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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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あら。あらあらあら

 (さかき)さん曰く、大家さんはこのアパートの101号室に住んでいるらしい。

 ちなみに、僕の部屋は201号室、榊さんの部屋は202号室である。


 現在、時刻は十七時頃。空の間から顔を出したばかりの斜陽が僕たちの体に熱を与えている。


 僕と榊さんは今、大家さんの部屋である101号室の前で佇んでいる。

 榊さんは、「外出るから、メイド服に着替えるわ」と言い、ジャージ姿からメイド服に早着替えして、現在はメイド服姿である。色々ツッコミたい箇所はあったのだが、僕は鋼の意思でスルーしたのであった。


 なんの躊躇いもなく、榊さんが大家さんの部屋のインターホンを押す。

 緊張の面持ちで待つこと、約十秒。


「はぁい?」

 玄関が開き、推定六十代くらいの白髪交じりのおばあさんが部屋の中から現れた。浮かべられた柔和な表情が、僕の緊張感を解きほぐす。


「ども、コンチワ。あたし、202の榊っていうもんですが」

 僕の代わりに、榊さんが対応してくれた。


 大家さんは、メイド服姿の榊さんを見てすぐに表情を綻ばせた。

「ああ、榊さんね。今日はどうしたの?」


 大家さんの視線が、ちらと僕に飛んだ。

 榊さんに肘で横腹を小突かれたので、僕は自己紹介をすることにした。


「初めまして。四月から201号室に住んでいる有馬(ありま)です。これ、よかったらどうぞ」

 昼に榊さんと近所の和菓子屋で買った、和菓子の詰め合わせを大家さんに渡した。


「あら、ありがとね」

 大家さんは、花を咲かせたような笑顔を浮かべた。どうやら喜んでくれたようだ。よかった。


「んで、本題なんスけど。あたしが家の鍵を無くしちゃってですね。予備とかあったりしますか」

「ああ、鍵ね。ごめんなさいね。夫と一週間沖縄にいってたものだから。夫は今、疲れて部屋で寝てるんだけれども」

「あ、いえ、それは全然」

 顔の前で片手を振る榊さん。


 大家さんは柔らかく微笑んでから、部屋の中に姿を消した。


 数秒後。大家さんは、両手に大量の荷物を持って僕たちの前に再び現れた。

「はい。これ、予備の鍵。本当は再発行の代金をいただくのだけれど、今回はわたしが家を外してたから、代金はいらないわ」

「え……いいんスか? あたしは遠慮しないスよ」


「あはは。いいの。このアパート経営も、年寄りの道楽でやらせてもらってるようなものだから、利用者に迷惑はかけられないもの。って、もう迷惑かけちゃってるわね」

「いや、全然。なんか、こっちこそスンマセン。アザス。じゃあ……遠慮なく」

 そう言って、榊さんは鍵をメイド服のポケットにしまった。


「あと、これもあげる。榊さんはお酒好きだものね」

「お。いいんスか? ザッス」

 榊さんは、大家さんから大量の酒瓶をもらっていた。わかりやすく、榊さんは上機嫌になっている。


「はい。有馬くんには、これ」

 そう言って、大家さんは僕の手にちんすこうやかりんとう、サーターアンダギー等のおみやげを握らせてくれた。


「あ、ありがとうございます。いいんですか? こんなに」

「いいのいいの。年よりは、若い子が喜んでくれる姿が一番嬉しいんだから」

 なんときっぷの良い方なのであろうか。

 都会で触れる人の温かみに、僕は素直に感動してしまった。


 しばらく三人で雑談をした後、榊さんが本題を切り込んでくれた。


「あの、本題の本題なんスけど」

 そこで、榊さんは両手で僕の肩をがっしりと掴んでこう言った。


「実は、コイツん部屋で一緒に住もうかなと思ってるんですけど、いいっスか? 駄目だったら、全然大丈夫ス。……あ、二人で住んでも家賃は全然二部屋分払いますんで」

「あら。あらあらあら」

 大家さんは頬に両手をあて、僕たちを交互に観察していた。


「あらぁ。そういうことね。わたしとしては全然大丈夫。二人暮らしは禁止してないし。片方退去するのなら、家賃も一部屋でいいわ」

「ガチっスか?」

「うん。ここの経営は年寄りの趣味みたいなもので、お金だけが目的じゃないから。それに、空いた部屋に新しい子がきたらもっと賑やかになるしね?」

 僕と榊さんは、顔を合わせて微笑みあった。


「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 そんな僕たちを見ながら、大家さんは楽しそうに頬をあげる。


「そんなことよりも、嬉しいわぁ。このアパートがきっかけでカップルが誕生するだなんて」

「別にカップルとかじゃ……」

「別にカップルとかじゃ……」


 言葉が重なり、僕たちは同時に下を向いた。

 みるみるうちに体温が上昇していく。

 なんでだろうか。他人に指摘されると、異常に恥ずかしいのは。


「あら。あらあらあら」

 そんな僕たちを見て、大家さんの笑顔は更に彫りを深めていく。


「応援するわ。こんなアパートでよければ、いつまででもいていいからね。別に、(つい)棲家(すみか)にしてくれてもいいのよ? なんてね」


 邪気のない大家さんの笑顔に、僕と榊さんは押されっぱなしであった。

 全身を深紅に染めながら頭を下げ、僕たちは大量のお土産を持って僕の部屋に戻った。


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