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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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勝手に匂わせときゃいいんだよ

 新たなネタツイを投下しただけでは、さかにゃんがあのバズツイの被写体であるということを信じてくれる人は出てこなかった。当たり前だ。


 その代わり。


『もうあんたがメイドさんでいいよ』

『もっとネタツイしてください』

『なんでメイドのアカウントで変なことばっかり言ってるんですか?』


 等々(などなど)(さかき)さんの最新ネタツイには比較的好意的な意見が多く寄せられていた。至極真っ当なマジレスも混ざっているが。


「なんか証拠とか出した方がいいのか? これ」

 首をひねりながら、榊さんが僕に目線を寄こす。


「どうでしょうね。というか、メイド喫茶のホームページ飛んだら榊さんだってことわかりませんかね?」

 さかにゃんのbioには一応、所属メイド喫茶のリンクが張ってあるのだ。そこには、キャストの情報も載っている。


「まー、気になってるやつはそこまで辿り着いてるんだろうけど。それを知った上でこのアカウントが本当にあの写真のメイドが運営してるのか、疑ってんじゃねぇの?」

「ああ……」

 まあ、ネタツイばっかしてたらそれはそうなる。


「なんかこれ以上詮索されんのも面倒だし、顔出しでもするか」

「マジすか?」

「ああ。別に減るもんでもねぇし。あたしに肖像権なんてねぇから」

「なんなんだよその自認」

 あるだろ。肖像権。


 榊さんは、無言でスマホを僕に手渡してきた。


「つーわけで、適当に撮ってくれ。顔面アップの方がわかりやすいか? メイドだってわかるように、ヘッドドレスは映るくらいで頼むわ」

「僕が撮るんですか?」

「撮ってくれる人間がいンのになんで自撮りしなきゃいけねぇんだよ。メンドい」

「いいですけど。……その」

 これって、いわゆる……。


「なんだよ?」

「に、匂わせ……みたいになりません?」

「……ふっ」

 あ、普通に鼻で笑われた。恥ずかしい。


「ならないだろ、こんくらいで。引きならともかく、バストアップなら他撮りと思うやつもあんまいないだろうし。……あと」

「あと?」


 榊さんの手が、僕の(あご)に伸びる。彼女は僕に顎クイをしながら不敵に微笑んでみせた。

「匂いたいやつは、勝手に匂わせときゃいいんだよ」

「榊さん……」


 顔のよさとイケメンな所作にトキメキかけたが、よく考えれば台詞は全く意味がわからなかった。


   〇


 とりあえず、榊さんのバストアップの写真を何枚か撮った。


 ほとんど証明写真みたいな写真が一枚。真顔ピースの写真が一枚。真顔で煙草をくわえる写真が一枚。その他も、全部真顔だ。


「榊さんって、全然笑いませんよね」

「ん? お前といるときは結構笑うだろ」

「……ノロケてますか?」

「は? 違うけど。キモ」

 普通に(さげす)まれてしまった。助かります。


「で、なんてツイートするんですか?」

「そだなー。普通に写真貼るだけじゃ証明になんねぇよな?」

「別にそれでいいんじゃないですか? 写真と一緒に、お店きてください、とか書いておけば」


「んー」

 呟きながら、榊さんはスマホをタップしている。


「しといた」

「速っ」


 僕は、急いでさかにゃんのアカウントを確認する。

 するとそこには、煙草をくわえた真顔の榊さんの写真とともに、一言こう添えられていた。


『敵の所有物を奪うタイプの殺し屋がヤニカスメイドを殺した後』


「いや、ネタツイじゃねぇか」

「よくわかったな」

「よくわかったな、じゃねぇよ」


 一見わかり辛いが、この写真の中の榊さんはメイドではなく、殺し屋という設定のネタツイなのだろう。


「なんでネタツイしてんスか。しかもなんか、視点変えたりして高度なことしてるし」

「あー。やっぱもっとわかりやすい方がいいよなぁ」

「そういう問題じゃねぇよ」

 なんでこの人はかたくなにネタツイしかしないんだよ。


 しかしそのツイートの反応を見る限り、ほとんどの人がさかにゃんとバズツイのメイドさんを同一人物だと認識してくれたようだ。

 ネタツイはともかく、今撮った写真はどこからどう見てもあのバズツイのメイドさんだもんなぁ。


 それからも榊さんは、自分の顔写真を使ってネタツイを続けていた。

 この人、ネタツイだけめちゃくちゃやる気があるの、なんなんだよ。


   〇


 榊さんがバズった翌日。つまり、日曜日。


 榊さんはその日、仕事で朝から家にいなかった。

 彼女がいないこの家は、とても静かだ。変な話をしていないから。

 その静寂に一抹(いちまつ)の寂しさを感じながらも、僕は一人でぼけっとした顔で過ごしていた。


   〇


 大喜利サイトでいくつかのお題に解答して時間を潰していると、いつの間にか昼時になっていた。


 昨日の夜はカップラーメンを食べたから、今日はなにかを作ろうかな。そんなことを考えながら重い腰を上げると。


「ん?」

 スマホに通知があった。

 榊さんからのLINEだ。


 スマホの画面にはこう書かれてあった。


『助けてくれ』


「……は?」


 気付いたら、僕は家を飛び出していた。


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