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第五部 ジェイク編

第十章:託された未来、ファイナルタワーへ

私達は涙をこらえ、ただひたすらに走り続けた。

背後で天と地がひっくり返るかのような轟音が響き渡っていた。

ウオのお母さんであるリリアさんとジェイクさんの戦いの決着は私達にはもう分からない。

ただ私達は生きなければならない。

託された未来のために。

それが私達に課せられた新しい誓いだった。

どれくらいの時間走り続けたのだろうか。

息が切れ足が鉛のようになりもう一歩も前に進めないと心が折れそうになった時、私達はようやく、とある森の奥深くで足を止めた。

背後から聞こえていたあの世界が崩壊するかのごとき轟音はもう聞こえない。

代わりに森の静寂が私達を優しくそして無慈悲に包み込んでいた。

私達は誰からともなくその場に崩れるように座り込んだ。

誰も何も喋らなかった。

言葉を失っていたのだ。

ジェイクさんが私達を庇った。

その事実だけがあまりにも重い現実として私達の心にのしかかっていた。

伝説の勇者。私達の師匠。そしてかけがえのない仲間。

彼が自らの命を盾として私達に未来を託してくれた。

その覚悟の重さ。

その愛情の深さ。

それを理解すればするほど私達の胸は張り裂けそうだった。

沈黙を破ったのはロザールさんだった。

彼は近くにあった大木の幹を力一杯殴りつけた。

ドゴッ!

という鈍い音と共に彼の拳から血が流れる。

「くそっ……!」

彼の喉から獣のような呻き声が漏れた。

「くそっ! くそっ! くそおおおおおおっ!!!!」

彼は何度も何度もその拳を木の幹に叩きつける。

血が飛び散り木の皮が剥がれていく。

だが彼は痛みを感じるそぶりも見せなかった。

肉体的な痛みなど今の彼の心の痛みに比べれば無に等しいのだろう。

「なんでだよ……!」

彼の瞳から大粒の涙が溢れ出した。

「なんで俺はあんなに無力なんだ……! ジェイクさんが命を懸けてるってのに俺は……! 俺はただ逃げることしかできなかった……! 仲間一人守れねえで何がギルドのリーダーだ……! 何が復讐だ……!」

