口癖が『あらやだ笑』だったためばばぁだと思われていたが、後半でじじぃだとわかる叙述トリックのある推理小説
約束通り、居酒屋の代金は榊さんが払ってくれた。
店を出ると、少し肌寒い夜が僕たちを迎えた。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「いーって。あと、これ」
榊さんが、僕の手にお札を握らせてきた。
「ここ数日泊めてくれた分とか、初日に公太郎ン家の食材使わせてもらった分とか、色々と世話になった分」
「別に、こんなのいいのに」
お金を突き返そうとすると、榊さんは目を閉じて静かにかぶりを振った。
「給料入ったら払うって言っただろ? あたしがすっきりしたいだけだから、もらっといてくれ。別に、その金は募金してくれても、あたしに驕ってくれても、貯金しても、好きに使ってくれていいから」
「……わかりました」
大人しく、僕はそのお金を財布の中にしまう。
普段はかなりだらしないのに、こういうところはしっかりしているんだよな。
「じゃー、次の店いくか」
颯爽と肩で風を切る榊さんの歩き姿は、普段と全く変わらない。
「結構飲んだのに、全然酔ってなさそうですね」
「まー、あんくらいじゃな」
十杯以上飲んでおいて、あのくらいなんだ?
「次の店、どっかいきたいところあるか?」
「任せます。榊さんがいくところなら、どこでもついていきますよ?」
「ふぅん。地獄でもか? ──なーんて寒いこと言ってもいいか?」
「いいですし、全然いきますよ」
「公太郎は狂信的なあたしの信者だなぁ」
どこにでもついていこう。
榊さんがいく場所なら。
天国でも地獄でも。
「あ、今脳内でポエムってる顔してたな」
「なんでバレた」
言ったあと、僕はツッコミを重ねた。
「いや、ポエムってるってなんだよ」
〇
二件目は、海鮮系の料理が有名なチェーン店の居酒屋だった。
そこでも榊さんは飲み放題を注文していた。二軒連続飲み放題を選ぶことって、普通なんだろうか。絶対普通じゃないような気がする。
「僕、あんまり飲めないかもです。すみません」
飲み放題を頼むには、そのテーブルの全員が飲み放題にする必要があるようだ。
「いいって。その分あたしが飲むし。というか、あたしが飲み放題にしたいだけだからさ」
その店でも、僕らはしょうもない話ばかりしていた。
「神に脱色されて白くなった熊がもしいたら、なんかウケるよな」
「それ、北極辺りにもういますね。シロクマっていうんですけど」
「アルファベットを全員集めてトーナメント開いたら誰が一番強いんだろうな」
「不参加と思われていたQがあとからやってきて全てをめちゃくちゃにして、トーナメントが中断されそうですね」
「あたしがアニメ化したら、やっぱりパチンコも出るのかな」
「一般人はアニメ化されませんし、前にスロットのこと、金をドブに捨てるようなもんって言ってたのでオファーこないんじゃないですかね」
「一つだけ異能力が使えるなら、やっぱ骨折を治す能力だよなー」
「榊さんってスケルトンだったんですね」
「口癖が『あらやだ笑』だったためばばぁだと思われていたが、後半でじじぃだとわかる叙述トリックのある推理小説」
「現実でネタツイ言うのやめた方がいいですよ」
酒が少し回ってきたのか、二軒目では榊さんはずっと変なことばかり言っていた。
榊さんは、めちゃくちゃ楽しそうだった。自分で言った言葉にツボったり、僕のツッコミに爆笑したり。
そしてこれは言うまでもないのだが。
僕も、彼女と同じかそれ以上に楽しかった。




