有馬くん的に、ウチら三人のなかやったら誰が一番駄目女ポイント高いんや?
麻雀を始める前に、酒盛りが始まってしまった。
時刻はまだ、十三時くらい。
榊さんならまだわかるのだが、我藤さんも舞姫さんもかなりの酒豪なのだろうか?
「お二人もお酒、お強いんですか?」
我藤さんと舞姫さんに向かって言うと、舞姫さんがかぶりを振った。
「わたしは、二人の付き合いで飲んでるだけだよぉ」
「よー言うわ。榊の半分は飲めるくせに。コイツ、ウチより全然強いねんで?」
やれやれと息を吐く我藤さん。
榊さんの半分?
つまり、舞姫さんは榊さんの許容アルコール量の半分は飲める、ということだろうか。
規格外の榊さんを引き合いに出されると凄くわかり辛いが、かなり強いということはわかる。
「結構意外かもです」
「あ、ふふ……。中二を晒して滑ったときの空気を忘れるために飲んでたら、習慣化しちゃって……。ヤケになって飲んじゃうんだぁ」
舞姫さんがヤケ酒をしている場面を想像してみたが、僕的にかなりグッときてしまった。
「なんか、いいですね」
「えぇー。そうかなぁ……? こーたろーくん、なんでも肯定してくれるねぇ。わたし、駄目になっちゃいそう」
「舞姫、騙されんなよ。コイツ、お前の駄目女ポイントに興奮してるだけだぞ?」
真顔の榊さんにしれっと僕の性癖をバラされてしまった。
本当にやめてくれ。
「ほへぇ! 有馬くん、駄目女好きなんか! ええ趣味しとるやんか!」
自分で言うのもあれだが、どこがだよ。
「ふひゅ。わたしもかなり駄目駄目だから、こーたろーくんに好かれちゃうねぇ……」
冗談めかして、自身の頬に手を当てる舞姫さん。
「やべぇ。やっぱこのメンツは公太郎のための駄目女バイキングでしかなかったな」
「駄目女バイキングってなんだよ」
「なあなあ、有馬くん!」
「は、はい。なんでしょう?」
我藤さんは、なぜだかわからないが期待に満ちた目を僕に向けてきた。
「有馬くん的に、ウチら三人のなかやったら誰が一番駄目女ポイント高いんや?」
「だ、駄目女ポイント、ですか……?」
呟いてはみたが、自分でも驚くほど悩まなかった。
考えるまでもなく、すぐに一人の顔が思い浮かぶ。
「そりゃあもう、榊さんです」
「──んッ」
僕が言った瞬間、榊さんは小さく声を漏らして俯いてしまう。
「どしたん、榊?」
にゅっと首を伸ばし、我藤さんが榊さんの表情を確認していた。
そして、我藤さんの表情が邪悪に歪む。
「わは! こいつ、めっちゃニヤついとんで!」
「ニヤついてません」
「ぐへっ」
我藤さんの横腹に、榊さんの小突きが炸裂した。
そんな僕たち三人のやり取りを見ながら、舞姫さんはなにかを理解したかのような顔で何度も頷いていた。
そして彼女は眼帯の付いた右目を手で押さえながら。
「なるほどね。大体わかったわ。まあ、未来を見通す我の魔眼には既にお見通しだったけれどね」
中二モードって急に入るときもあるんだ。
「ふひゅ」
あ、一瞬で終了した。
というか、なにがわかったというのだろう。
まあ、ただの意味深な中二発言かもしれないが。
「ほーん? やっぱ榊が一番かぁ。なんや順当すぎてつまらんなぁ」
「いや、でも。僕はまだ我藤さんと舞姫さんの駄目ポイントをあまり知らないので、これから逆転する可能性は全然ありますよ」
逆転したところで、僕が好きなのは榊さんに変わりはないけれど。
「ウチの駄目ポイント、なんかあるかなぁ……? 舞姫に借りた金で馬券買って全部消えたことはあるけど」
ググっ。
僕の中の、我藤さんの駄目女ゲージが上昇する音がした。
というかこの人、榊さんにだけでなく舞姫さんにもお金借りてるのかよ。そのうち、僕にも金貸してとか言ってきそうだ。
──有馬くん。ホンマごめ~~ん。悪いんやけど、金貸してくれへんかなぁ?
……。
脳内で、僕にお金を借りる我藤さんを想像してみたが、かなりいい。これは、いくらでもお金を貸してしまいそうだ。
「……キモ」
そんな妄想をしていると、榊さんに罵倒されてしまった。たぶん、僕がニヤついてしまっていたからだろう。これは確かに自分でもキモいと思う。
「わ、わたしもなにか、駄目女ポイントあるかなぁ……?」
「エセ中二病以外だったら、ガトさんにめっちゃ貢いでるところとかじゃねぇ?」
エセ中二病て。
「貢ぐって……。そんなにお金を貸してるんですか?」
「あ、ふひゅ。貸したり、あげたり……」
「あげてるんですか!? どうしてです?」
「あ、ふ、ビジュが」
「ビ、ビジュ?」
舞姫さんはとろけるような笑みを浮かべる。
「よーこさん、ビジュがいいから貢いじゃうの……。わたしの、推し……」
「……」
なんかこの人、凄いシンパシーを感じるな。
「ちょい売れした本の最初の重版分は、全部よーこさんにあげたよぉ」
「全部!?」
ググっ。
あ。僕の中の舞姫さんの駄目女ゲージが上昇してしまった。
「あ、ふひ。そんな部数刷ってないから、全然あれだけどねぇ……」
どんな顔でこの話を聞いているのかと思い、我藤さんを見ると。
彼女は、「わはは」と、カラっとした笑顔で笑っていた。
わははじゃねぇよ。
「あ、ちなみに、やしろちゃんにもお金あげてる。やしろちゃんのビジュも好きだから……」
「榊さんにも!?」
榊さんは、ふいっと僕から顔を逸らした。
同年代の友達からお金をもらうのは、かなり駄目ポイントが高い。
ググっ。
僕の中の、榊さんの駄目女ゲージが上昇した。
「いや、あたしはちゃんと金もらったぶんのリターンは返してっから」
「あ、そうなんですか」
「ああ。舞姫の好きなキャラのコスプレ衣装着たり」
「へぇ」
「んで、そのキャラでちょっとエロいポーズとか恰好したり」
「……」
いや、あなたたち、どんな関係?
「ちなみに、ウチはなんもリターンしてへんし、全然金返してへんで! わはは!」
高らかに笑ったあと、我藤さんの笑顔は急にしおしおと枯れていった。
「ご、ごめんなぁ、舞姫……。今度、お前の好きな男キャラの男装したるからぁ……」
「あ、ふへ。推しの曇らせ、良い……。あと、言質取りましたからねぇ」
舞姫さんは、しょんぼりとした我藤さんの姿をスマホに収めていた。
「いや、この人が約束守ったことねぇだろ」
「ふひ。そんなところも、いい……」
「その分あたしはなんでもエロい衣装着てやるから、また金貸してくんね?」
「あ、ふふ。勿論……」
「ウチも着る! ウチもエロい衣装着るって~~~! ショタでもイケメンでもなんでもやるから許してやぁ~~~」
……。
なんというか……。
僕にとっての桃源郷だな、ここは。
にちゃりとした気持ちの悪い笑顔を浮かべていると、榊さんがいつもの冷めた目線をこちらに投げてきた。
だから僕は。
「キ──」
「キモくてスミマセン……」
以前使った、キモさの牽制スキルを使用した。
結果、榊さんは更なる氷点下の視線を僕に飛ばしてきた。
助かります。




