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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
一章 駄メイドと過ごす一週間

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いいよなぁ、煙は。榊さんに吸ってもらって

 僕と(さかき)さんは、再び屋上の椅子に座り直して空を仰いでいた。


 僕らの間に会話はない。

 沈黙を破るのは、新しい煙草に火を付けた榊さんの煙を吐く音だけ。


 いいよなぁ、煙は。

 榊さんに吸ってもらって、一瞬榊さんの一部になって。それで、空に吐き出されるなんて。

 ああ、煙じゃなくてニコチンもいいな。榊さんの中で、ニコチンからコチニンに変化するんだ。ははは……。


 ……。

 なんて、キモいことを考えて現実逃避している場合ではない!


 先ほど僕は、榊さんを引き留めるためとはいえ、凄い気持ちの悪いことを言ってしまった!

 いや、それはいつものことといえばそうなんだけれど!


「なあ、公太郎」

 声とともに、榊さんが煙を世界に混ぜた。


 そして──。


「さっきのは、告白か?」

「……」


 不意に舞い込んだ突風が、屋上を舐めあげる。

 風で暴れる榊さんの前髪。その隙間から、彼女の綺麗な形の瞳が確かにこちらを向いていた。


 僕は、榊さんの問いにしばらく返答することができない。


 黙る僕に、榊さんの追撃が襲う。


「それとも、いつものキモ発言か?」

 真面目なトーンだが、少しだけ茶目っ気を混ぜたような言い方であった。

 僕が言いやすい空気を作ろうとしてくれているのだろうか。


 そんな彼女に、僕は。


「どっちにとっていただいても大丈夫です」


 なんて、逃げた回答をすることしかできなかった。

 本当に情けない男だ、僕は……。


「ふーん……」


 小さく生み落とされた榊さんの声。

 僕らは、静寂の中でお互いを見つめていた。


「じゃあ、半分は告白の可能性があるわけか……」

「え?」


 不意にそう呟いて、彼女は無言で僕から顔を逸らす。


「榊さん、今のって……?」

 追及するが、榊さんからの返答はない。


 彼女の言葉を待ちながら、僕はじっと榊さんの背と首と後頭部を眺めていた。


 ……ん?


 あ!? うなじがめっちゃ赤くなってる!?


 恥ずかしくなるとすぐに赤くなるの、めちゃくちゃかわいいんだよな……。


 ということは、少しは僕の告白(仮)を意識してくれているということでいいのか?


「榊さん」

「んお? おう」

 榊さんは、僕の顔を見ることなく応じる。


「さっきは、急に変なこと言ってすみませんでした」

「お前の発言はいつも変だろ」

「あんたもな」

 いや、ボケ合いツッコミ合いをしている場合ではなく。


「そ、その……。あ、あんまり気にしないで今まで通り接してくれたら嬉しいです」

「ん。そだな」

 すげなく答える榊さん。だが、髪の間から見える彼女の耳は、こちらにまで熱が伝わってきそうなほどに赤らんでいる。


 しばらくしてから、榊さんが急にこう言った。


「まー、お前があたしのことを好きだと仮定するとしてだ」

「はい。……はい!?」


 急に凄い仮定で話が始まってしまい、僕の心臓は縮こまってしまう。


「別に、あたしがその気持ちに気付いて利用しようとしてたとかじゃあねぇから、安心してくれ」

 その言葉に、僕は静かに顎を引いた。


「同棲の提案は……。勿論、あたしのリハビリ目的はあった。でも、それだけじゃねぇ。前も言ったろ? 公太郎(こうたろう)が寂しそうな顔してたからだよ。なんだか、放っておけなかったんだ。あたしも意外と寂しがり屋だからな。そういう奴は、結構わかるんだ」


 煙草を叩き、灰を落とす榊さん。

 榊さんの言う通り、彼女は自己中心的な部分も持ち合わせているのだろう。でも、それ以上に彼女は優しい。それは僕が一番知っている。


「あとは、まー。あれだ」 

 そこで、榊さんは少し俯き言葉を止める。


「あたし、おもしれー男がタイプなんだよ。……だからだよ、あたしから同棲の提案したの。それも、理由の一つ」

「……?」


 榊さんは、僕の反応を窺うかのようにチラチラと視線を送ってくる。

 しかし僕は、榊さんのその言葉の意味が理解できなかった。


 だって僕は、自分のことをあまりおもしれー男だとは思っていないから。


「つまり、どういうことです?」

「お前、マジか」

 榊さんが、呆れたように煙を吐いた。


「えっと。榊さんが僕のことを面白いと思っていて、榊さんのタイプが僕みたいな人ってことですか?」

「ごほっ!?」

 今度は、ゲホゲホと咳き込む榊さん。


「お前なぁ~~……!」


 彼女は、僕を睨みながらも、恥ずかしそうに身を縮こめていった。


 え、本当にそういうことなのか!?

 

「榊さん? 今のは、告白、ですか……?」

 今度は、僕がその質問をする番だった。


 榊さんは短くなった煙草を潰す。


 そして、赤くなった顔のままで強気に笑みながら。


「どっちにとってくれてもいいぜ?」


 僕と同じ返答をした。


 そんな榊さんを見つめる僕は、彼女以上に体に熱を持ってしまったのだった。

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