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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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お前結構痛いよな

 (さかき)さんは、ありえないスピードでグラスを空にしていく。

 まだ店にきて三十分ほどしか経っていないが、もう五杯は飲んでいるのではないだろうか。飲み物が届くスピードより、彼女が飲み物を飲み干すスピードの方が速い。


 飲み放題だから僕も頑張って飲もうとしているが、まだカルピス二杯目である。


「あたしは酒で腹ぁ一杯になっから、公太郎は好きな物食えよな」

 榊さんは僕にご飯をたくさん食べさせようとしてくるのだが、そこまで大食いではない僕は、彼女の期待にはあまり応えることができないのであった。


 でも、それでも僕は楽しかった。

 お酒が飲めなくても、あまり食べられなくても。榊さんとこうやって外食できることが、なによりも嬉しい。


 だし巻き卵を食べながら、ふと僕は、榊さんのグラスが空に近づいていることに気が付いた。

「榊さん、次なに頼みます?」

「ビール」

「店員さん呼びますね」

 すかさず、呼び出しベルを押す。

「あんがと」


「結構ペース早いですけど、お冷とかまだ大丈夫ですか? ビールと一緒に頼みます?」

「ん。まだ大丈夫。あんがと。あとで頼もうかな」


「榊さん。口にケチャップついちゃってます」

 ナプキンを榊さんに手渡す。

「んあ? あんがと」


「榊さん──」

「ちょ、ちょい待った」

 空になったジョッキをテーブルに置き、榊さんが右手をこちらに伸ばして僕を制した。


 そして、彼女はこう言うのだ。


「お前、気が利きすぎないか?」


「はい?」

 榊さんの眉間には少しだけしわが寄っている。なんで褒めながらちょっとキレてるんだよ。


「お、怒ってます?」

「いや? 別に」

 言ってから、少しだけ下唇を上げる榊さん。


「なんか優秀すぎてちっとむかついただけ」

「は、はぁ」

 頬杖を突きながら、榊さんが少しだけ熱のこもった視線を僕に投げてくる。


「お前、いい男だよな。あたしにとってのさ」

 別に恥ずかしがりもせず、榊さんはそう言った。少し、酒が回ってきたのであろうか。


 彼女の瞳には、僕だけが映り込んでいる。今この瞬間は、その綺麗な双眸は僕のためだけに輝いていた。

 なんだかくすぐったくなるようなその純粋な目線に、僕は、やられてしまった。


 俯きながら、言葉を返す。

「気が利くかどうかはわからないですけど……。あれですかね? 飲食のバイトの経験があるからかもしれません」

「へぇ。高校のときにバイトしてたって言ってたもんな」

「はい。結構色々経験しましたよ」

「ほへぇ」

 榊さんは、やってきた店員さんにおかわりのビールを頼んでいた。


 枝豆をもさもさといきながら、榊さんが続ける。

「そーいやさ。お前、全然自分の話しないよな? なんでだ?」

「え? えっと」

 思わぬところを突かれて、僕は凄くわかりやすく動揺してしまった。


「なんか理由とかあんの?」

「あるにはありますけど」

「へー。教えろよ」

 榊さんの片頬が持ち上がる。いつもの、僕を弄るときの表情である。

 ……まあ、隠すほどのことでもないし、いいか。


 榊さんに向かって、僕は淡々と言い放った。

「かっこいいからです」

「は?」

「かっこいいからです」

「えっと」

「かっこいいからです」

「聞こえてはいるって」

 榊さんが、ビールが入ったグラスを持ったまま固まってしまった。


「自分のことをあんまり話さないって、ミステリアスでかっこいいじゃないですか?」

「いや。まあ、ちょっとわかるけどさ」

 ビールをちびりとやりながら、榊さんは僕に冷めた目線を送っていた。


「中学生くらいの頃でしょうか。そういう自我が芽生えてから、僕は自分のことをあまり話さなくなりました」

「へぇ」


 ビールを半分ほど胃に流し込んでから、榊さんが真顔で言う。

「お前、結構痛いよな」

「……」

 なにも言い返せなかった。


 真顔で僕を見つめたあと、榊さんは不意にフッと表情を緩めた。

「それでも、あたしには話してくれたんだな。嬉しいぜ」

「それは、まあ」

 あなたには心を許しているので。


 ニヤニヤと表情を緩めながら、榊さんが首を伸ばして僕に顔を近づけてくる。

「この流れで訊くか」

「はい」

「あたしさ、ずっと気になってことがあンだけどよ」

「なんです?」


 二杯目のカルピスがなくなった。呼び出しボタンを押す。僕の動作を見て、榊さんが急いでビールを空にした。一緒に頼むつもりであろう。


「お前さ。妙に面倒見いいとこあんじゃん? 初対面のあたしを助けたり、その上同棲の提案まで引き受けてくれたり」

「はい」


「あたしがドタイプの女って以外に、なんか理由あんのか?」

「……」

 榊さんの中で僕は、彼女のドストライクの女性だという認知が完全に固まっているらしい。

 いや、正解なんだけど、そんなにまっすぐ言われると恥ずかしい。


 店員さんがきた。僕はコーラを頼み、榊さんはビールのおかわりをする。

 榊さんは、僕の返答を無言で待っている。

「えっと、ですね」


 自分の身の上を語ろうとして、思わず手が強張ってしまった。

 そんな僕に気が付いた榊さんの、優しい目線が降りかかる。

「大丈夫か?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 しばらくして、コーラとビールが届く。

 いつの間にか乾いていた喉を、コーラで無理やり潤した。


「さっき言った理由以外にも、自分のことをあまり話さない理由がありまして。単純に、自分のことを話すのが苦手ってだけなんですけど」

「そっか。なら、無理に話す必要はないぞ」

「いえ。榊さん相手だと、不思議と苦じゃないんですよね」


 そこで、一旦深呼吸。


「……僕が榊さんを放っておけなかったもう一つの理由は──」

 眉を撫でながら、僕は正直に自分の気持ちを話した。


「──僕の部屋の前で倒れてた榊さんの姿が、僕の妹と重なっちゃったんですよね」

「……」


 その言葉に、榊さんは数十秒間ほど黙り込んでしまった。

 そして、半分になっていたビールを一気に飲み込む。


 グラスがテーブルに置かれる音と、彼女の叫び声が重なった。

「あたしに似てる妹ってどんな妹ッ!?」

「に、似てるとかそういうことじゃなくて!」

 酒クズヤニカスダウナー面白メイドみたいな妹がいてたまるか! 妹、未成年だし!


「く、詳しく話しますからッ!」

 興奮する榊さんをなだめる僕なのであった。


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