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家の前で酔い潰れてたダウナーやさぐれメイドを助けたらなぜか同棲が始まった  作者: 雨谷夏木
一章 駄メイドと過ごす一週間

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カスみたいなルージュの伝言残しやがって

 その日も(さかき)さんはそこそこ飲酒していたのだが、全く酔っているようには見えなかった。ほんのり機嫌がよさそうかな? と思うくらいだ。

 だから──。


「今日も一緒に寝るか? 公太郎(こうたろう)

 この提案は、榊さんが酔っているから飛び出した言葉ではないのであろう。


 ……いや、僕の両親はあまりお酒を飲まないから酔っ払いの生態に詳しくないだけで、もうこの時点で酔ってる可能性もあるのだろうか?

 なんか、酔いには段階とか種類があると聞いたことあるしな。ほろ酔いとか、泥酔とか。


 酔ってますか? と訊こうとしたが、やめた。酔っ払いは、絶対に酔っていないと答えるらしいから。

 一つ言えるのは、榊さんが酔っていても酔っていなくても、この提案は僕へのからかいであろうことはなんとなくわかるということ。


「寝ません。今日は、榊さんは敷布団で寝てくださいね」

「ちぇ。フラれちまったなー」

 ありえないくらいに棒読みの榊さん。やっぱり、からかわれていただけなのであろう。


 就寝の準備を済ませた僕たちは、部屋の電気を消し、それぞれのベッドと布団に潜り込んだ。


「公太郎は、明日も大学か?」

 えっと、明日は木曜だから……。


「はい。二限からですが、夕方までみっちり講義です。榊さんは?」

「あたしも仕事。帰りは公太郎よりちっと早いくらいかもな」

「わかりました」

 そして僕は、ゆっくりと瞼を閉じて闇を招いた。


 今回は、さすがに榊さんも僕のベッドに潜り込んでこないだろう。

 ……しかし、先ほどの榊さんの発言もそうだが、彼女はやはり、少しくらいは僕のことを意識してくれているのだろうか?

 それとも、年下を虐めて楽しんでいるだけ? 榊さんのことだから、十分にそれもあり得そうだ。


 僕は、榊さんが好きだ。でも、榊さんが僕をどう思っているのかは、彼女しか知らない。もっと言えば、彼女自身もよくわかっていないのかもしれない。

 でも、そういう掴めないところが好きでもあるんだよな。


 そんなことを考えていたら、僕はいつのまにか眠りに落ちていた。


   〇


 朝。目を開けると目の前に榊さんがいた。

 いつの間にか、榊さんが僕のベッドに潜り込んだようであった。


 すぅすぅと、かわいい榊さんの寝息が聞こえてくる。


「お、お約束……」

 冷静を装うためにそう呟いてみたはいいが、緊張により僕の全身は激しく脈打っていた。

 だって彼女、僕の背に腕と足を回してがっちりホールドしているのだから。


 今日の榊さんは、前回みたいにメイド服を着ていない。僕のシャツとジャージを着用している。これはある意味、メイド服のときよりも現実感やリアル感があって、破壊力が強い。


 今回は、酔って潜り込んできたのか自分の意思で潜り込んできたのかわからない。


 榊さんは、もしかしたら意外と寂しがり屋なのだろうか?

 僕と一緒に寝たいと言っていたのも、意外と本心だったり……?


 それはそうと、邪魔なものは邪魔である。

 さっさと彼女を引き剥がして大学に向かおうとした。が、そういえば今日は二限からなのであった。


 彼女を剥がそうとして伸ばした僕の腕から、力が抜けていく。

「……」


 まあ、もう少しこのままでもいいか……。

 眼前の榊さんの寝顔を見つめながら、僕はもう一度目を瞑った。


   〇


 スマホのアラームで目が覚める。


 急いで起き上がるが、二限にはまだ余裕がある。


 部屋を見渡してみるが、榊さんの姿はなかった。

 代わりに、ローテーブルの上になにか書き置きのようなものが残してあった。どうやら、レシートの裏側に書いたらしい。


『先、家出るぞ』

 こんなの、LINEで送ってくれればいいのに。

 アナログな榊さんの仕草がどこかかわいらしく思えてくる。


 その文字の下の方に、続きが書かれていた。

『あと、また勝手にベッド潜り込んじまってた。すまんな。表面に続く』

「表面?」


 文字に従い、僕はレシートの表面を見る。そこには、いつぞやに買った食品のリストが並んでいる。そして、その下の狭い空白欄にこう書いてあった。

『公太郎の首に、寝ぼけてえっっぐいキス(あと)付けちまってたみてぇだわ。すまんすまん』

「はぁぁっ!?」


 急いで洗面台に駆け込み、鏡を覗き込む。

 すると。


 鏡には、ピンクレッドの口紅でこう書かれていた。

『うそだばか』

「クソが……」


 そしてよく見ると、その下の方に小さくこう書かれている。

『すまん、そうじヨロ。めんどかったらあとでやるからおいといてくれ』

 カスみたいなルージュの伝言残しやがって。


 僕の中の怒りが少しずつ失せ、次第に呆れが増してきて、最後の方には楽しい気持ちしか残らなかった。


 あの人、朝からこんな仕掛け用意してたのか? その場の思い付きで?

 そんなの。

「かわいすぎだろ……」


 僕は、タオルで鏡の口紅を拭った。

 綺麗になった鏡に映っていた僕の顔は、口紅よりも赤くなっていた。


「好きだなぁ」


 朝食を食べ、大学にいく準備を素早く済ませる。


 家を出る僕の胸は、今までにないくらいに弾んでいた。

 まるで、体全体が一つの心臓になったみたいだ。


 榊さんのおかげで、東京も、夜も、一人も。もう怖くない。

 家に帰ると好きな人がいるなんて、僕はどれだけ幸せ者なのだろうか。


 玄関から出る際の僕の一歩は、いつもよりも力強かった。


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