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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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シラフでよくそんな恥ずかしい台詞言えるな

 朝。目を覚ますと目の前に(さかき)さんがいた。


 榊さんは既に起きていて、至近距離から僕の顔をじっと見つめていた。

 寝起きに見る榊さんの御尊顔は僕には刺激が強すぎる。いい意味で。


「おはようございます」

「ん、おはよ」

 榊さんは少しも表情を変えず、ずっと真顔のままだ。


「あの、そんなに僕の顔を見てどうしたんです?」

「いや、公太郎(こうたろう)だなーって思って、見てた」

「は、はぁ……」


 よくわからないが、僕も無言で榊さんの顔を眺めることはよくあるのでなにも言えなかった。


 そんなことを考えていたら、気付けば僕たちは数十秒間無言でお互いの顔を観察し合っていた。


 意識してか意識せずか、僕たちの顔は自然と近づいていく。

 この距離だと、榊さんの長い睫毛がよく見える。


 特になにかきっかけがあったわけではないのだが、僕たちは同時にハッとして上体を起こす。

 なぜかバツが悪そうに、榊さんは僕から目をはなす。


「メシにすっか。あたし、なんか作るわ」

「僕も手伝います」

「ん」

 そうして、僕たちはそそくさとキッチンに移動するのだった。


   〇


 なんとなく二人とも和食の気分だったので、手分けして味噌汁と目玉焼きを作った。

 朝からご飯を作るという経験が僕にはなかったので、かなり新鮮な経験となった。


 米は冷蔵庫で冷やしていたものを温めた。米をあまり食べないと言っていた榊さんだったが、朝は普通に食べるらしい。さすがの榊さんでも朝からは酒を飲まないから、ということであろうか。


 二人同時に、朝食を食べ終えた。

「酒飲んだ翌日の味噌汁は染みるなぁ」

 その感覚は僕にはよくわからないのだが、作りたての味噌汁はとても美味であった。


「今日休みだから、洗いもんしとくわ」

「ありがとうございます」

 お言葉に甘えることにして、大学へ向かう準備を進める。


「それじゃ、いってきます」

 玄関で靴を履きながら言うと、キッチンに背中を預けた榊さんが気の抜けた表情のまま、ひらりと僕に手を振った。


「いってらっさっせ。気ーつけてな」

「はい」

 好きな人に見送られるだなんて、僕はなんて幸せなんだろうか。

 今週も、頑張れそうだ。


   〇


 講義を終えて家に帰ってきたのが昼過ぎ。

 榊さんから届いたLINEに、『昼はなんか作っとくわ』とあったので、昼食を食べずにそのまま家に直帰した。


 自分の部屋に入ると、キッチンに立っていた榊さんが僕を向かえてくれた。

 今日一度も外に出ていないであろう彼女は、いつものメイド服ではなく、シャツとジャージズボン姿のままだ。


「ん。お帰り」

 ケチャップの焼ける匂いがする。オムライスだろうか。

 いやそれよりも、だ。


「もう飲んでるんですか?」

 榊さんの手には、チューハイのロング缶が握られていた。見るからに、度数の強そうなパッケージをしている。


「休みだし、別にいいだろ」

 あっけらかんとして、榊さんはロング缶を煽る。


「いいですけど、今日は大家さんに会いにいくんですよね」

「んー。ちっとしか飲んでねぇから大丈夫」

 榊さんはそう言うが、キッチンの隅には空になったロング缶が既に二本ほど置いてある。カコン。あ、今一本増えた。


 まあ、この程度では榊さんは酔わないからいいか。


 ……本当にいいのだろうか。毎日榊さんと一緒にいるものだから、感覚がマヒしてきている気がする。


 数分後。リビングで待っていると、二つの大皿を持った榊さんがやってきた。

「ちっと失敗したわ」


 テーブルに置かれたのはオムライス……というよりは、チキンライスの上にボロボロの卵焼きが置かれた料理であった。


「オムライス作ろうとすると、いっつもこうなるんだよな。スマン」

「いえ。美味しそうですよ。ありがとうございます」


 僕もオムライスは何度か作ったことはあるが、毎回榊さんと似たり寄ったりの見た目になる。

 しかし、僕の言葉をお世辞だと解釈したのか、榊さんは申し訳なさそうにこう溢す。

「だからこれは特別サービスだ」


 榊さんは、手に持ったケチャップで僕のオムライスになにかを書いてくれた。

 また意味のわからない文字シリーズだろうか。そう思ってオムライスを覗き込むと。


 そこには、少し不格好なハートが描かれていた。


 そのシンプルな愛情表現を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃が僕の頭と心臓を殴った。


 勿論、別に深い意味なんてないのだろう。ケチャップで描く際の、かなりオーソドックスな模様だろうし。

 だが、それでも嬉しいものは嬉しい。

 そんなことを思いながら榊さんの方を見ると。


「こ、こっち見んな……」

 自分から描いたというのに恥ずかしくなったようで、彼女は艶のいいケチャップみたいに赤くなっていた。

 このメイド、かわいすぎる。


「ありがとうございます。嬉しいです」

 僕はそんな彼女を茶化すことなく、オムライスを食べた。

 かなり味が濃く、酒が進みそうな味だ。

 なるほど。米系の食事でも、味が強ければ酒を飲めるのだろうな。


「スマン、ちょっと濃かったな。つい癖で濃く作っちまうんだ」

 オムライスを食べながら、榊さんがそう言った。


「大丈夫です。愛情がたくさん入っている証拠ですね」

 僕の言葉に、榊さんの目が点となる。

「お前、シラフでよくそんな恥ずかしい台詞言えるな」

「……」

 急にスンとした表情で言われてしまう。


 先ほどまでの甘やかな空気は一瞬で霧散したのだった。


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