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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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キモさの牽制してきやがった

 (さかき)さんが風呂をあがったあとに、僕がシャワーを浴びた。


 シャワーを済ませてすぐに風呂を出る。洗濯が終わっていたようなのでベランダへと出ると。


「干すんなら、あたしも手伝う」

 缶チューハイを片手に持った榊さんが後ろからやってきて、ベランダに顔を出した。


「榊さん、お皿洗ってくれたじゃないですか」

「まー、いいだろ。その辺は」

 彼女の言葉に、僕は曖昧に頷く。


 そして二人して、洗濯機の中身を洗濯かごの中に移動させる。量が多いように思えるのは、榊さんのメイド服一式がぶちこまれているからだろうか。


 そういえば、今までの洗濯は僕が大学にいっている間などに榊さんがしれっとやってくれていた。

 ただ彼女は、干すだけ干して一切服を畳もうとはしなかった。「どうせ着るのに服を畳む意味がわからん」と言い、乾いた服をそのままベランダからかっぱらって着ているようであった。

 それでも彼女はいつも僕の分だけはきっちりと畳んでくれている。優しい人だ。


「いつも、いつの間にか洗濯してくれてますよね? ありがとうございます」

「あん? いいって。家事はあたしがやるって言っただろ。むしろ、あんがとな。手伝ってくれて」

「いえ、そんな」


 これから一緒に住んでいくことが正式に決まったのだ。それなら、家事の分担とかもしっかりと考えた方がいいのだろうか。

 なんてことを考えていたら、自然と頬が緩んでしまった。

 そんな僕の顔を見て、榊さんが邪悪に口を歪めた。


 僕の心情を読んだ彼女に弄られてしまう前に、先に思ったことを告白してしまおうと思い立った。


「あ、すみません。これから一緒に住んでいくのなら家事の分担とか考えた方がいいのかなとか考えてたら付き合い立てのカップルみたいだななんて思いなんだか嬉しくなってニヤケてしまいました」

「うお!? ついにキモさの牽制してきやがったッ!?」

 キモさの牽制ってなんだよ。

 一気にキモい台詞を言い終え、一息つく僕。そんな僕を尻目に、榊さんは手に持った缶チューハイをベランダの手すり壁に置く。


「ま、無理に決めなくてもいんじゃねぇの?」

 壁に背を預け、彼女は真面目にこう言うのだった。


公太郎(こうたろう)と一緒に料理したり洗濯したりすんの、あたし、結構楽しいから」

 僕の瞳に閉じ込められた榊さんの微笑は、彼女の背景の夜景よりも星よりも、なによりも輝いて見えた。


「僕もです!」

「はいはい。さっさと干して中戻るぞ」


 二人の間に洗濯かごを置き、僕らは無言で洗濯物を干していく。


「公太郎って、あたしの下着に拒否感とかないのか?」

 急にセンシティブな話題をぶっこまれて、僕の動きが止まってしまった。


「な、ないですけど。どうしてです?」

「いや? 触りたくなかったらあたしが干すからさ」

 なるほど。そういうことか。


「いえ、大丈夫ですよ。というかむしろ、触られたくないんじゃないですか?」

「別に? どうでもいいな」

 さらりと言う榊さん。


「まあでも、一緒に干すときは自分の下着は自分で干すことにするか」

「そうですね」


 ちらりと上を見る。僕の右手側、洗濯機の上辺りに、物干しハンガーが吊るしてある。

 僕はそこに、自分の下着や靴下を先に干して壁を作った。これで、外から榊さんの下着が見えることもないだろう。


「ありがとな」

 僕の意図に気が付いた榊さんが、礼を言ってくれた。


「そういや公太郎、妹いるって言ってたよな」

「はい」

「なんか、そんな気するわ」

「そうですか?」

「おん。なんか、異性との適切な距離感をわきまえてるっつーか」

 そんなこと、初めて言われたな。


「まさかお前、女慣れしてる?」

 女慣れて。


「してないですよ。普段の僕見ればわかるでしょ」

「それは、相手があたしだからだろ?」

「はい」

「はいって」


 一瞬にして静寂が訪れる。


 僕らはお互いの顔を見つめながら、静かな瞬きを繰り返した。

 先に視線を逸らしたのは、榊さん。


「お前、ホント、あたしのこと好きだよなー……」

「あ、はは。そう、ス、かねー……」

 

 もう、何度こんなやり取りをしただろうか。


 なんだかまごつきながら、僕らは残りの洗濯物を干してしまった。


   〇


 歯を磨いて寝る準備を済ませ、ベッドに横になる。

 特にやることもないので、目的もなくスマホを眺めて休んでいると。


「よいしょっと」

 榊さんが僕のベッドに(のぼ)り、寝転がった。


 いや、なんで?


 彼女は僕の顔を至近距離でじっと見つめてから、やがて背を向けてテレビを眺め始めた。


「あの。どうしたんですか?」

「ん。別に」

 僕に背を向けたままに榊さんが答えた。彼女は今、どんな表情をしているのだろうか。


「い、一緒に寝るんですか?」

 僕の問いに、榊さんは間を置かず答える。


「一緒に寝たいのか?」

「えっと……」


 そりゃあ、一緒には寝たい。勿論、恥ずかしくはあるけれど。

 僕が言い淀んでいると、榊さんの声が飛んできた。


「ん? 今日は、すぐに「寝ません!」って言わないんだな?」

「あ」

 榊さんがゆっくりとこちらに体を向けた。彼女の目は、楽しそうに細められている。


「それは……」

 そうだ。榊さんと初めて会った日。僕は、仲良くなって段階を踏むまでは一緒には寝ないと言った。

 でも僕は今、榊さんの提案を跳ねのけるどころか飲み込みかけていた。それくらい、榊さんとの心の距離が知らない間に埋まっていたということだろうか。


 いや、話はもっと単純だ。

 それはたぶん、僕が榊さんへの恋心に気が付いたからだ。


 榊さんは優しい微笑を浮かべながら、もう一度こう言うのだった。

「寝るか? 一緒に」


 今回は、からかっている顔ではない。

 恥ずかしがっているときの榊さんの顔でもない。


 ただ真剣に、彼女は僕との同衾(どうきん)を誘ってくれている。


 そんな誘惑の言葉に、僕は──。


「……はい」


 堕ちて、しまった。


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