お化けいた……!
「恋人いたりする?」
「え」
思わぬ問いに、僕の瞼が自然と上がる。
どうしてそんな質問を?
もしかして飛野さん、僕のことを……?
なんてうぬぼれた考えは、飛野さんの次の言葉ですぐさま否定される。
「なんだか有馬くん、私と一緒にいると、たまに凄く申し訳なさそうな顔してるときあるから」
「……」
バレていた。
僕、そんなに表情に出るタイプなのか?
「あ、ごめんね! 別に責めてるわけでも、それが嫌ってわけでもなくてね? ただ、有馬くんが胸になにかを抱えたまま私と会っちゃうと、有馬くんの心によくないかな? なんて思ったり……」
彼女は、いつでも僕を尊重してくれる。
……優しいな。
僕は、こんなにしっかりとした人と友達になることができて、感無量であった。
彼女になら、僕と榊さんの歪な現状を話してみてもいいのかもしれない。
そして、なんならアドバイスをもらったりとか……。
これ以上の沈黙は不味いと思い、僕が口を開きかけた、その瞬間。
「ん? えぇっ!?」
飛野さんが、前方の十字路を見て大きな声を上げた。
彼女は、丸眼鏡を外して自分の目をこすっている。
そして、もう一度眼鏡をかけ、警戒しながら辺りに視線を投げた。
「ど、どうしたの?」
「い、今……」
まさか、変質者とか?
彼女を守るように、僕は両腕を少し広げて飛野さんの前に躍り出た。
そんな僕の後ろで、飛野さんが震える声を出す。
「今、メイド服着たお化けいた……!」
「……」
絶対に榊さんだ。
この時間に……いや、この時間じゃなくともメイド服で外をほっつき歩く人なんて榊さんしかいない。
でも普通の人からしたら、メイド服を着て外をうろつく人間なんているわけないと思っているから、幽霊だと思ってしまったのだろう。
「なんか、紙パックのジュース持ちながら、一瞬こっち見てどこかに消えた……!」
絶対に榊さんだ。
榊さんすぎる。
その紙パックのジュース、絶対にジュースじゃなくて酒だ。パック酒だ。
しかし、どうしてこんな時間に榊さんが外に? 酒でも切れて買いにいく途中だろうか? 酒を飲みながら? いや、榊さんなら十二分にありえる。
僕はその幽霊の正体に気付いていたから、穏やかな心を保っていられた。が、どうやら飛野さんはそうではないらしい。
榊さんのことをメイドの幽霊だと信じ込んでしまった飛野さんは、その場で震えてうずくまってしまったのだ。
「飛野さん、もしかして幽霊とか心霊系苦手?」
「う、うん。……霊感あるわけじゃないんだけど、ホラー系が苦手で……」
どんどんと、彼女の顔は青白くなっていく。
「ちょっと、失礼するよ」
「う、うん」
飛野さんに肩を貸し、僕はひとまず彼女を明るい場所に連れていくことにした。
近くの電灯の下まで飛野さんと一緒に移動し、彼女をその場に座らせる。
「ご、ごめんね。有馬くん。ありがとう」
「ううん、全然」
飛野さんは気丈に振舞おうとしてくれているが、未だに震えは止まらない。
早く家に送ってあげたいが、この状態ではそれも難しいか。
タクシーでも捕まえられればいいのだが……。
そこまで考え、僕は最も簡単な解決方法を思いついた。
今見たメイドの霊は、霊ではなくいつもメイドの姿をしているだけの変な面白お姉さんだと説明すればいいのだ。
幸い、僕のスマホには酒を飲んでいる榊さんの写真もある。霊が持っていたパックが酒だという説明もできるだろう。
しかし、この説明をするためには僕と榊さんの関係について説明をするしかない。
それはなんだかちょっと……いや、とても気恥ずかしい。だが、飛野さんをこのままにはできない。
悩んだ末。僕は、僕が飛野さんと一緒にいることに罪悪感を抱いていた理由、そして、お化けの正体を明かすことにした。
「えっと……飛野さん。今のはメイドの幽霊じゃないから安心していいよ。これが証拠。……になるか、わかんないけど」
僕は、スマホのフォルダ内にある、一升瓶に口を付けて酒を飲む最悪の榊さんの写真を飛野さんに見せた。その榊さんの横には、僕の顔もちらっと映っている。榊さんが、悪ノリで自撮りをしたときのものだ。
飛野さんは、ぽかんとした表情でその写真を見つめていた。
「彼女は……。その、いつもメイド服を着ている変な僕の同居人なんだ。それでいて、えっと……」
そこで一度僕は言葉を切る。
そして、こう言った。
「僕の、好きな人……」
あれ、これは別に言う必要なくないか?
急に恥ずかしくなってきた。
飛野さんは、何度か瞬きをしてその言葉の意味を咀嚼していた。
そして。
「なにそれ、なにそれ!? 詳しく教えて!?」
彼女は瞳の奥に星をちらせて、今日イチの笑顔を浮かべたのだった。
なんでだよ。




