一人っ子オーラが強すぎる
家の前で酔い潰れていた榊さんに妹の姿を重ねたのだと言ったら、榊さんに驚かれてしまった。これは、僕の言い方が悪かったかもしれない。
「見た目とか性格が似てるとか、そういう話じゃなくてですね」
こんな変な人、身近に二人もいてたまるか。
「は~? どういうこった?」
榊さんの頭の上には、大量の疑問符が湧いていそうだ。
頭の中で情報を整理しながら、僕は言葉をつむいでいく。
「えっと、僕の両親は共働きなんです。今は父も母も妹も実家で住んでいるんですけど、僕と妹が小さい頃、父は単身赴任で家にいないことが多かったんです」
ビールを飲む手をとめ、榊さんは無言で僕の話に耳を傾けてくれている。
「母も帰りが遅いことが多いので、必然的に学校終わりは妹と二人で過ごすことが多くなったんです。妹は僕よりも二歳ほど下で、子供ながらに僕がしっかりしなくちゃなって思ってました」
「……」
「母の負担を減らそうと家事なんかもやってみようと思いましたけど、あんまり上手くいかなくて。だから、今でも料理はそんなに上手くないんですよね。簡単なものなら作れるんですけど」
言っていて、徐々に恥ずかしくなってくる。普段は吐露しないことを伝えるのって、僕にはかなりハードルが高い。
「妹ちゃんのためにしっかりしようって思いが、今の公太郎を形作ったのか?」
不意に言われたその言葉が、すっと腑に落ちる感覚があった。
「そう……かもしれません」
僕の妹は、泣き虫で寂しがり屋であった。
辛かったのであろう。お父さんもお母さんも家にいないのが。
勿論、僕も辛かったし寂しかった。でも、僕まで泣いていると妹を更に心配にさせてしまう。だから僕は、強がった。強いふりをした。妹から頼られる、かっこいいお兄ちゃんになるために。
「こんなことを言うと失礼というか気を悪くされるかもしれませんが……。倒れている榊さんを見て、僕、『守りたい』って思ったのかもしれませんね」
自分の思いを言葉にしてみると、僕ってそんなこと考えていたのか、という思いが溢れてくる。不思議な感覚だ。普段は自分のことなんて深く考えないし、話さないから。
僕の声に、榊さんはゆっくりと口端を緩めた。
「あたしに妹ちゃんを重ねたのは、公太郎にとってあたしが、同じく守りたいと思う対象だったわけか?」
「はい。だから、妹に似てるとかではないです」
と言いつつ。榊さんのことを知る度、妹と似ている箇所があることに僕が気付いていっていることは内緒だ。
実は寂しがり屋な所とか、甘えたがりな所とか。……これは、僕が勝手に思っているだけの榊さんの印象だけれど。
そして僕は、僕が守りたいと思う榊さんみたいな駄目女──いや、少し抜けた人に異様に惹かれてしまうのだ。
そんな人に救いの手を差し伸べられたら、はねのけられるはずもなかった。しかも、外見も僕のドストライクだったし。
「い、以上、です」
言い終わり、手持無沙汰となった僕は残りのコーラを一気飲みした。そして呼び鈴を押す。次はなにを頼もうか。
「ふーん」
話を聞き終わった榊さんは、なぜかムッとした表情をしていた。
「それってさ、公太郎にとってあたしが妹みたいな存在ってことか?」
「なんでそうなるんですか」
再三そうではないと言っているのに。
「あなたみたいなスレた妹はこの世に存在しませんよ」
「いや、いるにはいるだろ」
突っ込まれてしまった。
確かに、いるにはいるだろう。
「現に、あたしが妹って可能性もあるだろ?」
「榊さんが妹?」
確かに、僕に妹がいるように、榊さんに姉や兄がいてもなんらおかしくはないのか。
そんなことを思いながら、榊さんをじっと見つめる。
……うん。
一人っ子オーラが強すぎる。
「おい。なんだその、コイツに兄弟はいないんだろうなぁって目は」
「ヤベっ」
バレた。
「まあ、いないけどな」
「いないのかよ」
店員さんがやってきた。榊さんに絡んできた、金髪のあのお兄さんだ。
僕はウーロン茶を、榊さんはウーロンハイを頼んだ。彼は、僕たちのことを不思議そうな目で見つめていた。
……や、やっぱり、僕って榊さんと釣り合ってないよな? そういう意味の表情とは限らないが。
「高校ンとき、色んなバイトしたって言ってたよな? それもなんか理由あんの?」
「いや、遠くの大学にいきたいと僕から言い出したので、そのための貯金をしたかっただけです」
「お前……。偉いなぁ」
それは、素直に感心したといったトーンの声であった。
「痛いとか言ってスマン」
「いや……痛いのはその通りだと思いますし」
榊さんに素直に謝られると、調子が狂う。
「絶対に、あたしみたいになるなよなぁ」
「は、はい」
自由に生きている榊さんに憧れがあるということは、黙っておいた方がいいかもしれない。
「まー、また自分のこと話してもいいと思ったら話してくれよ。いつでもいいからさ。あたし、もっと公太郎のこと知りたいから」
と、にこやかに僕を見守る榊さんだった。




