あたしって二次創作だとエグいショタコンに描かれるタイプだよな
夕陽を遮ってできた二つの影法師。それを追いかけるようにして、僕たちは歩いて帰る。
辺りには、学校帰りの小学生や買い物帰りの主婦の姿が散見された。
そんな中、榊さんは残ったちくわをもそもそと食べていた。
「いるか?」
榊さんはちくわの入った袋を軽く振り、その中の一本を僕の方に伸ばす。なんで煙草みたいな渡し方なんだよ。
「じゃあ、もらいます」
素手でちくわを掴み取り、一口。まあ、普通にちくわだ。でも、外で食べるちくわはなんだか少しだけ特別感があり、面白かった。
二人でちくわを食べながら歩いていると、僕たちの傍を駆け抜けていった男子小学生たち三人が大きな声でこちらを向いて叫んだ。
「すっげー恰好!」
「ちくわ食べてる!」
「メイドじゃね?」
「メイドだー!」
「でっけーー!」
茶化しているといった風ではなく、小学生の声は楽しそうに弾んでいた。
そんな小学生たちの対応に榊さんは慣れているのか、少しも表情を変えずにこう言った。
「どうだ? 本物のメイドだぞ、凄いだろー。大人んなったら遊びにこいよなー」
「「「わかったー!」」」
きゃっきゃっと叫びながら、彼らは夕陽に紛れてどこかへ消えていった。
そんな彼らの背中を眺めながら、榊さんは腰に手を当て嘆息。
そして、真顔でこう言う。
「あたしって、二次創作だとエグいショタコンに描かれるタイプだよな」
「いい顔でなに言ってんだよ」
「あたしの造形って、おねショタ映えしすぎなんだよ」
なんだよその自認。
「えっと。実際好きなんですか? 少年」
この質問もなんだよ。
「いや、さすがに子どもにそんな感情は湧かないな。どっちかっつーと、年上よか年下のが好みだけど」
「……」
それはそれでなんか……生々しいな!
「いやでも、こういうのは否定すれば逆に二次創作欲を刺激しちまうからな」
「はい?」
「ロリコンじゃない! って否定するキャラが二次創作だとめちゃくちゃロリコンに描かれたりすんだろ。……はぁ、困ったもんだぜ」
「なんで実在の人物が二次創作書かれる気満々なんだよ」
「あと、あたしはファンアートとかで絶対乳盛られるよな」
「……」
どう反応しても負けな気がしたので黙っていたが、心の中では頷いてしまった。
榊さんの目は、彼女の胸に集中している。
「まあ、あたしは原作がでけぇからそれはいいんだけど」
この人、自分の胸のこと原作って言った?
「原作がでかいキャラはいくらでかく描いても、まあ原作もこんくらいでかいしな……。ってなるからいいよな」
「それは同意ですが」
なんの話なんだよ、これ。
ちくわ食いながら夕焼けの町を歩くときにする会話か?
「まあ乳の話は置いといて、またショタコンの話に戻すけどよ」
「なんで話題が乳とショタの二択しかないんだよ」
「あたしはショタコンというか、ショタの性癖ぶち壊す側のお姉さんだよな」
は?
「さっきの小学生の中にも、メイドのお姉さん萌えになっちまったやつがいるかもな」
まあ確かに、僕が小学生のときに榊さんに出会っていれば、とんでもないことになっていたであろうことは火を見るよりも明らかだ。
僕にそんな経験はないのに、榊さんはなぜか僕の性癖ドストライクだ。覚えていないだけで実は昔会っていて、既に僕は榊さんに性癖を破壊されていたとでもいうのか?
思い切って、訊ねてみることにした。
「榊さん。僕たちって以前どこかで会ってたりします?」
「あーん?」
ぎゅっと眉間にしわを生み、僕のことを至近距離で眺める榊さん。メイドがしていい顔じゃない。
「んや、なんも覚えはねぇな。会ったことねぇだろ」
そして榊さんはさっと僕から顔をはなす。
「別に、そんな昔からの縁なんてなくてもいいだろ。これからいっぱい作ってこーぜ、縁」
夕陽に縁どられた彼女の顔の輪郭が、朧に霞む。
「ですね」
歩きながら、榊さんはスカートを手で軽く持ち上げてみせた。
「まあでも、小さい頃に実は会ってたってのもいいよな。もしあたしがタイムリーパーだとしたらさ」
「はい?」
いきなりのめちゃくちゃな仮定に表情を失ってしまう。
「あたし、ショタん頃の公太郎の前に現れて、お前のことを少年呼びする謎のメイドお姉さんとして現れるわ」
「なんでそんなことするんですか」
「おねショタの少年呼びは鉄板だからなぁ」
「そういうことじゃなくて」
「酢豚にパイナップルくらい鉄板だ」
「その例え、人によって好みがわかれることでよく出される例なのでわかり辛いです」
僕の突っ込みをニヤニヤとした表情で聞いている榊さん。なんなんだよこの人。
夕風に髪を遊ばせながら、榊さんが大人っぽい微笑を浮かべた。
「でも、少年呼びはされたいだろ? ──少年」
「……!」
榊さんの少年呼びに、僕の脈拍はあり得ないくらいに急上昇した。
わかりやすすぎるだろ、僕。
「ふは。口元緩んでんぞ」
指摘され、僕は急いで手で口を覆った。
榊さんの少年呼びは、正直かなりクる。
惜しむらくは、僕はもう少年と呼べる年齢ではないということだろうか。
「オーソドックスですけど、やっぱりお姉さんの少年呼びはいいですね」
「正直で笑うわ。てかやっぱ、お前年上好きか?」
「それはもう」
「だろうなぁ」
だろうなぁ?
これやっぱ、僕の気持ちバレてる?
それとも、僕の性癖を当てまくってくる榊さんの謎センサーが今回も働いただけだろうか。
恥ずかしくなってきた。話を変えよう。
「で、榊さんは本当にタイムリーパーなんですか?」
「だったら面白いか?」
「いや、どうでしょう……?」
「なら、違うんじゃねぇの? 面白いんだったら、あたしはタイムリーパーくらい気合でなってやっけど」
適当なことを言っているように見えるが──いや、実際に適当に喋っているのであろうが。榊さんのその表情は真剣そのもの。
榊さんの生きる上での大きな軸には、「面白さ」があるのだろう。
「お前が喜ぶなら、これからも少年呼びしてやろうか?」
「いや、大丈夫です。なんだかそれをすると、もう引き返せないところにいってしまう気がします」
いや、もう既に色々と引き返せないところにはいるんだろうけれど。
「それと僕、榊さんの名前呼びとお前呼び、好きなんですよね」
「あー。そういやあたし、たまに公太郎のこと、お前って言ってるよな。すまんな、口悪くて」
そこで、榊さんがなにかに遅れて気が付いたようだ。
「……って、好き? 好きって言ったか? お前って呼ばれるのが?」
「はい。最初は戸惑ってましたが、最近は嬉……興奮します」
「言葉選んでキモくなることあるんだ」
榊さんは僕に引きながらも笑っていた。
「お前、あたしに調教されてきてないか? やっぱマゾだろ」
「……」
「マゾって言うと体ぴくって反応すんのやめねぇ? キモいから」
「……」
「キモいにも反応してて草」
帰りながら榊さんは、僕の耳元で様々な罵倒をして僕の反応を楽しんでいた。
まあ、薄々勘づいてはいたのだけれど──。
──このメイド、根っからのサディストである。




