……キッッッッッッッッッッッッッ──
結論から言えば、榊さんのジャージメイド姿は、なんか違った。
たぶん僕のジャージをそのまま流用したからであろう。胸に普通に有馬って刺繍してあるしな。
「やっぱ、なんか違うな」
「なんか違いましたね」
しかし、なんか違う理由は僕のジャージ以外にもありそうなんだよな。
ということで、改めてジャージメイドの画像をネットで探してみる。
ジャージメイドを着た方の画像を眺めていると、ルーズソックスを着用している人が多かった。
……というか。よく見れば下はミニスカートだったり短いパンツであったりと、足が見えている場合がほとんどだ。
なるほど、ルーズソックスを見せるためだろうか。
あと、髪型は……。ツインテだったり、ショートの人でも短く結んでいる子が多いかな?
うわっ。このちょろっと結んだだけの二センチくらいのツインテかわいいな。ジャージメイドとの親和性抜群だ。
僕はその場でなにも迷うことなく、ネットでジャージメイドセットの一式を注文した。ジャージとエプロンが一体化しているやつだ。
……ああ。楽しみだ。楽しみすぎる。今日は興奮で寝られないかもしれない。
「……お前、なにしてんの?」
僕のジャージを着てエプロンを付けただけの榊さんが、ジト目を僕に送っている。
今の榊さんはジャージメイドというか、ジャージのままエプロンをして家事をしているお母さんといった感じだ。
これはこれで榊さんっぽいしかわいいから、先刻死ぬほど写真を撮らせてもらった。
「ジャージメイドセットをネットで注文しました」
「は?」
「明日届くので、さっそく着てみましょう」
「いや、あのな」
「お金は僕が払うので大丈夫です。あ、サイズの心配ですか? 大きめの頼んだので大丈夫ですよ。榊さん、身長高いですし。いけます」
「……」
怒涛の勢いで喋り続ける僕に、遂に榊さんは閉口してしまった。
「お前、ノリノリすぎねーか?」
「ノリノリにもなります!」
「うわっ!?」
急に僕が大声を出したものだから、榊さんが仰け反ってしまった。
「ジャージメイドだと動きやすいですし、かわいいですし、いつもメイド服を着てる榊さんにぴったりじゃないですか! これで榊さんの服のレパートリーが一つ増えましたね! ああ、なんで今まで頭から抜けてたんだろう!」
熱く語る僕に、榊さんは圧倒されていた。
榊さんは、呆けた顔で僕を見つめている。仰け反った反動で、ヘッドドレスが少し前にズレている。かわいい。
やがて、彼女はこう言った。
「お前はホント、あたしのことばっか考えてんのな」
ヘラっと力の抜けた笑顔を浮かべる榊さんを見て、既に榊さんが放った矢で穴だらけの僕の心臓に、今日も穴が増えてしまった。
〇
次の日。つまり火曜日。
その日の最後の講義が終わった瞬間、僕は爆速で家へと向かった。
理由は簡単。家にジャージメイドの一式が届いているからだ。
それだけではない。講義中に届いた榊さんのLINEが僕の心を駆り立てたのだ。
榊さんからのLINEはこうだった。
『帰ったら荷物届いてたから、着て待っといてやるよ』
僕は、体感的には光よりも速い速度で家へと帰った。
「ただいま戻りました榊さんッッッ!」
家の玄関を開けるなり、僕はそう叫んだ。近所迷惑にもほどがある。
「ん。お帰り」
リビングの方から、榊さんの声が聞こえる。
玄関に靴を脱ぎ散らかし、通路を走り僕はリビングへと向かった。
リビングに足を踏み入れた瞬間。
「どうだ? やっぱキツくないか……?」
ローテーブルの傍に立った榊さんが、僕の方を見て真顔で言った。
僕は、本気で天使がいるのかと思った。
今日の榊さんは、ただの榊さんではない。
あのジャージメイド服を着た、スペシャルな榊さんなのであった。
僕が注文したジャージメイドは、ジャージとエプロンとミニスカートが一体化したものだ。だからかはわからないが、昨日のようなジャージとエプロンとのミスマッチ感が一切なかった。
色は、ジャージメイドとしてはオーソドックスな淡い水色。
彼女は黒髪ということもあり、普段の榊さんは白と黒しかまとわないクラシカルな出で立ちなのだが、これはこれで少女性が増してかわいらしい。
榊さん、意外とこういったパステルカラー似合うんだな。
いや、というか! 榊さん、髪を結んでくれてる!?
