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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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アル中の赤ちゃんみたいですね

 昼食を食べた後。僕らはなにをするでもなく、テレビを付けてダラダラと過ごした。


 (さかき)さんはずっと、酒を飲みながらスマホを見ている。絶対Twitterだ。

「紫の赤ちゃん、紫ちゃん……っと」

 ほら、やっぱりTwitter。


 こういったなにもしない時間帯、榊さんはしれっと僕に身を寄せてくる。

 具体的に言うと、僕は今テーブルの近くで足を伸ばして座っているのだが、榊さんはそんな僕の(もも)の辺りに頭を置いて寝転がっているのだ。


 これはもう、家族同士とか、ペットと飼い主の距離感だろ。

 それか……も、もしくは、恋人──。


「なんだ、エロいことでも考えてんのか?」

「ち、違います!」


 変なことを妄想する前に、目ざとい榊さんに見つかってしまった。恐らく、僕がまたキモい顔をしていたのだろうな。

 顔が緩んでしまわないよう、顔面に無理に力を入れていると。


公太郎(こうたろう)。酒。酒飲ませてくれ」

「は?」

 不意にめちゃくちゃなことを言われて面食らう。


 下を見ると、榊さんが僕を見上げながら口を開けていた。

 アホみたいな絵面だが、榊さんだからなんだか様になっている。

 こんなわけのわからない状況でも()になるの、ズルくないか?


「起き上がって自分で飲んでください」

「めんどい。飲ませてくれ」

 榊さんは口を開けたままだ。こうなると、彼女はテコでも動かないだろう。面倒くさい。


「まあ、いいですけど」

「いいのかよ。お前、面倒見いいよな」

「寝転がっている人間に酒を飲ませることを面倒見がいいとは言わないでしょ」

 言いながらも僕は、テーブルの上のロングのストロング缶を手に取り、榊さんの口元に飲み口を近づける。中身は既に半分ほどが減っていたから、溢す心配は多分ない。


 榊さんは、飲みやすいように自分で首を浮かせてロング缶を迎えた。

 飲み口が彼女の口に付く。僕は、榊さんの首が疲れてしまわないように、彼女の後頭部に空いた手をやり、支えた。


 榊さんがむせてしまわないよう、少量ずつ彼女の口に流し込んでいく。榊さんはそれを、喉の力だけを使って胃に落としていく。


 なぜだかわからないが、今、僕の胸は無償に高鳴っている。


 恥ずかしさと、高揚感が混合したかのような妙な気持ち。

 すぐにその理由がわかった。


 ……これ、超特殊な赤ちゃんプレイみたいだからだ……。


 今の自分たちを俯瞰してみよう。ストロング缶を僕に飲まされる榊さん、という歪な構図だ。


 普段は僕の上に立ち、僕を弄り倒している榊さんを赤ちゃんのように扱っているという背徳感が僕を燃え上がらせた。


 ……いや、実際は榊さんが僕に酒を飲まさせているだけで、依然として僕の立場は下なのだけれど。まあ、それはそれで興奮するから大丈夫だ。


 というか、今の榊さんの状況……。


「アル中の赤ちゃんみたいですね」

「──ぶっ!?」


 (はじ)ける雫。

 僕の顔に、酒が吹きかけられた。

 榊さんが咳き込んでしまったのだ。


「あッ、だっ、大丈夫ですか!?」


 慌ててロング缶をテーブルの上に置く。

 榊さんは、咳をしながら反射的に上体を起こした。


「……っ、くッ、はははは!」

 咳き込みながらも彼女は、終わらない花火のように絶えず笑っていた。


「ア、アル中の赤ちゃんって……! ふっ、あははははッ! ははっ、──がホッ!」

 苦しそうに、でも笑い続ける榊さんの背を僕はさすり続けた。


「はぁ……、ふ、ははっ! ……はぁ、はぁ……。ヤベ、なんかツボ入った……ッ! ははッ!」

 細い指で涙を拭う榊さん。雫が彼女の指を伝う。


「ちょ、ちょっと待っててください!」

 僕は、急いで洗面所へと向かった。


 そして、持ってきたバスタオルでお互いの顔を拭く。

 その間、榊さんは涙の浮かんだ瞳で僕を見つめていた。


「ご、ごめんな。酒吹きかけちまったな」

「いえ」


「あ、そうか。お前なら喜ぶのか」

「はい」

 いや、はいじゃないだろ。


 そんな僕を、榊さんはもうキモがりもしなかった。未だに、さっきの僕の発言を思い出しては、爆笑と落ち着きを繰り返している。


「だ、駄目だ……。もうこの飲み方はできねぇな。絶対途中で吹き出しちまう。結構よかったんだけどな」

「そうですね」

 ……って、ん?


「結構よかったんですか?」

「──あ」


 しまったというように瞼を上げてから、榊さんがうつむいてしまった。

 彼女の頬には、鮮烈な赤が走っている。


 今の飲み方をしている最中、榊さんも僕と似たような気持ちだったのか?


 黙り込んでしまった榊さんに、勇気を出して僕から声をかけた。


「そ、その。僕も結構よかったので。……また、してみますか?」

 いや、なんだよこの気持ちの悪い提案は。


 僕たちの間に、夜のように長い沈黙が訪れた。


 怒鳴られてしまうだろうかと身構えていたのだが。


 やがて、榊さんは微かに顎を引いた。


「……か、考えとく」

 恥ずかしそうに横髪を指でまとめる榊さんは、なんというか、少女らしささえ感じた。


 体をよせてきたり、ベッドに潜り込んできたり。やっぱり彼女、結構甘えたがりなのかも。


 それって。

 なんだか凄く。

「えっちだ……」

「はぁぁあっ!?」


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