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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
一章 駄メイドと過ごす一週間

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こんなん、金をドブに捨ててるだけだぞ?

 三限後。家に帰る前に、一応(さかき)さんにLINEをしておくことにした。

『講義終わったので今から帰ります』


 すると、すぐに榊さんから返信がきた。

『あたしも今帰るとこ。駅近のスロットちょっとだけ打ってから帰るわ』


 スロット?

 パチンコとはまた別なのであろうか?


 わかりました、と文字を打とうとして、ふと指が止まった。

 パチンコって、確か十八歳からしていいんだっけ。


 正直、ちょっとだけ興味があるのだ。

 ギャンブルがしたいというわけではなく、人生経験として一度だけやっておきたい。

 ……というか、榊さんがスロットを打っているところを見たい……。


「……」

 迷った末、僕はこんな文面を送った。

『僕も一緒にいっていいですか?』

『やめとけ?』

 一瞬で返事がきた。


『こんなん、金をドブに捨ててるだけだぞ?』

 そんなこと、なんでしてるんだよ。


『ハマったら終わりだぞ? お前、あたしに変な影響受けすぎんなよ?』

 文面からはわかり辛いが、恐らく本気で僕のことを心配してくれているのだろう。榊さんは、優しいから。


 僕が返答に悩んでいると。

『バイトしてるんだっけ』

『今は探し中です。でも、高校のときにためたお金があります。勿論、生活費は使いませんよ』

『そっか。まあ、自分の金なんだし好きに使ったらいいか。あたしはお前のオカンじゃねぇしな。いいぜ、こいよ』


 榊さんから、彼女が向かおうとしている店の位置情報が送られてきた。どうやら駅の近くのスロット専門店らしい。

 しかし、彼女はどうしてすぐに心変わりしたのだろう?


『いっていいんですか?』

『ああ。なぜか初めてのやつって当たりやすいんだよ。ビギナーズラックってやつだ。あたしもその運にあやかることにする』

 あ、それが理由?

