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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
二章 駄メイドと送る同棲生活

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あたし、ずっとクソ滑ってなかったか?

 結局、僕らは家に着くまでずっと手を繋いでいた。

 二人とも、手をはなすタイミングがわからなかったのだ。


 僕が家の鍵を開けているときも、(さかき)さんはずっと僕の手を握っていた。

 その彼女の体温の温かさに、僕の心は柔らかくほぐされた。


   〇


 夕飯は、二人で協力して作ることにした。

 といっても、二人ともあまり料理は得意ではないし、冷蔵庫の中には残り物しかなかったため、必然的に簡単なものになる。

 料理をしない人間が作る簡単なものは、パスタかチャーハンか野菜炒めの三択だ。

 でも確か、榊さんは米をあんまり食べないんだよな。


「なに食べたいですか?」

「なんでも」

 そう言いながら、榊さんは台所のありとあらゆる引き出しをバコバコ開けていた。この人、人ん()への順応早いよな。


「パスタソースあるし、パスタにするか? 楽だし」

「そうですね」

「パスタソースって、二人前のやつばっかでさ。一人だとちょっと多くて使い辛いんだよなー」

「わかります」


 初めての共同料理は、茹でるだけのパスタになってしまった。


 鍋でお湯を沸かし、そこに塩を入れる。

 その様子を見て、榊さんが腕を組んだ。


「塩って意味あんのか?」

「なんか、茹でるときに吸収して、ちょっと味付くらしいですよ。YouTubeで見た事あります」

「へー」


 湯が沸く様子を、僕らはじっと黙って見ている。こうしていると、小学生の頃の理科の実験を思い出す。確か、沸騰石とか入れてたよな。


 榊さんは、冷蔵庫からビールを取り出し、無言で飲んでいた。

「キッチンドランカーって言葉があんだけど」

「はい」

 酒を飲みながら料理を作る人のことだっけ?


「あの名前、必殺技みたいでかっこよくて好きなんだよな」

「ちょっと、わかります」

「……」

「……」


 沈黙を破るのは、鍋の中で水が沸く音だけ。

 榊さんといるときの静寂は、僕は嫌いじゃない。嫌な感じがしないからだ。


「なあ、公太郎」

「はい」


 少し泡が出始めた鍋を眺めていると、榊さんが迫真の顔でこんなことを言ってきた。

「──帰ってからのあたし、ずっとクソ滑ってなかったか?」

「なんなんだよ急に」


 なぜだかはわからないが、榊さんは冷や汗を顔に浮かべていた。


「なんか、うっっすいあるあるみたいなことしか言ってねぇし、中身のない映画の台詞かよ」

「なんてこと言ってんだよ」


 肩を落とす榊さん。

 あれ? なんか、普通に落ち込んでるみたいだ。

 ホントに笑いに貪欲だな、この人。


 僕は、自然と微笑んでいた。


「別に僕は、中身のない会話も好きですよ。榊さんとなら、面白い会話もどうでもいい会話も。全部楽しいですから」

 僕のその声で、榊さんはハッとしたように顔を上げた。


「……スマン。そうだよな。今のはちょっとめちゃくちゃ言い過ぎたわ」

「いや、別にそれは大丈夫ですよ。僕は、めちゃくちゃなあなたが好きなので。榊さんは、めちゃくちゃなままでいてくださいね」

「お前、やっぱちょっと歪んでるよな」


「あ。ちなみに、今の好きは別にそんな、あれのあれじゃないんであれですよ」

「どれのどれのどれだよ」


 鍋の中が沸騰し始めたので、僕はノータイムでパスタとパスタソースを同じ鍋に入れた。

 すると、榊さんはなぜか後方腕組み彼氏面で頷いていた。


「お前はそうだと思ったよ」

「は、はい……?」


 榊さんの拳が僕の顔に近づいてくる。びっくりした。

 殴られるのかと思ったが、どうやらグータッチを求められているだけだと気付く。いや、なんで?

 よくわからないままグータッチに応じたが、遅れて榊さんの言葉の意味がわかった。


 そういえば、パスタとパスタソースを同じ鍋で茹でることを嫌がる人が割といるのだという。

 榊さんはまあそんなことは気にしないだろうなと思い、特に確認することもなく同じ鍋を使ってしまった。


 僕と価値観が似ていることが嬉しかったのだろうか。榊さんは上機嫌でビールを飲みながら、茹でられるパスタを眺めていた。


「あたしら、結構いい夫婦になりそうだよな」

「ぶっ!?」

 急にのろけみたいなことを言われ、僕は咳き込んでしまう。


「ふは。冗談だよ。うろたえすぎだ、バーカ」

「あ、そう、ですか……」


 僕は、息を整えたあとに榊さんの顔をちらりと窺い見る。


 ……。


 自分で言ってみたは良いが恥ずかしくなったのか、彼女は耳と顔を真っ赤にして少し震えていた。


 は? なんだこのかわいい生物(せいぶつ)は。

「榊さん。かわいすぎるのであなたを国内希少野生動植物に勝手に指定し、僕が保護します」

「この上なくキモいなお前はッ!?」

 榊さんの絶叫が狭いキッチンに木霊した。


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