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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
一章 駄メイドと過ごす一週間

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なんと、姫カットの尻

 (さかき)さんに通話を切られ、僕はしばらく呆然とその場に立ち尽くした。


 いや、めちゃくちゃだ……! なにもかもが!


 百歩譲って同棲解消はいいとしても、その理由がわからなければこっちは納得のしようがない!


「……」


 しかし、感情とは裏腹に、次第に僕の怒りは沈静化していった。


 ……まあ、榊さんってそういうめちゃくちゃな人だよなぁ、と。いつの間にか冷静に考えている自分がいたのだ。


 僕は、そういう榊さんを好きになったのだ。めんどくさいところも含めて、だ。


 それはそれとして、実際に会って話さないと胸のもやもやは霧散しない。


 電話をしてもどうせ出ないだろうし、直接メイド喫茶に赴こうか?

 それはなんだか、ストーカーみたいで危ないかな……?


 そんなことを考えながらも、僕は榊さんの出勤日を確かめるためにTwitterを開いた。

 さかにゃんのアカウントに飛び、彼女のツイートを確認する。


 ……。


『水とかでも揚がってくれるなんか謙虚なじゃがいも』

『タイミーでしか雇えない伝説の殺し屋のババァ』

『「推しの苦しむ顔でしか得られない栄養素がある……w」と強がりながら、敵幹部だと判明した推しアイドルを殺すオタク』

『なんと、姫カットの尻』


 スマホをベッドにぶん投げた。


 クソが。ネタツイばっかりで榊さんの情報がどこにも載っていない!

 なんだこの欠陥アカウント!


「……。ふふ」

 クソ。榊さんのネタツイがボディブローのようにじわじわ効いてきた。なんだよ、姫カットの尻って。


 その後、お店の公式アカウントも見てみたが、どうやらキャストの出勤情報は載せていないようだ。

 ほかのキャストの個人アカウントを見ると、ちゃんと自分の出勤日を書いていた。なのに、さかにゃんはなにしてんだよ!


 もしかしたら榊さんの有志の客が、リプで教えてくれているかもしれないと思い、僕は榊さんの最新ツイート、『逆にあたしを送ってくる六年生』に飛んだ。

 いやこれ、僕のLINEをフル無視してる間にツイートされてるじゃねぇか。僕のLINEは見れずにネタツイする元気はあるってなんなんだよ。

 と、ネタツイッタラーの彼氏を持つメンヘラ彼女みたいな気持ちになりながら、そのツイートのリプを確認する。


 リプ数は一つ。そのリプには、こう書かれてあった。


『さかにゃん、これ、どういう意味ですか?』

 ただのマジレスであった。


 そのリプには、いいねが一つだけ付いていた。これ、榊さんのいいねか? 真顔で親指を立てる榊さんが幻視される。「いいね」じゃねぇよ。


 もういい。榊さんが出勤しているかはわからないが、こうなったら直接お店にいこう。

 榊さんに面と向かって「迷惑だ」と言われたら、潔く帰ろう。

 そして、榊さんとはもうなるべく会わないようにする。


「……、ぅ」

 ……そんなことを考えているだけで、自然と涙が溢れてきた。


 やっぱり、僕は榊さんが好きだ。めんどくさいところも、変なところも、めちゃくちゃなところも。

 どれか一つでも抜けたら、それはもう僕の好きな榊夜白(さかきやしろ)ではない。


 一応、榊さんをびっくりさせないようにメッセージを送っておこう。

『今からお店に向かいます。迷惑だったらブラックリストに入れてください』

 たぶん既読は付かないだろうが、読んではくれるだろう。


 出かける準備を手早く済ませ、家を出た。


 快晴に見下ろされながら、僕は駅までの道を遮二無二(しゃにむに)駆け抜けた。


   〇


 秋葉原駅で降り、榊さんが働くお店、『メイドを(にゃ)めるにゃ!』に早歩きで向かう。相変わらず、色々凄い店名だな。


 雑居ビルの中に入り、階段を上る。


 四階の、『メイドを舐めるにゃ!』の入り口の扉を押して中に入った。

 その瞬間、前にきたときとは比べものにならないほどの声と熱が僕を包み込んだ。


 日曜日だからだろう。客の入りも良く、それを捌くキャストの数も以前よりも多く、圧倒された。


 果たして、この中に榊さんはいるのだろうか。


 入り口付近で手持無沙汰になっている僕を見兼ね、近場にいた手の空いたメイドさんが近づいてきてくれた。


「お帰りなさいませ。にゃ。当店のご利用は初めてですか。にゃ?」

 その低音ボイスに、僕は呆然としてしまった。


 青髪ショートのかっこいい店員さんで、耳にはピアスが幾つもついている。そして、頭には勿論猫耳。バリバリにデコられたネイルも目を引く。

 麗しいイケメンで、声も相まって男性かと思ってしまったくらいだ。

 そんな中性的な風貌から律儀に発せられる「にゃ」の語尾が、なんともあざとい。

 彼女から感じるのは、イケメンギャル? といった異様な雰囲気だ。


「ああ、えっと。二度目なんですが……。その、今日ってさかき……さかにゃんはいますか?」

「さかにゃん?」

 青髪のメイドさんが首を微かにかしぐ。


「あー。さかにゃんのご主人様、ね。いるよ、さかにゃん。……にゃ」

 今、語尾忘れてたな。


「本当ですか」

「うん。でもアイツ、今日なんかいつもよりずっとダウナーで、店の裏でTwitterばっか見てる。にゃ」

 なにやってんだよ、さかにゃん。あと、店長もそれを許すなよ。


「さかにゃん、どうしたんですか? なにか言ってました?」

「んとね。どしたん? 話し聞こか? って言ったら、「全部あたしが悪いからほっといてくれ」ってめっちゃヘラってた」

「さ、さかにゃん……」

 本当に、どうしてしまったんだ。


 榊さんに一体、どういう心境の変化があったんだ?


「きみ、さかにゃんの事情についてなにか知ってる系? にゃ」

 青髪お姉さんの鋭い視線が僕に飛ぶ。


「知ってる、といいますか。知りたい、といいますか……」

「ふーん?」


 しばらく僕のことを観察したあと、ニマリ、とメイドさんの口端が吊り上がった。


「よくわからんけど、なんかオモロそ。ちょっとさかにゃん引っ張り出してきて、きみとバトらせるね」

「はい?」

 なにを言ってるんだ?


「ボクはルイにゃん。よろ~。にゃ」

 ルイにゃんと名乗った青髪のお姉さんは、軽快なスキップで店の奥に消えていく。

 まさかのボクっ子?

 このメイド喫茶は、濃いメイドしかいないのだろうか。


 まあ、榊さんの蛮行を許す店長だし、さもありなんといった感じだ。

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