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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
一章 駄メイドと過ごす一週間

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いつもよりも夜が狭く思えた

 一瞬でいつもの元気を取り戻した飛野(ひの)さんに、僕は詰め寄られることとなってしまった。


 飛野さんが見たものがお化けではないことは証明できたようだが、今度は別の意味で少し面倒なことになってしまったな。


 飛野さんを落ち着けるため、僕は簡潔に今の僕と(さかき)さんの状況を説明することにした。


 ある日、榊さんが僕の部屋の前で倒れていたこと。

 なんやかんやで一緒に住むようになってしまったこと。

 そして、僕が榊さんに恋をしていること。

 榊さんが、僕のことをどう思っているのかはわからないこと。

 その他、もろもろ。


 ……正直、僕は飛野さんに引かれる覚悟で榊さんのことを話した。

 だって冷静に考えると、六畳のアパートに大学生とメイドのお姉さんが一緒に住んでるって、なんだか凄い不健全な気がする!


 そんな懸念を抱いていた僕。だが、僕が話し終えると飛野さんはなぜか羨望(せんぼう)のような色を含んだ眼差しを僕に送ってきた。本当になんで?


「わぁ~! いいねぇ! 素敵な関係だぁ! やさぐれたメイドさんが家にいるだなんて、なんだかコントの設定みたい!」

「そ、そう?」

 そうかな? そうかも? 

 いや、そうか? そうでもなくないか!?


 その食いつき方は、さすが飛野さんという感じだけれど。


「コントはやっぱ、ぶっ濃いキャラがいないとね~」

 榊さん、勝手にコントのキャラにされていて面白い。


「というかさぁ、有馬(ありま)くん」

「は、はい」

 飛野さんがニヤケ顔を近づけてきたので、僕は反射で顔を仰け反らせた。


「それ、絶対に脈ありだよ! 興味のない人に同棲しようなんて絶対言わないって!」

「そ、そう、かな?」

「うんうん!」


 飛野さん、楽しそうだ。

 彼女にお墨付きをもらったのなら、少しは自信を持ってもいいのだろうか。

 そんなことを考えていると。


「あ、いや! でも! 物事に絶対ということはないから! 絶対は言い過ぎたかも! 私、有馬くんと榊さんが一緒にいるところ見たことないし! 二人がどんな雰囲気かわかんないからなぁ」

 と、全力で前言を撤回する飛野さん。


「でもこれは、二人に成就してほしくないって意味じゃないからね!? 私、二人のことすっごく応援してるよ!」

 まっすぐな彼女の表情を見ていると、彼女が本気でそう言ってくれているであろうことは手に取るように理解できた。


「そっかぁ……。気になるなぁ。その榊さんって人」

 飛野さんは、なにやら言い辛そうに体をもじもじとさせている。


「どうかした?」

「え? えっと……。有馬くんと榊さんがもしよかったらなんだけど、今度私も榊さんと会ってみたかったりして……。な、なーんて言ってみたり?」

 ちらりと、僕の表情を窺うように上目遣いを送ってくる飛野さん。


「なんだ。そんなこと? うん、榊さんに聞いてみるよ。榊さんもお笑い結構好きだし、話も合うと思うよ」

「やった! そんな面白そうな人、絶対会ってみたいもん!」


 さっきまで幽霊にびびっていた飛野さんはどこへやら。彼女は楽しそうにその場でぴょんぴょんと跳ねていた。


 飛野さんが元気になったので、僕らは歩みを再開した。

 しばらくすると、僕のアパートへと続く道の岐路(きろ)まできた。飛野さんのアパートはもう少し先のようだ。


 ここで別れてもよかったが、飛野さんは幽霊(偽)を見た後だし、この時間に女性を一人で帰すのもどうかと思ったので、僕は最後までついていくことを提案した。

 家を知られるのは嫌がられるかと思ったのだが、飛野さんは快く承諾してくれた。


 もう五分ほど歩くと、飛野さんのアパートに到着した。

 安い僕のボロアパートとは違い、二重ロックの比較的新築のアパートであった。これなら、女性の一人暮らしも安心だろう。


 そんなアパートをバックに、飛野さんが丁寧に僕に頭を下げた。

「今日はありがとう、有馬くん。楽しかったよ」

「こちらこそだよ」


「榊さんと進展あったら教えてね。それか、なにか困ったことあったら相談乗るよ。といっても私、全然恋愛経験ないんだけどね」

 飛野さんは、気恥ずかしそうにはにかんでいる。


「いや、飛野さん以上に頼れる人はいないよ」

「だったらいいんだけどね~」

 そう言って、飛野さんは僕に背を向けた。


「じゃね。また学校で」

 首だけでこちらを振り返る飛野さんに、僕は軽く片手をあげた。

「うん。また」


   〇


 宵闇を見上げながら、僕は一人でアパートまでの道を(あゆ)んだ。


 四月の夜は、まだ温かい。この時期のこの時間だと、京都はもっと暑かった気がするな。


 なんとなくスマホを見ると、いつの間にか榊さんからLINEがきていた。

『ちょっと急用できたから、出かけてる』

 僕は、その文面を見て思わずにやけてしまった。酒を飲みながら散歩をしている榊さんを、既に飛野さんが目撃していたからだ。


『酒の買い出しですか? 僕はもうすぐ着きます』

 そうメッセージを送り、僕は歩みを続けた。


 ふと、空を見上げる。

 星屑を散りばめた夜が僕を見下ろしていた。さすがに、田舎よりは星の数が少ないな。


 東京にきてから、一週間とちょっとが経った。

 僕は今日、二人目の友達ができた。

 友達と別れたあとの道は、少し寂しかった。一人で夜にいる感覚が、なんだか懐かしい。


 もう一度夜を見上げる。今まではもっと、深くて広くて怖く見えていた黒の天井。それがなんだか今日は、いつもよりも夜が狭く思えた。


   〇


 榊さんのいない僕の部屋に帰ってきた。

 キッチンから漂う味噌汁の優しい香りが、僕を包む。


 リビングのテーブルの前に腰を下ろす。榊さんが飲んだと(おぼ)しきビールの空き缶が並んでいた。

 その傍に、ラップで包まれた今日の夕飯が置かれている。

 メニューは、レタスツナサラダと、少し不格好な卵焼きと、ご飯に味噌汁。


『足りなかったらカップラーメンでも食ってくれ』

 という、榊さんの書き置き付き。


 心中で榊さんに礼を言いながら、僕は久方ぶりの一人での夕食にありついた。


「いただきます」

 榊さんの手料理は、味が濃かったり少し薄かったりと極端だ。でも、一生懸命作ってくれた彼女の愛情はたっぷりと伝わってくる。とても美味しかった。

 一人で、夕食を食べ終えた。



 その日、榊さんは帰ってこなかった。


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