榊さんの髪はショートボブなのだが、その下方の両端をゴムで小さく結び、ちっちゃいちっちゃいツインテを作ってくれていたのだ。
僕は、メイド服一式と一緒にヘアゴムも注文していた。
榊さんから服を着ておくというLINEがきた際、『よければちっちぇえちっちぇえツインテにしてくださったら嬉しいです!』と、参考画像付きでメッセージを送っていたのだ。
榊さんからは『キモ』と辛辣な返事が届いただけだったのだが、まさか本当にちっちぇえツインテにしてくれるとは。ツンデレがすぎるだろ。
そして、目を引くのはやはりエプロンか。エプロンはいつも彼女が身に着けているものよりも更にフリフリであった。
それと、様々な場所に小さなリボンが付いている。とんでもなくあざとい。あざとさで人が殺せそうだ。
そして、丈の短いホットパンツから伸びる彼女の長いおみ足を包むのは、白のルーズソックス。
ルーズソックスには、ギャルっぽいイメージがあったのだが、なぜかこれがジャージメイドと謎のマリアージュを引き起こしている。ジャージメイドを最初に思いついた人は、間違いなく天才だ。
──というか今更だが、ジャージメイドってなんなんだよ。
まあ、ツッコミは置いておいて。
最後に、顔。顔だ。
榊さんの顔が美しいことは今更言うまでもないのだが、今の榊さんの顔は僕が未だかつて見たことがないほどの羞恥の色に侵食されており、新鮮であった。
初めは真顔だったのに。僕があまりにも真剣な表情で眺めまくっていたからかもしれない。今彼女の熱を測れば、微熱ではすまなさそうだ。
そしてその表情は、ジャージメイドにとっての非常にいい出汁を捻出していた。
普段のクールな表情が崩れ、紅潮し、子どもっぽい表情となった榊さん。
いつもよりも露出された自分の肌を見られたくないのか、彼女は体を内に寄せて小さく縮こまっている。そんな動作さえも愛らしく、ジャージメイドに合っている。
パーフェクト。
パーフェクトだ!
かわいい。かわいすぎる!
──しかし、それはそれとして。
まずは、様式美を済ませておこう。
大きく息を吸って、僕は高らかにこう言うのだった。
「……キッッッッッッッッッッッッッ──」
「おい」
真顔になった榊さんのチョップが僕の脳天に降り立った。痛い。
「ご、ごめんなさいっ。今のは冗談というか、別に本当にキツイと思ったわけじゃなくてっ! Twitterで大きい胸のキャラを見たときに『デッッッッッ』て言うのがそのキャラに対する最大の称賛みたいなとこあるじゃないですか! あの感じです!」
「ああ……。ママキャラが制服着てる画像に『キッッッッッ』て言いながら内心では賞賛してるあれな。……って、うるせぇよ」
二度目のチョップ。
「すみません! ホントにキツイとは思ってませんから!」
「わぁったよ」
榊さんが、僕の頭から手刀をはなした。
ツッコミモードに入ったからだろうか。もう彼女の顔からは完全に羞恥心が抜けきってしまっていた。ちょっと残念。
「んで? ……その、どーよ? お前の好きな服着てやったんだけど?」
榊さんは、腕を組んで僕の表情を窺い見てくる。
僕は、満面の笑顔で親指を立てたのであった。
「それはもう、最っっっ高にかわいいですっ!」
「……そーかよ」
僕の言葉に、榊さんは満足そうに相好を崩した。
「でも、なんでこんなに素直に着てくれたんです?」
「あん? そりゃあ、お前があんなに楽しみにしてたんだし、着てやるしかねぇだろ。金も公太郎が出してくれたし」
「榊さん……」
「あと、初めて会った日に、見た目をお前の好みに寄せてやるって言っちまったしな」
献身的な彼女の優しさに、じんわりと胸が温まっていく。
「愛おしいので、抱きしめていいですか?」
「はぁ~~?」
榊さんは一度僕の顔を見てから、さっと一歩退いた。
「なんか目がキモイから、ヤダ」
「……」
ちょっと興奮しすぎたかもしれない。




