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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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公太郎と一緒に寝る……

 コンビニに着いた。それは、夜の中に佇む光の塊。ちょっと目が痛い。


 (さかき)さんは僕の肩に頭を置きっぱなしだったので、たしなめた。このままコンビニに入るのは、さすがに恥ずかしい。


「しゃんとしてください」

「うい」

 やけに素直に、榊さんは僕からはなれた。


 コンビニで、榊さんは大量の酒とお菓子を買い物かごにぶちこんでいた。絶対この状態からこんなに飲めないだろ。


「公太郎も、なんか好きなん買え。あたしが出してやる」

「いや、でも」

「今日はあたしが全部おごる日」

「……はい」

 有無を言わせぬ榊さんの眼光に、委縮してしまった。

 それでもさすがに遠慮の気持ちが勝ち、ポテチ一袋だけをかごに入れた。


 買い出しを済ませて、コンビニを出る。買い物袋は僕が持った。酒が大量に入っているから、めちゃくちゃ重い。


 店を出た瞬間に、榊さんが僕にぴったりと体をくっつけてきた。


 抱きしめるでもなく、ただ体を横から密着させてくる。その状態で、僕らはゆっくりと帰路を歩く。

 嬉しい。嬉しいけど、正直凄く歩きづらい。


「どうしたんですか」

「公太郎あったかい」

「酔ってますよね」

「うん。ちょっと」

「み、認めた……」

 しかも今、「うん」って言った? 榊さんの「うん」は、かなりレアな気がする。


 珍しい榊さんの姿に、僕の表情筋が緩んでいく。

 すると、不意に榊さんが足を止めた。


「歩くの疲れた。もう無理。公太郎、おぶってくれ」

「えぇ~。もうすぐ家ですよ」

 と言いつつも、内心僕は喜んでいた。


 合法的に榊さんと密着できるからとか、そんな浅はかな理由ではない。

 二十二歳の大人がお酒でダウンして、四つも下の僕におんぶをせがむ駄目駄目成分を摂取できたからである。

 脳に駄目女エキスが行き渡る。ああ、若返る。脳が、若返る。


「あ、やっぱいいわ。なんか、すげー喜んでてキモいから」

 急にスンとした表情で言われてしまった。


「い、いやっ。別に、榊さんをおぶれることが嬉しい、とかじゃないですよ?」

「それが違うことがわかってっからキモいんだよ」

 なんで全部お見通しなんだよ。


「このダメオンナスキーが」

 シコルスキーみたいに言わないでくれ。


「なんでお前、そんなにあたしみたいな女が好きなんだよ」

「え? ええっと」


 急に飛んできた質問に、僕の体は硬直する。

 だが、僕は正直に話すことにした。こんなこと、別に隠すことでもないしな。


「ちっちゃい頃、初めて見たアニメに駄目な大人のお姉さんが出てきたんですよ。ずっとビール飲んでてなんだか頼りないんですけど、キメるときはキメる、みたいな。そのキャラを好きになったのがきっかけですかね」


「あー。最初に見たエロ絵がそいつの性癖を決めるとか言うよなぁ」

「いや、エロ絵の話はしてませんが」

「ん。そうか?」


 このメイド、やけにニヤニヤとしている。

 僕と話すことにより、なんだか榊さんの調子が上がってきたようだ。


「もう歩けそうですね?」

「んー。ただ、体は預けさせてくれ」

「はいはい」


 結局、おんぶはしなかった。

 だが家に着くまで、僕たちはずっとひっつきながら、くだらない話をかわし合っていた。


   〇


 家に着いた。


 リビングにいき、ローテーブルに買い物袋を置く。


「榊さん。お酒、どれ冷やしてどれ飲みます? あ、その前に水飲んどきましょうか」

 僕のあとにフラフラとリビングにやってきた榊さんに声をかける。


 彼女は半眼で僕を見据えている。凄く眠そうだ。


 榊さんは、ちょいちょいと指で僕を手招きをする。

 わけのわからないまま榊さんの方に近づくと。


 ──ベッドに、押し倒された。


「え」

 流れるような動作であった。

 僕を抱きしめた榊さんが、そのままベッドへと倒れ込んだのだ。


 ベッドの軋む音が、やけに生々しく僕の耳を舐める。


 僕と榊さんとの距離は、ゼロ。

 心臓と心臓が、くっついてしまいそうだ。


「あ、あのっ。榊さん……?」

 榊さんは、両手で僕の頭を固定して上を向かせている。そんな僕の左耳に向かって、榊さんが語り掛ける。

「公太郎──」


 僕の耳に、温かい吐息とともに榊さんのハスキーな声が入り込んでくる。

 ぞくぞくと、僕の全身に震えが走った。


 馬鹿みたいに血流が上がる。

 全身が心臓になってしまったのかと錯覚した。


「今日は」

 どこか蠱惑的な榊さんの言葉が続く。


「今日は、公太郎と一緒に寝る……」

 それは。


 甘えるような。

 ねだるような。

 寂しいような。


 子どもみたいな、声だった。


 榊さんが、僕の頭を掴む手に力をくわえる。彼女は、無理やりに僕の顔を榊さんの方に向けた。


 間近で見た榊さんの顔は、やはり、いつもよりも幼く見える。今にも寝てしまいそうだからだろうか。

 こんなことを言うと怒られそうだが、まるで赤ちゃんみたいだ。


「……寝ましょうか」

 自然と、思いが言葉になっていた。


 服も着替えていない。

 風呂にも入っていない。

 歯も磨いていない。


 寝る準備も明日の準備も、なにもしていない。

 こんな状態で寝た事なんて、一度もない。


 でも、いいや。

 今日は、僕も駄目になろう。榊さんと一緒に。


 今日は。

 今日だけは。

 このままで──。


「おやすみなさい」


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