忙殺されかかってるけどにゃあ」

 そう言うまりにゃんさんはいつも通り元気いっぱいだが、顔には隠し切れない疲れが見え隠れしている。


 なんとなく、今のこのお店と僕の状況がわかってきた。


 いつもよりお客さんが多いのはたぶん、榊さんのバズが関係しているのだろう。

 この店はかなりアクセスがいいから、あのツイートを見て気になった人が榊さんを一目見ようと押し寄せたというところか。


 それで、想定外の客の多さに、キャストや従業員の手が回らなくなっているのだろう。


 で、榊さんは僕に助けを求めた、と。

 LINEが一行だったのは、忙しすぎたから? それとも、僕なら察してくれると思ったから?

 答えはわからないが、一つだけ気になることがある。


 どうして僕なんかに助けを求めた?


 ──ギィ。


 不意に、店の入り口が開いた。


 そこから現れたのは。

 

 僕が一番見慣れたメイドさんの姿。

 榊さんだ。


 榊さんは、お客さんの列にざっと目線を走らせ、すぐに僕を見つけた。


 人込みの中、なんの障害を介すことなく僕らの視線が交わった。 


 その瞬間、僕の心臓が激しく跳ねた。

 まるで、榊さんに二度目の恋をしてしまったたみたいに。


 急いでここまできたのか、忙しすぎて走り回っているのかはわからないが、榊さんのヘッドドレスは少し前にずれ、髪も暴れている。

 そしてその表情には、いつもの余裕は存在しなかった。


 時の人の登場に、順番待ちをしていたお客さんたちから、「おお」といった声が漏れた。


 そんなお客さんには目もくれず、榊さんは一直線に僕の元へと近づいてきた。


「あんがと。お前ならきてくれると思ってた」

 彼女は僕の手を掴み、ずんずんと階段を上がっていく。


「ちょ、あのLINEだけじゃなんもわからないんですけど!?」

「あー。説明が面倒だったから。スマン。……でも、お前はきてくれた」

「いや、そりゃきますけど……」

 相変わらず、めちゃくちゃすぎる。


「僕になにをさせるつもりですか?」

「メイド服着て、接客」

「はいっ!?」

 正気か、この人!?


「無理です!」

「ふは。冗談」

 榊さんの表情に、少しだけ余裕が生まれたように感じた。


「あたしのせいで急に客増えすぎて、皆まいってんだ。……んで、お前、飲食経験あるって言ってただろ。だから裏で皿洗いとか簡単な料理とか作ってくれないか? 店長には許可とってあるし、ちゃんと金も出るから」

「! ……そんなの──」


 疲れ切った榊さんが、僕を頼ってくれている。


 ……僕の心に、炎が灯る音がした。


「任せてくださいよ」

「ああ。任せた」


 背中に走る強い衝撃。

 榊さんが、僕の背を強く叩いたのだ。


 距離感の近い僕らに、列に並ぶお客さんからの野次馬的視線が飛んでくるのが気になるが……。


 榊さんは、そんな彼らにあっけらかんとこう言ってのける。

「こいつはただの臨時従業員。かわいいだろ。あとでジャージメイド着せてホール立たせるから、声かけてやってくれ」

「変な約束しないでください!」


 榊さんの提案に、数人から「おお~」という声があがった。

 マジで変な客しかいないのか、ここは!?


「ちなみに、こいつ女の子」

「違いますからね!?」

「「「おお~」」」

「おお~、じゃないッ!」


「嘘。男の娘」

「「「おおお~」」」

「……。いやもう、なんでもいいや……」


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