あたしがもしインナーカラー入れたらさすがにTwitterすぎるか?
夜になる頃には、我藤さんが完全につぶれてダウンしてしまった。
「おーい。ガトさん」
榊さんは、床で爆睡する我藤さんの頬をぺちぺちと叩いている。
「ガトさん。明日仕事スか? 休みスか?」
「……ち、筑前煮」
「夢で煮られてんスか?」
「あ、ふふ。よーこさんなら、わたしがタクシーで家まで送るから、大丈夫」
「ホントか? 頼んでいいか?」
「うん。その足でわたしも帰るねぇ」
「ガトさんを襲ったりしないよな?」
「ふふ。推しにそんなこと、しないよぉ」
「ま、お前ならそうか」
ということで、我藤さんの送迎は舞姫さんが行ってくれることになった。
〇
約十分後。舞姫さんが呼んだタクシーがアパートに到着。
僕らは、三人がかりでぐでんぐでんの我藤さんをなんとかタクシーに詰め込んだのだった。
「あ、有馬くん……」
座席の中でうなだれながら、我藤さんが白い顔を僕に向ける。
「今日は、ありがとうな。榊のこと、よろしゅう」
「はい。また遊びましょう」
「グッドラック」
弱々しく親指を立て、我藤さんは再び眠りについてしまった。
「またくるねぇ。……終わりの黄昏が昇る切る前に、死なないでね。……ふひゅ」
我藤さんの隣に座った舞姫さんは、最後に雨・カナリアモードでよくわからないことを言ってから、ふにゃりと頬を持ち上げていた。
タクシーの運転手さんがいるというのに、さすがのメンタリティだ。
「またなー」
「またきてくださいね」
僕と榊さんは二人並んで、去りゆくタクシーに手を振った。
排気音が完全に聞こえなくなる頃を見計らい、榊さんが手を下ろしてぽつりと言葉を漏らす。
「すまん。騒がしかったか?」
僕は、笑顔で首を横に振る。
「楽しかったですよ」
〇
たっぷりと遊んで疲れたあとでなにか料理をする気にはなれず、僕らは夕食にカップラーメンとカット野菜を食べた。
麺をすすりながら、榊さんのバズツイートに関して触れるかどうか迷っていると。
「なあ」
「はい」
「あたしがもしインナーカラー入れたらさすがにTwitterすぎるか?」
「は?」
榊さんの話題の振り方は、いつも唐突すぎだ。
というか、榊さんがたまに言うTwitterすぎるってなんなんだよ。
「えっと、その発言は今日Twitterでバズったこととなにか関係していますか?」
もうこうなったら、自分から触れるしかないではないか。
「もっとバズりたいとか、ですか?」
「いや? 言ってみただけ。そろそろイメチェンの時期かなと思って」
こともなげに言う榊さん。
「公太郎も、あたしの容姿なんか飽きてくるだろ。美人は三日でなんとやらだ──」
「いや、全然飽きませんよ」
「食い気味コワ」
「でも、榊さんのインナーカラーはちょっと見てみたいですね」
「お前はホントTwitterが好きだよな」
「それはあんただろ」
榊さんの言うTwitterすぎるというのはたぶん、Twitterでよく見かけるとか、Twitterで人気が出そうとか、そういう意味なのだろう。
インナーカラー、Twitterで人気だもんな。
……いや、これ偏見だな。
「お前、インナーカラー好きなのか?」
榊さんは、自分の横髪を一房掴みながら視線を寄こしてくる。
「どっちかというと好きかも……? かわいいですよね。メッシュとかも」
「ふーん。じゃあ、入れてみてもいいかもなぁ」
「マジですか!? ちょっと一旦、想像してみますね」
「断り入れるの、理性のある化け物みたいで怖いな」
脳内で、インナーカラーを入れた榊さんを想像する。
青や紺や紫などの寒色は勿論似合うが、ビビッドなピンクやオレンジも新たな榊さんの魅力を引き出してくれそうだ。
……。
しかし、想像してみて改めてわかったが、煙草を吸う顔のいいメイド服を着た榊さんがインナーカラーを入れてると、さすがに……。
「ちょっと、Twitterすぎるかもしれませんね」
「だろ」
自分で言っておいてあれだが、別にTwitterすぎてもいいだろ。
「今よりも、もっとバズる可能性はありますけどね」
「だから、別にバズとかどうでもいいから」
榊さんが、カップラーメンのスープを一口飲んでから、続ける。
「てかさ。バズるって言葉が嫌すぎて代わりの言葉考えたんだけど、聞くか?」
「はい」
「爆ぜる」
「炎上のときにしか使えないだろ」
僕たちは、榊さんのバズのことは一旦忘れていつものようなどうでもいい話を続けていた。
なんだか、日常が戻ってきたようで安心する。
そう思っていたのだが──。
「ん?」
榊さんが、自身のスマホを見て顔をしかめた。
「どうしたんです? ネタツイに、そのネタツイを少し改変したネタツイリプでもきました?」
「いや……」
榊さんは、床に両手を置いて嘆息した。
「めっちゃフォロワー増えてる……」
「え」
──こちらがバズを忘れても、バズはこちらを忘れてはくれないものなのだろう。




