表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/60

51

「俺たちのことを忘れてもらっては困るぜ!!! 魔王ワールド!!!」

ロザールさんの絶叫と共に黄金の守護結界が魔王ワールドの魔剣を受け止めていた。

そして彼の隣には父さんが立っていた。

冥府の王との契約を終え完全な肉体を取り戻した勇者エミール。

その手には聖剣アスカロンが握られている。

「勇者エミール……お前は二度も俺を殺した男。一度は王都で。二度はこのキミシダイ帝国で。三度はない」

魔王ワールドが憎々しげに呻く。

「俺が貴方の心を取り戻すぜ!! ジェイク師匠!!!」

ロザールさんが叫びながらジェイクさんへと斬りかかる。

ナターシャさんの聖なる光がその剣にさらなる力を与えていた。

だがジェイクさんは黙ったままその剣を木刀で受け流す。

「メアリー…!! 貴様…!!! この裏切り者が!!!」

ダインの爪をメアリーの闇の障壁が防いでいた。

「関係ない。貴方の悲しい物語はここで終わらせるから」

メアリーは静かにそう答えた。

仲間たちが来た。

俺は一人じゃない。

俺達は全員でこの最後の戦いに挑むのだ。

その光景を見てフィボナッチはついにその本性を現した。

彼の不定形の体が禍々しく膨張していく。

「面白い……! 面白いぞ!!! 全員まとめてこのキミシダイ帝国で葬ってくれるわ!!!」

彼は俺とレシアがいる方向を指差した。

その指先から放たれた不可視の力が俺達の体を吹き飛ばす。

そして彼は詠唱した。

「真の姿を顕現させよ!!! 我が”キミシダイ帝国”!!!!」

玉座の間の空間が歪み五つの巨大なワープホールが出現した。

レシアと母さんそして魂のないラザールさんとライアと共に俺は一つ目のワープホールへと吸い込まれていく。

父さんと魔王ワールドは二つ目へ。

ダインとメアリーは三つ目へ。

ロザールさんとナターシャさんそしてジェイクさんは四つ目へ。

そしてフィボナッチ自身は五つ目のワープホールの中へと消えていった。

彼の狂気に満ちた哄笑が響き渡る。

「この私にたどり着きたければ!! 4つのワープホールの中の敵を全て倒してみせろ!!! そして世界反転魔法のエネルギーの充填までの時間はあと3時間!!! それまでに決着をつけてみせろ!!!! できるものならな!!!」

