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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
一章 駄メイドと過ごす一週間

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あたしは今Twitterで忙しいんだよ

 壁際の席に座り、待つこと数分。


 (さかき)さんは、青髪メイドのルイにゃんさんに首根っこを掴まれてずるずると店内を引きずられていた。

 客も客で、そんな光景は日常なのか、誰も気にしている人はいない。

 なにこのメイド喫茶。


 背の高い榊さんを一人で引きずることのできるルイにゃんさんにも驚きだが、ルイにゃんさんになすがままにされながらも店内でスマホを眺め続ける榊さんにも驚きだ。色々と。

 榊さんはなんとも怠そうな表情をしているが、律儀に猫耳は付けているから面白い。


 ルイにゃんさんは、榊さんを引っ張りながら楽しそうに開口する。

「さかにゃん。ご指名だよん。にゃ」

「は? この店にチェキ以外で指名制度なんてねぇだろ。あたしは今Twitterで忙しいんだよ。あたしなんかを指名する客なんて、今すぐ帰らせろ」

 ご主人様よりTwitterを優先するメイドってなんなんだよ。


 ルイにゃんさんは、僕が座る席までやってくると、榊さんを解放した。


「なんだよ、あたしに用って……。うげっ、公太郎!?」

 榊さんは、僕を見るなり露骨に嫌そうな顔をした。「うげっ」って。


 それから彼女は、バツが悪そうに黒目を右往左往させる。テンパりすぎだ。


「いや、まあ、そりゃくるか……。あたしの店知ってんだもんな」

 と、彼女はなにやらブツブツと言っている。


 なんだか煮え切らない榊さんに、僕は自分の気持ちを飾らず伝えることにした。

「さかき……さかにゃんさん。僕は、あなたと話をしにきました。でも、迷惑だったら帰ります」

「別に、迷惑じゃねぇよ」


 頬を掻きながら、榊さんは僕の正面の席に座った。


 すぐに、特大のため息が榊さんの口から漏れた。

 頬杖をつきながら、榊さんは僕の顔をじっと観察している。


「あー。んー」

 そして、言葉にならないような言葉をしきりに吐いていた。


 しばらくして、再び嘆息。


 そして榊さんは、渋々といったふうに語り出す。

「……急に突きはなすような真似して悪かったな。許してくれ。たまに、ヘラるときがあんだよ」

 横髪を指で弄り、榊さんが瞳に決意を宿した。


「……ちっ。しゃーねー。あたしも逃げずに公太郎(こうたろう)と向き合うか」

「さかにゃんさん……」

「そうだ。今のあたしは榊じゃなくて、さかにゃんだ。話はあたしの仕事が終わってからな」


 榊さんは、テーブルのメニュー表を手に取り、それを僕に手渡した。


「ん。なに頼む?」

 榊さんの顔には、優しい笑みが咲いていた。


   〇


 昼にカップラーメンを食べたところだったので、注文はクリームソーダと小さなパンケーキだけにした。

 本当はまた、あの美味しいオムライスを食べたかったのだけれど、それはまあ別の機会に。


「おまったっしゃっしゃっしゃ~~」

 わけのわからないことを言いながら、榊さんが料理を僕の席まで運んでくれた。


 相変わらず生クリームがモリモリのメロンクリームソーダと、こちらも生クリームがマシマシのパンケーキ。やばい、パンケーキ一枚に乗せる生クリームの量じゃない。胃もたれ必死だ。食べきれるかな。


「いただきます」

 さっそく、パンケーキを一口。うん。甘味の暴力。当たり前に美味い。


 榊さんは、以前のように僕の対面の席に座ってじっとこちらを眺めている。

「あの。仕事しなくていいんスか」

「あ~? してるだろうよぉ、今」

 ちらりとこちらを見たり、スマホに目を落としたり、榊さんが仕事をしているようには全く見えない。

 あと、彼女は今たぶん……いや、絶対Twitterを見ている。断言してもいい。


「これはながらってやつだよ、ながら。公太郎が好きそうだからやってんだ」

「な、ながら……?」

「女が興味なさそうになんかしながら、ヤるやつ」

「……」

 だから、僕の性癖当てゲームやめろって。


「沈黙ってことは正解か?」

「更なる黙秘権を行使します」

「公太郎はながらが好き……っと」

「いや、言ってないですから」

 なにやらスマホを操る榊さん。おい、まさかメモとかしてんじゃないだろうな。


「よし、公太郎の性癖トロフィーが集まってきたぜ」

「そんな汚いトロフィーコンプリートしてなんになるんだよ」

「……ふは」

 僕が突っ込むと、榊さんは白い歯の先をこぼした。


「やっぱ、お前と話すと楽しいな」

「……。僕もです」


 僕らの間に流れる時間も空気も、以前となにも変わらない。

 だからこそ、今日の電話や僕を避けようとしていた榊さんのことが、なにか(いびつ)な染みのように思えてくる。


 それからも僕は、榊さんと他愛のない会話をしながら料理を食べ進めた。


 料理を食べ終わる頃に、チェキタイムとなった。勿論僕はさかにゃんを指名した。


「ポーズなんする?」

「片方がハートで、片方がサムズアップのやつとかどうですか?」

「あれ、意外と頼むやつ多くて食傷気味なんだよな……」

「えぇ……」

 そんな人気なのか、あのポーズ。


「ま、お前がしたいならいいけど」

「いや、やめましょう。じゃあ、二人ともサムズアップで」

「おう」


「じゃあ、いくよ~ん」

 と言いながらカメラを構えてくれたのは、青髪メイドのルイにゃんさん。


 気持ちのいいシャッター音が響く。


 しばらくして、現像された写真を見たルイにゃんさんが頬を上げた。

「ん、いんじゃない?」


 ルイにゃんさんから渡された写真を、榊さんと二人で覗き込む。

 写真の中の僕らは、二人とも真顔でサムズアップをしている。自分で提案しておいてなんだが、なんなんだよ、この写真。


「じゃ、サインするな~」

 榊さんが、手慣れた手つきでチェキにサインとメッセージを書いた。


「ほいよ」

 渡された写真には、榊さんのサインとともにこう書いてあった。


『もう二度とくんなよ~』

 なんでだよ。


 ちらと榊さんを見ると、心底楽しそうにこちらを見て笑っていた。


 また、からかわれたみたいだ。


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