ジュンチャンタイヤオチュー
なんやかんやあったが、やっと麻雀が始まった。
僕以外の三人は、それぞれ日本酒やビールやチューハイをぐびりといきながら牌を睨んでいる。
酒盛りが始まってから麻雀開始までに、既に二時間近くは経っている。
それが関係しているかどうかはわからないが、既に我藤さんは少しふにゃふにゃしていた。
「なんでウチみたいな借金カスが生きとんのやろ……。誰か殺してくれや」
我藤さんは、酔うと少しネガティブになるタイプのようだ。かわいい。
酒の強さの序列は、上から榊さん、舞姫さん、我藤さんといった感じだろうか。
「ガトさん。今日はホントになんも賭けなくいいんスね?」
「ええねん、ええねん。今日は有馬くんも混ざってくれとるし」
「ふひ。よーこさん、お金に困ってるならわたしが貢ぎますからねぇ……」
「悪魔の囁きやめーや!」
僕以外の三人は、特に悩むこともなく牌を切っていく。
結果、僕の番が回ってくる度に三人を待たせることになってしまうのだが、彼女たちは温かく僕を見守ってくれていた。
「有馬くん、ホンマええ子やなぁ。ウチらのために、こない健気に勉強してくれて……」
我藤さんは、麻雀本を片手に牌を睨む僕を見ながら、腕を組んで大仰に頷いていた。
〇
麻雀は、牌という様々な絵柄が書かれた持ち札のようなものを集めていくゲームだ。
基本ルールは、三枚一組のグループを四つと、二枚一組のグループを一つ集められればいいらしい。
三枚のグループは、例えば、一、二、三と数字が並んだり、一、一、一と同じ数字や絵柄が揃えば一つの組となる。これをメンツと呼ぶ。
対して二枚のグループは、同じ絵柄の牌を二枚揃えるだけ。これを、アタマと呼ぶ。
これの組み合わせで色々と点数の高い『役』というものがついていくらしいのだが、闇雲に揃えても役が揃わず点が付かないらしい。難しすぎるだろ、麻雀。
だから僕は、『リーチ』を目指す。自分の持ち点を担保にしてリーチを行えば、役が揃っていなくてもアガリ一歩手前の状態になることができるのだ。
しかしこれは、相手にもうすぐ自分はアガリますよと宣言するようなもの。当然、警戒はされるだろう。
「あ、ガトさん、それロン」
「ぐぇっ!?」
我藤さんの切った牌で、榊さんがアガった。
「ってお前、安っ!? タンヤオだけかいな!?」
「国士狙ってんのバレバレだったんで、速めにアガらせてもらいました」
「クソ~~~。もーちょいで13面待ちやったのに! 慰めて~や舞姫〜〜」
「ふひゅ。情けないよーこさんも、かわいい……」
舞姫さんは、我藤さんの頭を優しく撫でていた。
次のゲームでは、舞姫さんがツモアガリした。
彼女はキリリと顔を引き締め、雨・カナリアモードに入る。
「ツモよ。ジュンチャンタイヤオチュー」
「マジか! てか、ジュンチャンでええやろ! いちいちかっこつけんでええねん!」
舞姫さんの顔がふにゃりと崩れる。
「……ふひ。ジュンチャンだとかっこよくないですからぁ」
ゲームを続けていると、だんだんと各々のプレイスタイルがわかってきた。
我藤さんは、役満──点の高い大きな役を狙いにいくロマン打ち。
舞姫さんは、自分の好きな役を揃えにいくこだわりタイプ。名前がかっこいい役が好きらしい。さすがはエセ……おっと。さすがは中二病。
そして榊さんは、対戦相手やその場の状況で打ち方を変える、非常に柔軟で冷静なプレイヤーであった。
榊さんこそ大きな役を狙いにいく人かと思ってたんだけどな……。
三人はいつもなにかを賭けているようだから、榊さんには本気で勝ちにいく癖が付いているのだろうか。
雀力の序列は、榊さんが一番上で、我藤さんと舞姫さんが同じくらい、そして、一番下が僕といったところだろう。
そしてやっと、僕の手牌がアガリ一歩手前の状態となった。これをテンパイというようだ。
今のところこれといった役はないが、ここでリーチをすれば役がひとつ付くようになる。
「リーチ、してみます」
点棒を使用し、僕はリーチを宣言する。
僕のアガリ牌は、数字の一が書かれた牌である。
ツモ番がどんどんと回っていくが、誰もアガらず、その捨て牌に僕のアガリ牌はなかった。
そして、再び僕の番が回ってくる。
生唾を飲み込みながら、山に手を伸ばす。
僕がツモった牌は。
「……!」
萬子の一。
僕のアガリ牌であった。
「あ、ツモ……。ですかね?」
僕の手牌を公開すると、左隣の榊さんが確認してくれた。
「ああ、ちゃんと揃ってる。それに、一発も付くな」
「一発?」
「リーチした一巡目にアガると付く役だ」
なるほど。よくわからないが、これで普通のリーチよりも少し点が高くなるらしい。
とにもかくにも、初めてのアガリはとても爽快であった。
ちなみに、今回の麻雀で僕がアガったのは、このリーチ一発のみであった。
麻雀、難しいな……。