俺はワープホールに吸い込まれながらも最後の力を振り絞りフィボナッチが消えた空間を指差し叫んだ。

「首を洗って待っていろ!!! フィボナッチ!!! 必ずお前を!! 俺達は殺してみせる!!!」

「やってみろ!! マイダ・ウオ!!! できるものならな!!!」

その最後の言葉を合図に全てのワープホールは閉じた。

俺達の本当の最後の戦いが今始まろうとしていた。

バラバラに引き裂かれた仲間たちと合流しそして全ての元凶であるフィボナッチを討つために。

俺は闇の中へと落ちていきながら固く固く誓った。

必ず勝つと。

そしてレシアと共に未来を掴むのだと。


第七部 キミシダイ決戦編

第三章:模倣される神威

ウオの視点

意識が闇に呑まれる。

フィボナッチが作り出したワープホールは抗いようのない力で俺達を飲み込んだ。

空間が歪み時間が引き伸ばされる感覚。

レシアや母さんの気配が遠のいていく。

どこへ飛ばされるのか分からない。

フィボナッチの掌の上で俺達はただ翻弄されるだけ。

その無力感が歯痒かった。

どれほどの時間が過ぎたのか。

永遠のようでもあり一瞬のようでもあった。

不意に体が重力を取り戻す。

俺は空中に放り出されていた。

受け身を取り乾いた大地に着地する。

そこは荒野だった。

どこまでも続く赤茶けた岩と砂の大地。

空には不気味な紫色の月が双子のように二つ浮かんでいる。

風が吹き抜け砂塵を巻き上げ死者の呻きのような音を立てていた。

生命の気配が一切しない死の世界。

ここが俺達の最初の戦場。

俺はすぐに周囲を見回した。

レシアがいる。俺のすぐ隣で警戒するように周囲を窺っている。

そして母さんも。彼女は深手を負ったまま岩陰に身を寄せ苦しげに呼吸を繰り返していた。

だが敵の姿は二人。

ゆっくりと闇の中から現れたその姿に俺は息を呑んだ。

一人はライア。

銀色の髪を風になびかせその手には漆黒の剣が握られている。

血のように赤い瞳は感情を映さずただ俺達を獲物として捉えていた。

もう一人はラザールさん。

かつてレシアの父であった男。

その瞳もまた狂気の光を失い今はただの虚無を湛えているだけ。

二人ともフィボナッチの権能によって魂を縛られた哀れな人形。

心が無いからこそその動きに一切の迷いがない。

「レシア、俺の母さんのそばに」

俺は短く告げた。

レシアはこくりと頷き母さんの元へ駆け寄る。

俺は一人二人の亡霊と対峙した。

父から受け継いだ勇者の力。

俺自身の内に眠る大魔王の力。

その二つを融合させた金と黒のオーラが俺の全身から迸る。

もう迷わない。

俺がやるべきことはただ一つ。

この二人を倒し、レシアの元へ帰ること。

「行くぞ」

俺は地面を蹴った。

戦いの火蓋が切って落とされた。


速い。

ライアの剣は疾風そのものだった。

彼女が生前見せたどの剣技よりも速く鋭くそしてどこまでも無慈悲。

感情という枷が外れた彼女の剣はただ俺の命を刈り取るためだけに最適化された死の舞踏。

俺はその嵐のような連撃を必死に捌く。

魔剣と漆黒の剣が交錯するたびに甲高い金属音が荒野に響き渡った。

火花が散り衝撃波が足元の岩を砕く。

だが厄介なのはラザールさんだった。

彼はライアの後方で静かに杖を構えている。

そして俺がライアの剣を防ぐその一瞬の隙を突き的確に魔法を放ってきた。

空間を切り裂く闇の刃。

地面から突き出す無数の岩の槍。

その全てが俺の逃げ道を塞ぎライ-アとの連携で俺を追い詰めていく。

「くそっ…!」

俺は悪態をついた。

一対二。それも魂のない完璧な連携を繰り出す二人を相手にするのはあまりにも分が悪い。

焦りが俺の剣筋を僅かに鈍らせた。

その隙をラザールさんは見逃さなかった。

彼の瞳が不気味な光を放つ。

冠位装填「背理ノ章」。

その呪いの瞳を俺は見てしまった。

しまったと思った時にはもう遅い。

体の自由が奪われる。

内側から細胞が崩壊していくあの感覚。

だが俺の体はすぐにその呪縛を振り払った。

大魔王の闇の力がその理不尽な呪いを喰らったのだ。

「ほう。その呪いが効かぬか」

ラザールさんが初めて声を発した。

その声に感情はない。ただ意外なデータを得た科学者のような無機質な響きだけがあった。

「ならばこれはどうじゃ」

彼が再び瞳を輝かせる。

『縛り一:対象は善の属性を持つ者に限定される』

『縛り二:対象は戦う意志を持った上で地の上に立ち上がらねばならない』

『縛り三:対象は術者の瞳を直視しなければならない』

父さんとレシアが破ったあの縛り。

だが今の俺には通用しない。

俺は善でも悪でもない。

そのどちらもを内包する存在だからだ。

だがラザールさんの狙いは俺ではなかった。

彼の視線が俺の背後レシアと母さんを捉える。

まずい。

そう思った瞬間ラザールさんの杖から放たれた混沌の力が俺を通り抜けレシアへと襲いかかった。

「レシア!」

俺は叫んだ。

だがその声も虚しい。

彼女は戦う意志を持って地の上に立っている。

そしてラザールさんの瞳を直視してしまった。

彼女の体がびくりと痙攣しその場に崩れ落ちる。

