お前、美人だったらホントになんでもいいんだな
我藤さんと舞姫さんを榊さんの部屋に招き、現在僕らはポータブル麻雀卓を囲んでいる。
この麻雀卓は背が低いため、全員床に腰を下ろしている。
榊さんの家にあったヨレヨレの二つのクッションは、客人である我藤さんと舞姫さんに使ってもらうことにした。
僕の左に榊さん、僕の右に我藤さん、僕の正面に舞姫さん、という布陣だ。正直、めちゃくちゃ緊張する。
改めて舞姫さんを見るが、彼女は息を呑むほどに整った容姿をしている。
右目は眼帯で隠されているが、晒された左目はサファイアの輝きが閉じ込められている。
そして、肩の辺りまで伸びたウェーブがかった髪は、美麗な深い紫色。
そんな彼女は、ゴシックな黒のドレスに身を包んでいた。我藤さん同様、こちらも安物ではなくかなり高級そうな代物である。
榊さんが大和撫子的な和の美しさだとしたら、舞姫さんは西洋人形然とした洋の美しさとでも言えばいいだろうか。
「お前、美人だったらホントになんでもいいんだな」
舞姫さんに見惚れていると、僕の横に座る榊さんの棘のある言葉が飛んできた。
「いやっ、そんなことはないです」
そう言う僕を、榊さんが正面から見つめてくる。相変わらず綺麗な御尊顔だ。
久方ぶりにじっくりと榊さんの顔を見ていると、思わず声が漏れてしまった。
「綺麗だ……」
「なんなんだよコイツ」
困惑しながら突っ込む榊さん。
「なー。有馬くん。ウチは? ウチは? 有馬くん的にウチのビジュはどうや? 美人かー?」
目を細めながら、僕の右隣に座る我藤さんが首を伸ばしてくる。顔がいい。
「我藤さんも、当たり前に綺麗ですよ。……えっと、こう言われて嬉しいかはわかりませんが、その、イケメンです」
「わは! ありがとう! 全然嬉しいで!」
我藤さんは、笑いながら僕の肩を強く叩いた。痛い。
この人、榊さんとは違ったアプローチでのボディタッチが多い。
「有馬くん。舞姫、ごっつ綺麗やろ。コイツ、ハーフやねん。北欧系のな」
「ああ。だから素敵な青の目を──」
「いや、それはキャラ付けのカラコン。紫の髪も染めとるだけ」
えぇ……。
我藤さんに次々とパーソナルな情報をバラされていく舞姫さんは、体を縮めてぷるぷると震えていた。なんか、ハムスターみたいでかわいい。
「ほれ、舞姫。自己紹介し。有馬くんとは初対面やろ」
その声に、びくりと肩を震わせる舞姫さん。
「うっ、は、はい……」
舞姫さんは、もじもじとしながら小さく顎を引いた。
「あ、うぇへへ……。どっちのモードの方がいいですか?」
いや、モードとか選べるの?
「どっちもやったらええんちゃう?」
「あ、ふひゅ……。わかりました」
舞姫さんは両手の人差し指を突き合わせながら、ゆるりと立ち上がった。
その瞬間。先刻までの彼女の弱々しい空気は姿を消し、まるで決意を固めた亡国の騎士のような顔立ちへと変貌した。
そして、凛とした声音で発声する。
「我の名は雨・カナリア。十哭騎士団の第八部隊隊長よ。契約精霊は、風の守護者マハマド」
聞いているだけで、背中の辺りがなんだかぞわぞわとしてくる。
彼女は、眼帯をした右目を右手で押さえるかのようなポーズを取った。
「我の目は、全ての悪しき未来を見通す邪が……魔眼。その未来を変えるために、我は今日も光剣、キャル……。えっと、キャ……キャパラルリリーを振るうわ」
しかもなんか、設定がふわついている。
ふぅと一息ついてから、舞姫さんは渾身のドヤ顔を僕に披露した。
圧倒されたままどう反応していいかわからず固まっていると、舞姫さんは急にふにゃっとした笑みを浮かべて脱力した。
「うぇへ……。これが一応、わたしの設定です
あ、設定とか言っちゃうんだ。
「……あ、レインは雨って書いて、レイン、ね。ふへ」
自分の設定を語る舞姫さんは、恥ずかしさと嬉しさが混ざったかのような複雑な表情をしていた。
「本名は、伊鶴舞姫。やしろちゃんと一緒の、二十二歳。実際のわたしは、根暗の陰キャ、です。中二病には憧れてるだけで、実際には中二病じゃあないよ」
だから、中二病に憧れるってなんなんだよ。
「ふふ……。中二病には憧れてるけど、あんまりセンスがないんだぁ……。か、悲しみ。ふへ、よ、よろしく、ね」
ねちょねちょとした笑顔を浮かべながら差し出された舞姫さんの手を、僕は握り返した。
「どうして中二病に憧れているんですか?」
正面から舞姫さんの顔を捉えながら、そう訊ねる。やはり、綺麗なお顔だ。
「あ、ふふ。中学のときに初恋&ガチ恋した二次元の男の子が、中二病のキャラでね。それが、かっこよくて、かわいくって。わたしも中二病になりたいって思ったの」
「な、なるほど……?」
本当に特別な力を持ったキャラや、そのキャラの技とかではなく、中二病のキャラに憧れるって珍しいな。
中学からということは、舞姫さんはもう十年近くはこんな感じなのだろうか。
それはかなり、僕的には残念ポイントが高い。
あ、この場合の残念ポイントが高いというのは、本当に残念というわけではなく、僕的に嬉しいということ。ややこしいな。
「よろしくお願いします。舞姫さん。僕は有馬公太郎です」
「はッ、ひゃい。よろしく、お願いします……」
「あ。呼び方は伊鶴さんの方がよかったですかね。榊さんも我藤さんも、舞姫さんと呼んでいるので、つい」
「な、なんでもいいよ……。うぇへへ」
「それか、雨・カナリアさんって呼んだ方がいいですか?」
「うえぇッ!? こーたろーくん、わたしのこと弄ってる!?」
舞姫さんの目が渦を巻き、僕が掴んでいる彼女の手が急激に汗ばんでいく。
「あ、いえ。その設定……というか、もう一人の自分を大切にされているみたいなので、それを尊重しただけです。不快だったのなら、すみません……」
僕の言葉に、なぜか舞姫さんは、ぱぁっと花のような笑顔を咲かせた。
「ううん。大丈夫だよぉ。どっちでも、こーたろーくんの好きなように呼んでねぇ……?」
「はい」
「初対面でわたしのこと馬鹿にしたり引いたりしない人、初めてだよぉ」
引いてはいますけどね。
舞姫さんは、艶のある表情で僕をじっと見つめてくる。
彼女の笑顔を正面から浴びせられ、僕はたまらず視線を右下に逃がしてしまう。
……うーん。やっぱり、僕って美人に弱いのかな。
そんな僕たちのやり取りを見て……かどうかはわからないが。左隣から榊さんの凄い白けたような目線が飛んできた。怖いって。




