たぶん女体化した公太郎は眼鏡かけてて、前髪長め。アシメで、片目が隠れてる
飲み放題は九十分で、六十分になるとラストオーダーとなる。
そして、いつの間にかラストオーダーの時間となっていた。
僕はウーロン茶、榊さんはハイボールを頼んでいた。
結局僕は、今頼んだウーロン茶も含めて五杯ほどしか飲めなかった。これでも結構頑張ったつもりだが、榊さんは優に僕の二倍以上は飲んでいる。胃袋どうなってんだ。
飲み放題が終わるまで、僕らは本当にどうでもいい話ばかりをしていた。
「公太郎が女体化したら、一部のオタクくんにめちゃくちゃ人気になりそうだよな」
急になんなんだよ。
「そ、そうですか?」
「あと、押しに弱そうだから陽キャにめちゃくちゃ食われてそう」
「……」
僕にどんなイメージ持ってるんだ? この人。
……いや、押しに弱そうというのは、その通りなのかもしれないが。
「たぶん女体化した公太郎は眼鏡かけてて、前髪長め。アシメで、片目が隠れてる。そのせいで顔があんま見えないんだけど、素顔は結構かわいい」
「ほう」
おお。女体化した僕、結構かわいいではないか。確かにこれは、一部のオタクくんに人気が出そうだ。
「で、むっつりスケベ」
それは、ただの僕だろ。
「性格は、たぶん今よりももっと大人しめだな。ついでに乳も大人しめ」
「勝手に僕の女体化姿が貧乳にされてしまった」
「巨乳がよかったか?」
「どっちでもいいよ」
というか、選べるの?
「そういや、巨乳で思い出したけどよ」
「会話デッキになんで巨乳ピン差ししてんだよ」
「……っ、ふッ」
榊さんの真顔が崩れた。数秒笑いを堪えたあと、息を整えて榊さんが続けた。
「いや、巨乳についてのスゲーどうでもいい話なんだけどさ」
「はい」
「あたし最近まで長乳のこと長乳って呼んでたんだけどさ」
「本当にどうでもよさそうな話きたな」
「あれたぶん、超乳と語感が被るから、長乳って呼ばれてるんだろうな」
「マジでどうでもよかった」
「もっと長乳の話してやろうか?」
「なんでまだ長乳の残弾があるんだよ」
更に長乳の話を続けようとする榊さんを、僕が制した。
「ごめんなさい。僕の女体化に話を戻していいですか?」
「なんでその話題ちょっと気に入ってんだよ。いいけど」
「まあ、したいのは僕の女体化の話ではなく、榊さんの男体化の話なんですがね」
「ん? あたし?」
榊さんが片眉を上げた。
「あたしの男体化ねぇ。まあ、イケメンではあるのかな」
「それは標準装備でしょう」
「ピアスもしてそうだな」
「今よりも増えてるかも」
「こう、長身で、華奢で……」
「黒髪短髪で、髪質は細いでしょうね。サラサラ。前髪はちょい長そう」
「別に髪とか肌のケアしてなくても、なんか小綺麗なタイプだな」
「凄いモテそうですよね」
「酒も煙草もやってんのかな?」
「やっててほしいですね。今よりもギャンブルが好きだったり」
「あたしよりも借金多そうだな」
「数人の病んでるカノジョがいそう」
「そいつらは、あたしのことカレシと思ってんだけど、あたしはそいつらのこと恋人だとは思ってなさそう」
僕と榊さんの頭の中に、妄想の榊さんの男体化姿が思い浮かんでいく。きっと、僕らの想像図はかなり似通っているだろう。
しかし、考えれば考えるほど、この人物像は……。
「榊さん、なんか、この人って」
「あたしも思った」
僕らは、顔を合わせて同時にこう呟いた。
「めちゃくちゃ女殴ってそう……」
「めちゃくちゃ女殴ってそう……」
別に、榊さんに対してそういったイメージがあるわけではないのだが、なんだか気まずくなってしまった。
……この話、やめた方がいいかな?
そんなことを考えていると、榊さんが晴れやかな顔でこう言った。
「公太郎。あたしたちの活躍がコミックスにまとめられたら、巻末オマケに性転換姿描いてもらおうぜ」
「なんで女児アニメのCM特有の、『私たちの活躍がブルーレイになるんだって』みたいな言い方なんです?」
そもそも、一般人である僕らの活躍はコミックスにまとめられないだろ。
「……ふ。ふ、くっ」
僕のツッコミがツボに入ったようで、榊さんは腹を抱えて震えていた。
そんな僕たちの元に、店員さんが飲み放題の終了を告げにきたのだった。