「ぐ……あ……!」

その苦悶の声が俺の心を抉った。

俺はライアの剣を弾き飛ばしすぐにレシアの元へ駆け寄ろうとした。

だがライアがそれを許さない。

彼女の剣が俺の肩を深く切り裂いた。

激痛。

だがそんなものどうでもいい。

レシアが。

俺の光が今消えようとしている。

その絶望が俺の思考を白く染め上げた。

「ウオ! 目を閉じて!」

レシアの絶叫が聞こえた。

呪いに苦しみながらも彼女は俺に活路を示そうとしてくれていた。

そうだ。

目を閉じれば呪いは発動しない。

父さんがそうしたように。

俺は迷わずその両目を固く閉じた。

視界が闇に閉ざされる。

だがそれでいい。

俺にはレシアがいる。

「レシア! 俺に視界を!」

俺の魂の叫びに彼女の魂が応えた。

『――うん!』

心眼による精神共有。

俺の脳内にレシアが見ている光景が流れ込んでくる。

岩陰から戦場を見つめる彼女の視点。

俺自身の背中。

そして俺に襲いかかるライアとラザールさんの姿。

全てが見える。

俺は目を閉じたまま立ち上がった。

そしてレシアの心眼を通して世界を見据える。

ここからが本当の戦いだ。


 三

 俺とレシアの二心同体の戦いが始まった。

 最初は戸惑った。

 レシアから送られてくる視界には僅かなタイムラグがある。

 彼女の驚きや恐怖といった感情がノイズとなって俺の集中を乱す。

 だが俺達はすぐに順応した。

 俺達の魂は元々一つだったかのように完璧なシンクロを見せ始めた。

 ライアの突きが俺の死角である背後から迫る。

『ウオ! 後ろ!』

 レシアの心の声。

 俺は振り返ることなく魔剣を背後へと突き出した。

 剣と剣が激突し火花が散る。

 ライアの赤い瞳に初めて驚愕の色が浮かんだ。

「面白い。実に面白い趣向よ」

 ラザールさんが杖を振るう。

 数十発の闇の魔弾が俺を包み込むように放たれた。

 だがレシアの心眼が全ての軌道を完璧に捉えている。

 俺は目を閉じたままその魔弾の嵐の中を舞うように駆け抜けた。

 最小限の動きでその全てを回避する。

 俺達の神業のような動きにラザールさんの完璧な幾何学模様の心が僅かに揺らめいた。

「その小娘の瞳を通して世界を見ておるのか。ならば」

 ラザールさんの狙いが変わる。

 俺ではなく地に寝そべっているレシア本体へと。

 混沌の魔法がレシアへと降り注ぐ。

 だが俺はそれすらも読んでいた。

 レシアの心眼が捉える未来。

 俺はその魔法が放たれるよりも速くレシアの前に回り込みその全てを魔剣で受け止めた。

「お前の相手は俺だ」

 俺は静かに告げた。

 圧倒している。

 俺とレシア二人でこの伝説の英雄の亡骸を。

 その事実に俺の心は奮い立った。

 俺にも戦える。

 大切なものを守ることができる。

 だが戦いはまだ終わらない。

 傷を負わせてもラザールさんとライアの体はフィボナッチの権能によって瞬時に再生してしまう。

 このままではジリ貧だ。

 俺の魔力もレシアの精神力も無限ではない。

 どうすれば。

 この状況を打破する方法は。

 その時だった。

 ラザールさんの狂気がさらに増していく。

「素晴らしいぞウオ! レシア! その連携! その絆! それこそが儂が見たかったものよ! その美しい光が絶望に染まる瞬間をな!」

 彼の全身から禍々しい魔力が噴き上がった。

 彼はこの空間そのものを破壊するつもりなのだ。

 空が裂け大地が悲鳴を上げる。

 紫色の月が砕け散り無数の隕石となって俺達に降り注いできた。

 もう避けられない。

 レシアの心眼ですらこの広範囲無差別攻撃の全てを捉えることはできない。

 俺は、咄嗟にレシアと母さんの前に立ちはだかった。

 この身が砕け散ろうとも二人だけは守り抜く。

 その覚悟を決めた時だった。

 俺の中で何かが弾けた。

 父さんの記憶。ジェイクさんの教え。ライアの覚悟。ロザールさんの誓い。ナターシャさんの優しさ。メアリーの勇気。

 そしてレシアの愛。

 仲間たちの想いが俺の中で一つの力となる。

 俺はもう一人じゃない。

 俺は俺だけの力で戦っているのではない。

 みんなの想いをこの身に宿して戦っているのだ。

 俺は薄れゆく意識の中で天に手を掲げた。

 そして叫んだ。

 俺自身の答えを。

 俺自身の力を。

「やっぱり……ラザール、ライア。お前らは強いな。だからこそ俺はお前らを乗り越えていかないと大切なものを守れないから。だから、俺は超えていく。大魔王から盗み取って、新しく手に入れた…この力で」

 刹那、俺の纏う空気が変わる。

 金と黒のオーラが俺の体の中で完全に一つに溶け合い純粋な白銀の輝きへと昇華されていく。

 それは勇者でもなく大魔王でもない。

 ただウオという一人の人間が辿り着いた新しい力の形。

 俺は詠唱した。

 神々の領域へと至るための俺だけの言葉を。

「顕現せよ。我が冠位装填”全模倣フル・コピー”」



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