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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
一章 駄メイドと過ごす一週間

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この繋がりが消えてしまいませんように

 まりにゃんさんとルイにゃんさんに別れを告げ、僕らは帰路に付いた。


 時刻は十六時。夕暮れには、まだ少しだけ早い。


 錦糸町駅で降り、アパートに向かって歩を進める。


 僕らの関係は、少しは進展したのだろうか。

 した気もするし、今までとなにも変わらないような気もする。


 二人とも変にお互いを意識するというようなことはなく、今まで通りのくだらない雑談をかわし合っていた。


 榊さんの隣を歩く僕の頭には、彼女が屋上で言っていた言葉が思い出されていた。

 彼女は、面白い人がタイプなのだ。


 ありがたいことに、榊さんは僕のことを面白いと思ってくれているようだ。でも、僕は正直自分のことを面白いと思えない。どこにでもいる普通の人間だ。


 だから、僕は怖いんだ。

 いつか、榊さんに見捨てられてしまうんじゃないかって。


 例えば、僕が今よりも面白くなくなったらどうする?


 僕よりももっと面白くて、僕よりももっと彼女の好みの人間に榊さんが出会ったらどうなる?


 この関係は、薄氷の上に成り立っているような気がしてならない。


 そのとき、とある決意が確かに僕の魂に灯った。


「榊さん」

 足を止める。


 そんな僕に気が付き、榊さんも歩くのをやめて体ごと僕を振り向いた。


「すみません。今から僕は、変なことを言います」

「その前置きがもう変だけど、なんだ?」


 どこかから踏切の音が鳴り。

 子どもたちの笑い声が聞こえてくる。


「僕は」


 喧騒の多い東京で、僕の声が消えてしまわないように。

 榊さんに、言葉を届けよう。


「もっと面白くなります。あなただけのために。あなたに失望されないように」


「……ふは」

 僕の好きな人は、いつもの気の抜けた笑い方で息を吐く。

 そして、少し茜が(にじ)み始めた空の端の色を、瞳に(ひた)してこう言った。


「んな気負わなくてもいンだよ。気楽に生きようぜ、あたしみたいに」

「榊さんはちょっと気を抜きすぎです」

「言うじゃんか」


 すぐに榊さんの横までいき、歩みを再開する。

 すると。


「うり」


 と言いながら、榊さんが僕の手を指で押してきた。


 彼女の方を見る。


「その。なんつーか」


 榊さんは、前髪を自身の指で弄りながら、くすぐったそうにこう言った。


「ひ、暇だし、手でも繋いで帰るか?」

「え」


 思わぬ提案に、僕の瞳孔が広がる。

 というか、誘い方がかわいすぎる。暇だしってなんだよ。


「僕は嬉しいですけど、いいんですか?」

「ああ。暇だしな」

 暇だしはそんな万能なワードじゃないだろ。


 路上で立ち止まる。


 僕らの指が行き場を失い、宙でダンスする。


 そして、僕らはどちらからともなく指を絡めた。 


 陽光にも負けない彼女の温かな体温が、僕の体温と混ざる。


 改めてこういうことをするのは、さすがにちょっと気恥ずかしい。

 そんなことを思っていると、榊さんは急にその場にうずくまってしまった。


「榊さん?」


 彼女は、顔から火を出しながら掠れた声でこう言った。


「……やば。ガラじゃないから、なんか恥ずかしくなってきた」


 榊さんは、明らかに僕よりも恥ずかしがっていた。


 なんて愛おしいメイドなのだろうか。

 そんな彼女を見ていると、比較的落ち着いていた僕の心臓が元気に暴れ出す。


「と、とりあえず、家に帰るまでは繋いでみましょうか」

「そ、そだな」


 そうして、僕らは手を繋いだまま家路を辿(たど)った。


 夕焼けがこの世界に落ちてくるまでには帰れるかと思っていた。だが、家に着く頃にはすっかり辺りはオレンジに侵食されていた。

 それはたぶん、どちらからともなく歩くペースを落としてしまったから。


 少しでも、長く手を繋いでいたかったからだ。


 大切なこの繋がりが消えてしまいませんように。

 きっと、二人ともそう願っていた。


簡易あとがきです。


今回で一章が終わりです。


明日から二章が始まるので、よろしくお願いします。


もしよければ、評価や小説のフォローをしてくださるととても嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
第1章、お疲れ様でした! どこか変わった2人のクセの強い会話劇、いつも楽しませていただいています。これからも執筆頑張ってください。榊さんのネタツイもドシドシお願いします。 インフルエンザも流行っており…
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