敵に右腕を折られる舞妓さん「ぎゃああああああぁぁぁぁぁッ!!!!!」
食後。風呂にいくのを渋りまくる榊さんを無理やり風呂にいかせた。
そして榊さんの風呂上がり後。僕たちはベッドの上に腰かけ、スマホを見たりテレビを見たりしてダラダラと過ごしていた。
ちなみに、榊さんは今日も僕が貸したオーバーサイズのシャツを着用している。
「自分で服買う習慣がないなら、僕が適当になにか買ってきましょうか?」
「おん?」
「僕、服のセンスがあるわけではないですが、部屋着ならなんでもいいですよね? お金は僕が払いますし」
別に、僕の服を着てほしくないというわけではなく、さすがにメイド服しか持っていないのは不便かな? と思ったのだ。余計なお節介かもだが。
「なんだ? お前、彼女には自分の趣味に染まってほしいタイプか?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ……。って、彼女?」
「──あ」
ぱちくりと瞬きする榊さん。
そして、みるみるうちに彼女の頬の発色がよくなっていく。
「や。今のは別に、ちげぇから。あたしがその、お前のかっ、彼女とかそういうんじゃなくてだな。ただ、お前に彼女がいたらそうなのかなって、ちょっといじっただけだから」
彼女にしては珍しく、大分声がもにょもにょとしていた。
「あ、はい」
「というかさ。すげー今更だけど、公太郎、彼女とかいたりするか?」
本当に今更過ぎて、少し吹き出してしまった。
「いたら、その子にすっげー申し訳ねぇんだけど」
「いませんよ。いたら、榊さんをここに泊めてません」
「そ、そうか? よかったよかった」
安堵の息を吐きながら、榊さんは胸を撫でおろしていた。
「ちなみに、その、榊さんは、恋人とかって?」
チャンスはここしかないと思い言ってみたが、なんだか言葉が途切れ途切れでキモい感じになってしまった。
「あん? いねぇよ。いるわけねぇだろ、こんなやつに」
凄い言いようだな。
「いた方が興奮したか?」
「ちょっ、想像させないでください!」
「今、あたしの隣に金髪のギャル男を立たせただろ?」
「心読まないでくれますか?」
「うわ。本当に想像したのかよ、キショ……」
冷たい榊さんの視線が心と体にぐさぐさと突き刺さる。
ちなみに、本当にそんな趣味はない。マジでね?
〇
スマホをベッドに置き、見るともなしにテレビを見る。
榊さんは、ダウナーな表情でスマホを眺めている。美人だから、それだけでもなんだか画になる。
彼女は、煙草を吸っていないときはスマホを眺めていることが多い。ちなみに、酒は絶えずずっと飲んでいる。彼女の肝臓が心配だ。
「榊さん、なにしてるんです?」
「Twitter」
「ああ。エック──」
榊さんが首を伸ばし、物凄い眼力で僕の瞳を覗いてくる。
「Twitter、な」
「Twitterです」
迫力に負けてしまった。
「というか、榊さんTwitterやってるんですね」
意外といえば意外だが、やってそうといえばめちゃくちゃやってそうな不思議な人だ。
……いや、この人なら絶対やってるか。やたらネット知識とかオタク知識に詳しいし。
「ああ。随分とROM専だったけどな。うちの店の方針でキャストは全員アカウント作らされんだ。で、宣伝しなきゃだからツイートもしてるってわけ」
「へぇ」
メイドとしての榊さんのアカウントがあるってことか。
どんなことを呟いているのか全く想像できない。
店での振る舞いを見るに、猫を被っているわけでもなさそうだし……。まさか、喫煙とか飲酒の写真をあげてるとか? それはそれでコアなファンが付きそうだが。
「えっと。アカウント見てみてもいいですか?」
「いいぜ? 店名と、さかにゃんって入れれば出てくるだろ」
言われた通りにし、僕は榊さんのアカウントを発見した。
メイドの公式アカウントなのに、アイコンが初期アイコンなのはまあ突っ込まないとして。
僕は、さっそく榊さんのポス……ツイート内容を拝見する。
えーっと……?
……?
『タイミーでメンバーを集めてるカスのアベンジャーズ』
『死の寿司酢 デス司酢』
『空気を塩でいく通のじじい』
『ババァの犬、ババァヌ』
『敵に右腕を折られる舞妓さん「ぎゃああああああぁぁぁぁぁッ!!!!!」』
……。
「──なんでメイドの公式アカでネタツイしてんだよッ!?」
「うおっ!? 過去一の声量のツッコミ!?」
榊さんがびくりと肩を跳ね上げた。瞼が上がり猫目のようになっている。
「普通、もっとお店の宣伝とか日常ツイートとかしますよね!? なんでネタツイ!?」
「いや、ウケっかなと思って……」
榊さんは、呆然とした表情で僕を見つめている。
「いやまあ、たまにふざけたツイートをするのはいいと思いますけど……。これ、キャストとしての公式アカですよね? ツイート内容全部ネタツイなんですけど!?」
これもう、メイドさんを装ったネタツイ垢だと思ってフォローしてる人がいるレベルだろ!
「店長さんになにか言われないんですか?」
「んや? さかにゃんっぽくていいねって言ってるぞ」
店長、榊さんに甘すぎだろ。
「なんで、ネタツイ用のアカウントとかじゃなくてメイドのアカウントで?」
「あ~? 別に? そうしたらシュールでおもろいかなと思っただけだ」
「確かに、ちょっと面白いですけど……」
ネタツイの内容も僕は好きだったが、数字的には全然伸びていなかった。ネタツイは水物だし、メイドのアカウントだからというのもあるだろう。
でもたぶん、榊さんはそういった数字をあまり意識していないんだと思う。
この人は、自分が面白いと思ったことを第一に考えて行動している節があるから。
「……。まあ、店長の言う通りかもですね。考えを改めます。榊さんらしくて、いいアカウントなんじゃないでしょうか」
「お? そーだろそーだろ」
僕の言葉で上機嫌となった榊さんは、ぐいっとビールを胃に流し込み、あっという間に缶を空にする。
「あたしは、この感じで一切店の宣伝をせずにいくことにするわ」
「宣伝をサボりたいだけではないですよね……?」
本当にネタツイだけを続けていけば、ネタツイだけを投稿する謎のメイドアカウントとしていつかバズりそうではある。そのときがきたらまあ、店の宣伝にはなるか。
そんなことを考える夜であった。
ちなみに、榊さんのことは趣味のアカウントでこっそりフォローしておいた。




