面食いカス……
舞姫さんは、僕の手を握ったままじっと僕の顔に視線を注いでくる。
「……ん? んん? こーたろーくんって……」
「な、なんでしょう?」
眼帯でわかりにくいが、舞姫さんの表情は、僕への興味から僕への疑念を含んだものに移り変わっていく。そして最後は確信したとでも言わんばかりに、大きく眉を上げた。
なんなんだ?
そして彼女は、まるで祈るかのように僕の右手を両手で包み込んだ。
「もしかして、生まれ変わり……?」
な、なんの……?
現在の舞姫さんの表情と声はふにゃふにゃとしているから、雨・カナリアの中二モード発言ではないのだろう。
いや、中二状態じゃないのになんでそんな電波な言葉が出てくるんだよ。
そんなことを考えていると、舞姫さんは一旦僕から視線を逸らして遠くを見るようにした。
「やっぱり、彼なの……?」
誰だよ。
助けを求めようと、榊さんと我藤さんの方を向く。
「中二病抜きでも普通に変なやつやから、あんま気にせんでええで! 痛い発言するんは中二モードのときだけやから、今のはたぶん、素」
と、我藤さんはいつもの晴れやかな顔で笑っていた。
つまり、これは中二病に憧れているから出ている発言ではないということか。
それはそれで、なんだかめちゃくちゃ怖いのだが。
舞姫さんは、僕の右手をしっかりと両手で握ったまま、穴が空くほどこちらを見つめてくる。
そしてなぜか榊さんは、そんな僕たちのことを、穴を空けて殺せそうなほどじっと見てくる。あまりにも迫力がありすぎる。
僕が舞姫さんの顔力と、ついでに榊さんの眼力に圧倒されていると。我藤さんが、わはは! と一人で大笑していた。
「なんや、相性いいんちゃう? キミら!」
その言葉に僕と舞姫さんはなんだか照れてしまって、握ったままであったお互いの手をさっとはなした。
◯
自己紹介が終わり、自然と歓談タイムとなった。
「なあなあ。体の一部を餃子にできるなら、どこにする? ウチは、耳かなぁ。常にええ匂いしそうやし、よくない?」
「腎臓スかね。手術で腹裂いたときに腎臓が餃子だと、ウケるんで」
「あ、ふふ……。爪が餃子だと、ちょっといいかも。生えてくるし、お得。ただ、あんまりかっこよくないのが、残念。……いや、逆にかっこいい……?」
「初手に選ぶ話題じゃなさすぎる」
思わず僕は突っ込んでしまった。
なんだか、榊さんが我藤さんに懐いている理由が少しわかった気がした。
その後も三人はその話題を広げていったので、僕はぼけっと彼女たちを見つめていた。
うーむ。なんだか共通点の見当たらない三人だ。
メイドにチャイナ服にゴスロリ衣装……。コスプレ好きにはたまらない空間かもしれない。
まあ、コスプレ好きではない僕には関係のない話だが……。
……いや、ホントだよ?
「えっと。御三方は、どういった関係なんです?」
僕の言葉に、榊さんと我藤さんと舞姫さんは同時に顔を見合わせた。
そんな僕の世俗的な質問に答えてくれたのは、榊さん。
「あたしの高校時代の同級生が舞姫。んで、あたしの芸人時代の先輩が我藤さん。二人は、あたし経由で知り合った友達ってワケ」
「なるほど」
つまり、二人の架け橋となったのは榊さんというわけか。
我藤さんは現役の芸人で、榊さんは元芸人。
なら、舞姫さんは? もしかして、彼女も?
そんなことを考えていると、我藤さんが表情を崩しながら舞姫さんの背を叩いた。
「有馬くん。コイツはな。ちょい売れっ子のホラー作家やねん。ちょいってところがミソな。わっはっは!」
「ホラー作家!? 現役の作家さんですか! 凄い……!」
呟き、舞姫さんを見るが、彼女は恥ずかしそうに僕から視線を外して俯いている。
「や、別に、流行に乗ってモキュメンタリー書いたら、たまたまちょっとバズっただけだからぁ……」
「いや、凄いですよ! でも、ファンタジーとかライトノベルとかじゃないんですね? 得意そうなのに」
「あ、ふひゅ……。そーゆーのを書くには、わたしの中二センスは欠落しすぎだからねぇ……」
舞姫さんは、僕や我藤さんの一言一句にふひゅふひゅと汗を飛ばしていた。
そんな陰の仕草も、彼女の整い過ぎた顔面力を前にすれば、なんというか、凄く味になる。
そんな舞姫さんに僕が見惚れていると。
「面食いカス……」
と、半眼の榊さんが横から口を挟んできた。
面食いと食いカスを混ぜた罵倒だろうか。
なんなんだよ、それ。




