全身Twitter人間の榊さん
榊さんがバズった。
それはつまり、榊さんがバズったということである。
「榊さんがバズってる!?」
舞姫さんが見つけた該当ポス……。
──ツイートな。
やべ。僕の脳内の榊さんに訂正されてしまった。
該当ツイートを自分のスマホでも確認し、僕はリアルに腰を抜かしてしまった。
「うわ、榊さんが本当にバズってる!」
「うるさいな。あたしがバズったくらいで」
僕は起き上がりながら、真顔の榊さんに向かって顔を近づけた。
「なんでそんな冷静なんてすか!?」
「いや、バズるだろ。顔の良いメイドが煙草吸ってたら。カレーにチーズハンバーグ乗っけて食ってるようなモンなんだから」
「なにその例え!?」
自分が凄い勢いで拡散されているのに、ここまで冷静な人間って存在していいのか?
「もしかして、榊さんってバズったことあるんですか?」
「ねぇよ。あたしが知らんところではあんのかもしんねぇけど」
「榊さんなら全てのバズツイートを目にしたことがありそうなので、それはないんじゃないですか?」
「ああ、確かに」
「確かにじゃねぇよ」
全身Twitter人間の榊さんでもさすがにそれはありえないだろ。
「てか、バズバズうるせぇな。あたし、バズるって言葉そんな好きじゃねンだよ。なんだよ、バズるって。言ってて恥ずかしくないのか?」
「いや、あんた前バズらせといてくれとか自分で言ってただろ」
「お前、あたしの発言いちいち覚えてんのか……?」
ゾッとしたような表情で僕を見る榊さん。
あれ? 今は僕が引かれるターンではなくないか?
まあいい。とりあえず、改めて該当ツイートに貼られた画像を確認しよう。
ツイート内容は、無言でただ榊さんの写真を貼っているだけの簡素なものだ。
写真の中の榊さんは、屈んでただ煙草を吸っているだけ。
よってこのバズは、メイドさんが煙草を吸うというキラーコンテンツ力と、榊さんの顔面力によって引き起こされたものだと推察される。
おお。よく見ると、いつの間にかいいねが万を超えているではないか。
「ん?」
僕は、写真の背景を睨みながら微かに首をかしげる。
この場所……あまりにも見覚えがありすぎる。
榊さんの背景に映っているこの建物、僕が通う大学の校舎だよな?
「榊さん。この写真……」
「ああ」
榊さんは、自分のスマホを眺めながら小さく首肯した。
「あたしが公太郎の大学いったときのやつだろ」
僕と飛野さんと、二人の男子大学生で勝手に榊さんの撮影会を行ったときの写真か。
「じゃあ、この投稿をしてくれたのって」
「お前と叶と、もう二人の大学生の内の誰かだろ」
飛野さんは、僕と同じで自分だけで楽しむタイプだろう。だから、自分から榊さんの写真を発信したりはしないはず。
そして勿論、この投稿者は僕でもない。
つまり、あの日一緒に写真を撮った男子大学生のうちのどちらかが、榊さんの写真を投稿してくれたのだろう。
彼らが、榊さんの「バズらせてくれ」という旨の言葉を受けて投稿したのかどうかはわからないが。
怖いもの見たさで、そのツイートに関する反応に目を通してみる。
リプ欄や引用リツイートには、好意的な意見ばかりが寄せられていた。
『かわいい』
『顔面国宝』
『(心臓を押さえている画像)』
『すこ』
『(「保存しました」と書かれた紙を持つアニメキャラの画像)』
『注文きたら舌打ちしてそうで好き』
『(バラを投げつけてくる画像)』
『逆にお世話してあげたい』
『シンプルに踏んでほしい』
『あなたの灰皿になりたい』
変態的なコメントも混ざっているが、大体はTwitter特有の感情を誇張したリプであろう。
よかった。とにかく嫌な広がり方ではなさそうだ。……今のところは。
というか、榊さんはともかく我藤さんと舞姫さんが静かすぎる。
「あ、あの。皆さん落ち着きすぎじゃないですかね?」
「ん? そりゃあ榊は顔ええし。逆に、やっとかーっ、て感じ?」
「わ、わたしも最初はびっくりしちゃったけど、よく考えればやしろちゃんなら当たり前だよねぇって思って……」
「た、確かに……」
その落ち着きからは、二人の榊さんとの繋がりの長さを感じさせられる。
二人の意見を聞き、僕は改めて榊さんの顔面を拝む。
「ンだよ」
厭世的でダウナーな彼女の瞳が僕を射た。
榊さんの顔には、神が手ずからデザインしたかのような調和の取れたパーツ群が並んでいる。
時代が時代なら、顔だけで国一つを傾かせていたかもしれない。
僕が国主だったら、国全部あげちゃうもんな。
……うん。まあ、バズるか。
「顔面バズバズ女……」
「質の低い都市伝説みたいに呼ぶな」
ということで、僕たちはそれから榊さんのバズツイートに触れることはなかった。
先ほど同様、どうでもいい話をしながらお菓子を食べたりお酒やジュースを飲み始める。
あまりにも身内がバズったときの反応じゃなさすぎるだろ。
「あ、そうだ」
言いながら、榊さんが眉を上げた。なにかを思いついたときの顔だ。
「酒混ぜるとき、マドラーの代わりに煙草使ったらどっちにも味染みて美味くなりそうだな」
「なるわけないだろ」
突っ込みながら僕は、バズツイで榊さんを知った人たちが彼女の本性を知ればどんな反応をするのか考えてみた。
……うん。なんか、更にバズりそう。
榊さんはまだ、第二第三のバズを残しているのかもしれない。




