普通にピストルで怖がらせてくるお化け屋敷
榊さんはジャージメイド姿のまま、部屋でくつろいでいた。
具体的に言うと、床に寝そべってテレビを見ながらテーブルの上のせんべいをぼりぼりと食べて時折焼酎ロックをぐぴりとやっている。
……。
せっかくジャージメイドを着ているのだから、もっとこう……わたがしとかマシュマロとかかわいいものを食べながらかわいらしいアニメとかを見てほしいところだ。
だが、これはこれで榊さんらしすぎるので問題ない。むしろ、これがいいまである。
言うまでもなく、その光景は許可を得て写真に収めさせてもらった。
僕は、その写真を見つめて汚いニヤケ面を披露していた。
うわ。めっちゃバズりそうだな、この写真……。別に、どこにも上げないけど。
「どうです? ジャージメイド。いつもより過ごしやすいですか」
「おん。メイド服と比べると、やっぱ機能性には優れてんな」
「よかったです」
「あたしにはちょっとかわいすぎっけど。あと、ルーズソックスは、あちぃ」
ぽいぽいと、ルーズソックスが脱ぎ散らかされてしまった。
だが、髪の小さな二つ結びは今もなお継続中だ。嬉しい。
「結構楽だし、明日からこれで出勤しようかな」
「え」
榊さんがジャージメイド姿で街を闊歩する姿を想像してみる。
……うん。
これ、下手したら普通のメイド服姿よりも目立たないか?
「ンだよ。やっぱキツイってか?」
「いえ。そうじゃなく」
でも、冷静に考えるとメイド服よりもジャージメイド姿の方が私服適正が高い気がする。
どちらかといえばメイド服は、仕事着や礼服や制服といったかっちりとしたイメージ。一方ジャージメイドは、趣味で着る服といった側面が強いように思える。勿論、一個人の意見に過ぎないが。
「いいと思いますよ」
「なんか間があったのが気になるが……。じゃあ、明日……は休みだから、次の仕事のときはこれでいくわ。さすがに髪はほどくし、ルーズソックスは履かんけど」
それから僕らは、さかにゃんのTwitterに投稿するネタツイの案出しをしたり、僕がいつも使っている大喜利サイトで大喜利の練習をしたりして、時間を過ごした。
そんな中僕は、ふとこんなことを口走った。
「榊さんって、どんな感じのお笑いが好きなんですか?」
言い終わった瞬間に、かなり難しい質問をしてしまったことに気が付いた。
僕だって、同じ質問を榊さんにされたら小一時間は悩んでしまうだろう。
しかし榊さんは、すぐに返答してくれた。
「そだな。一番好きなのはシュール系。あとは、理不尽系とか不条理系とか。めちゃくちゃなやつが好き」
「『豚・ブラック』とか好きそうですよね」
「お、よくわかるな。めっちゃ好きだぜ」
『豚・ブラック』とは、独特な世界観で超シュールな漫才をする男性二人組のお笑いコンビだ。
「公太郎は、どんなんが好きなんだ?」
「うーん」
熟考しようとしたが、ただの雑談だと割り切ってさっさと答えることにした。
「結構なんでも好きですけど、コントが特に好きかもですね。緻密に練られた映画みたいなコントは特に好きです」
「ああ。かっこいいよなぁ、技巧派。憧れるわ」
「そういえば、榊さんは芸人時代どんな芸風だったんです?」
榊さんの、せんべいを掴む手がぴたりと止まった。
そのまま榊さんは、空いた手で頬を掻きながら恥ずかしそうに言うのだ。
「まあ、シュールな芸風だったな。フリップでネタツイみたいなのを延々披露したり」
「それは、確かにシュールですね」
というか、ただのいつもの榊さんではないか。
「結構ウケましたか?」
「地下ライブとかでは、そこそこ。まあ、地下ライブとかにまでくるお笑い好きって、かなり尖った好みしてるからな。大衆にウケたかは、わからん」
それでも、榊さんの芸風が刺さった存在がいるという事実は素直に嬉しかった。
「芸人、また頑張ってみたいと思いますか?」
「んー」
かなり踏み込んだ質問をしてしまった自覚はあったが、スマホを見る榊さんの表情は無表情のままだ。
「そだな。あるよ。お前のおかげで」
榊さんが顔を上げ、至近距離で僕の顔を射た。彼女の髪の下方で結ばれた小さな二つ結びが、うさぎの尻尾みたいにぴょこりと揺れる。
「僕の、ですか」
「ん。お前といたら結構刺激になるんだよな」
「それは、よかったです」
冷静に言ってみてはいるが、心中穏やかではなかった。勿論、いい意味で。
なんだか恥ずかしくなって、僕は話をネタツイに戻した。
「じゃあ、引き続きネタツイ考えましょうか」
なんだよこの提案。
「そだな」
そうして、榊さんは真面目な顔でネタツイを考え始めた。ジャージメイド姿の美人が真剣にネタツイを考えているという状況は、客観的に見てかなり面白かった。
そんな榊さんをよそに僕は、大喜利サイトで回答をしまくっていた。
ちなみに僕のアカウント名は『半チャー大納言』と言い、このサイトではちょいちょい投票で一位になっていたりする。
数十分後。
「ん」
榊さんが、完成したネタツイの一部を僕に見せてくれた。
『半額弁当争奪戦のときに腕のタトゥーをチラ見せしてくるおばさん』
『敵の接近にいち早く気付いたが喉をやられているため無音で叫ぶしかないマーモット』
『普通にピストルで怖がらせてくるお化け屋敷』
『「地球釣れたw」とふざけているが、地球が平面だったため本当に地球の端を釣っていた釣り人』
『関節技ばっか使ってくる力士』
『七分の六を六人の花子さんに頼っている学校七不思議』
『ムキムキのハッカー』
『全然人質とかとってくるゾンビ』
「……ふふ」
榊さんのネタツイは、相変わらず僕のツボをじわじわと刺激してくる。
微笑む僕を見て、榊さんはにやりと口角を上げていた。