 とにもかくにも、僕はその場所へと向かうことにした。


   〇


 駅前のスロット専門店は外壁に華美な装飾が施されており非常に目立っていた。

 そして、その店の入り口付近に、僕のよく知るメイドさんが気だるげに立っている。


 彼女は隣まで歩いてきた僕に気が付き、開口一番こう言った。

「いいか。絶対にハマるんじゃねぞ。やるにしても、適度に遊べ。今日限りにするのが一番だがな」

 厳重に僕に釘をさす榊さん。


「にしても、お前がこんなことに興味があったとはな」

「いや、パチンコに興味があるというか、榊さんが好きなものに興味があるって感じです」

 榊さんは、真顔のまま固まってしまう。


「あと、榊さんが打つところを近くで見たかったので」

「お前はホント……」

 そう言うと、彼女は口元だけで小さく笑ってみせた。

「いい趣味してるよな」

 褒められているのかけなされているのか、僕にはわからない。


「お前もちょっと打つのか?」

「冷やかしは嫌なので」

「ちょっとにしとけ?」

「千円くらいにしときます」

「ん。いい判断だ。じゃ、いこう」


 僕に背を向けた榊さんのあとを追い、店内に入った。


 そんな僕を歓迎したのは、シンプルな爆音であった。全身を圧迫するかのようなこの圧、なにかに似ていると思ったら、そう、ゲーセンだ。

 店内には、何列にも渡ってズラリとスロット台が並べられており、あまり目に優しくなさそうなドギツい光を放っている。


「今日はなにを打つんです?」

「ミャグラーってやつ。比較的初心者向け」

「もしかして、僕に合わせてくれてるんですか?」

「まあな。でも、ミャグラーはあたしもたまに打つし、台にこだわりもないから気にすんな」


 榊さんに連れられ、僕らは台に挟まれた通路を歩く。

 そして彼女は通路の端の方で足を止める。


「ビビッときた台選んでみ」

「いい台とかあるんですか?」

「上の数字でどんだけ当たってるかとかがわかる」

 榊さんが指をさしたのは、台の上の辺りに書かれている数字群。僕には見方がよくわからなかった。


「でも、別にどこ選んでも当たるときは当たるし、当たらんときは当たらん」

「じゃあ、ここで」

 僕は、適当に選んだ正面の席に座った。画面には、さくらんぼやセブンといった図柄が三列並んでいる。これを揃えていくのだろうか。


 すると、僕の左の席に榊さんが腰を下ろした。

「そこでいいんですか?」

「打ち方教えないとだしな。それに、あたしの打つとこ近くから見たいんだろ?」

「……はい」


 店内が騒がしいためか、榊さんは声を発するときに僕に顔を近づけてくる。委縮する僕を見て、彼女の口元が愉悦に(ほころ)ぶ。


「素直だな? 赤くなってんぞ」

 嗜虐的に歪む榊さんの目を見ていると、僕の体温はわかりやすく上がってしまうのだ。


「まず、金を入れる。公太郎は千円だけにしとけ?」

 言われるがまま、僕は千円を台に吸わせた。


「メダルが出てくるから、それを台に入れる。で、全ベットしてあとは適当にボタンを押して絵を揃える。別に、揃わなくてもいい」

 見よう見まねで榊さんの真似をすると、ゲームが始まった。


「揃わなくてもいいんですか?」

 榊さんは物凄い速さで絵を止めており、絵柄は全く揃っていなかった。


「いい。何回か回してっとランプがぺカッと光るんだ。それまで適当に回せ。光ったら当たり。んで、光らなかったらハズレ。どうだ、わかりやすいだろ?」

 頷きながら、僕はbetと抽選を繰り返していく。下皿のメダルが、どんどんとなくなっていく。


「僕の場合は、千円以内に当たったら勝ちってことですね?」

「そゆこと」


 隣の榊さんは、もう次の千円を吸い込ませていた。あっという間にお金が溶けている。怖い。


 僕は一旦手を止め、慣れた手つきでミャグラーを遊ぶ榊さんをじっと見つめていた。

 冷静に考えると、メイドがスロットを打っている姿は相当シュールなものがあったが、榊さんの場合はなぜか様になっていてかっこいい。


「なんだ? もしかしてあんまり面白くないか?」

 見られていることに気が付いた榊さんが、僕を気遣うような視線を飛ばしてくる。


「あ、すみません。見惚れてました」

「あー、はいはい」

 すげなく言われてしまった。榊さん、僕のあしらい方に慣れてきている。


「でも実際、自分で打つより榊さんが打ってるところ見てる方が楽しいかもです」

「そりゃ、コスパがいいこって。……って、おい。ペカッてんぞ、公太郎(こうたろう)

「え」


 榊さんに言われ、気付く。僕の台の一部がわかりやすく光っていたのだ。


「あ、これ、当たりですか? こっからどうすればいいんですか?」

「目押しでセブンを揃えるんだ。ムズそうなら、あたしがやってやろうか」

「あ、じゃあお願いします」

「ん」


 榊さんが顔と腕を伸ばし、真剣な表情で僕の台を覗き込む。彼女の髪から香る煙の香りが、僕の胸を焦がす。


 榊さんが、三度ボタンを押す。すると、見事にセブンが一列揃ったのであった。


「榊さん、イケメンすぎます」

「いや、慣れれば誰でもできる。てか、千円で当てる方が凄い。やっぱ、ビギナーズラックってあるんだな」

「ここからはどうするんです?」

「一ベットにして、適当に打つ。ボーナスの間は、めちゃくちゃ当たる」


 榊さんに言われた通りにすると、適当に打っているのに絵がどんどんと揃っていく。

「わ。こうなると楽しいですね」

「だろ。……最初はハズしてくれるとハマり辛いんだけど、なぜか初心者は当たっちまうんだよなぁ」

 そんな榊さんのボヤきを聞きながら、僕はボーナスタイムが終わるまで打ち続けたのであった。


   〇


 ボーナスタイムが終わった後、榊さんに続けるかどうか訊かれたが、僕はやめておくことにした。

 結局榊さんは一度も当たらなかった。彼女は追加投入をやめ、僕と一緒に店を出ることになった。本人はちょっとだけ、打ち足りなそうにしていたけれど。


 結局、僕は二千円ほど勝ち、榊さんは三千円ほど負けていた。二人合わせて少し負け、くらいか。


「ハマりそうか?」

 退店し、あてどもなく歩きながら榊さんが訊ねてきた。


「いえ、一人では目押しができそうにないですし」

「健全だな」

「でも、榊さんが打つ姿にはハマりそうです」

「不健全だな」

 なんでだよ。


「夕飯、どうします?」

「んー。どうするべか」

 現在の時刻は、十八時前。日は暮れかけ、アスファルトには橙が混ざり込んでいる。


「どこかで食べて帰ります? 僕、今日勝ったんで奢りますよ」

「んお? マジか?」

「はい。打ち方を教えてくれたお礼です」

「あたしは遠慮しねぇぞ?」

「はは。知ってます」


 そうして、柔らかに微笑み合う。

 なにを食べるか話しながら、なすがまま、僕らは夕暮れの中に体を(ひた)した。


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