彼の慟哭が森に響き渡る。

それは自分の不甲斐なさを呪う魂の叫びだった。

ジェイクさんの最後の言葉。『これがアンタのたどり着くべき"強さ"の最終地点だ』。その言葉が彼をより一層苦しめている。

師が示したあまりにも偉大な英雄の姿。

それに到底及ばない自分自身への絶望。

ナターシャさんが泣きながら彼の背中にそっと寄り添った。

「ロザール……。自分を責めないで……。私達はジェイクさんの想いを無駄にしちゃいけないんだから……!」

彼女の声も震えていた。

彼女もまた自分を責めているのだ。

もっと強力な治癒魔法が使えたなら。

もっと強力な支援魔法でジェイクさんを守れたなら。

そのどうしようもない後悔が彼女の心を苛んでいる。

メアリーも俯いたままその小さな肩を震わせていた。

彼女にとってジェイクさんは闇の中から自分を救い出してくれた恩人だった。

その恩を何一つ返せないまま永遠に失ってしまった。

彼女の心の傷はきっと私達が想像する以上に深いだろう。

そして私。

私の心の中にも後悔の嵐が吹き荒れていた。

私の心眼がもっと早くリリアさんの真意を見抜けていれば。

ジェイクさんが、あれほどまでに心を乱されることはなかったかもしれない。

私がもっと強ければ。

私がもっと頼りになる存在であったなら。

ジェイクさんは自らを犠牲にする必要はなかったのではないか。

私達は各々ジェイクさんを救えなかったことを嘆き、そして自分の無力さを呪っていた。

だが。

その絶望の底で私達の心の中に一つの確かな感情が、同時に芽生えていた。

強くなりたい。

もっと強く。

ジェイクさんのように。

誰かを守るために自らの全てを懸けられるような本物の強さを。

ロザールさんは血の滲む拳を強く握りしめた。

その瞳に宿っていたのはもはやただの復讐の炎ではなかった。

師の意志を継ぎ仲間を未来を守り抜くという、静かでそして燃えるような決意の光だった。

ナターシャさんの涙はいつしか止まっていた。

彼女の光魔法はもはやただ仲間を癒すだけのものではない。

ジェイクさんがそうであったように仲間が進むべき道を照らし出す、希望の灯火となるだろう。

メアリーは俯いていた顔を上げた。

その瞳にもう迷いの色はなかった。

彼女の闇は仲間を守るための影となる。

二度と誰にも悲しい思いをさせないために。

そして私もまた。

涙を拭い立ち上がった。

私の心眼はもう迷わない。

この力はウオを救い出すために、そしてジェイクさんが命を懸けて守ってくれたこの仲間たちと共に、未来を掴むためにあるのだと。

私達は決意を固めた。

悲しみに暮れている時間はない。

私達にはやるべきことがある。

ジェイクさんの死を無駄にしないために。

「行こう」

ロザールさんが静かに言った。

「ハーメルンへ。ラザールさんの元へ」

そうだ。

私達の旅はまだ終わっていない。

私達にはまだ希望が残されている。

王国最強の魔法使いラザールさん。

彼ならきっと私達にさらなる力を与えてくれるはずだ。

私達は頷き合った。

そしてジェイクさんがいたはずの空を見上げ深々と頭を下げた。

さようならジェイクさん。

あなたの教えとあなたの覚悟は私達が必ず受け継いでみせるから。

私達は再び歩き出した。

その足取りは重かったがもう迷いはなかった。

私達の心は今確かに一つになっていた。


ジェイクさんとの悲劇的な別れから数日が過ぎた。

私達は黙々と北を目指して歩き続けた。

パーティーの雰囲気は以前とはまるで違っていた。

他愛のない会話も笑顔も消えた。

代わりにそこにあったのは戦士としての厳しい緊張感と、互いの覚悟を認め合う静かな信頼感だった。

私達は道中いくつかの戦いを経験した。

ジェイクさんという絶対的な守護者を失った今、私達は自分達の力だけで全てを乗り越えなければならない。

ロザールさんはリーダーとして的確な指示を飛ばした。

その剣筋は以前にも増して鋭さを増していた。

ナターシャさんとメアリーの連携も完璧だった。

光と闇の魔法が互いを補い合い敵を翻弄する。

そして私は私の役割を果たした。

心眼で敵の配置を読みその弱点を見抜き仲間に伝える。

ラザールさんから授かった祝福の魔法で仲間たちの力を増幅させる。

私達は勝った。

全ての戦いに勝利した。

だがその勝利は常にギリギリのものだった。

何度も死を覚悟した。

そのたびに私達は互いを庇い合い助け合いなんとか生き延びた。

その一つ一つの戦いが私達をさらに強く、そして固い絆で結びつけていった。

そしてついに私達は見覚えのある景色へとたどり着いた。

白い石で造られた美しい街並み。

北の大都市ハーメルン。

私達がジェイクさんと出会うきっかけとなったラザールさんの住まう街。

だが街の雰囲気に私は僅かな違和感を覚えた。

以前訪れた時のような穏やかで活気に満ちた空気がどこか薄れている。

道行く人々の顔にも一様に不安の色が浮かんでいた。

「……何かあったのかしら」

ナターシャさんが心配そうに呟いた。

私達は急いで街の中心にあるラザールさんの屋敷へと向かった。

屋敷は以前と変わらず静かにそこに佇んでいた。

だがその門の前には数人の武装した兵士が立ち、厳しい警戒態勢が敷かれていた。

私達は兵士に身分を告げ中へと入れてもらった。

出迎えてくれたのは見覚えのある老執事だった。

だが彼の表情は暗くその目には深い疲労の色が浮かんでいた。

「ロザール様……。よくぞご無事で……」

彼は私達の姿を見ると安堵の息を漏らした。

「執事さん一体何があったんですか! この物々しい雰囲気は……。それに師匠はご在宅ですか?」

ロザールさんの問いに老執事は悲しげに首を横に振った。

「……それがラザール様は今ご不在なのです」

「え……?」

「数週間前ジェイク様と共に旅立たれたあなた方が音信不通となったのを知って……。ラザール様は自ら調査に乗り出されました。そして数日前……」

執事は一度言葉を切った。

そして私達に衝撃的な事実を告げたのだ。

「ラザール様はあの約束の場所へと向かわれました。たった一人で」

「あの場所……。まさか……」

「はい」執事は頷いた。「ラザール様はこう言い残していかれました。『全ての答えはあの塔にある』と」

彼が指差した地図。

その一点に記されていたのは私達が決して忘れることのできない因縁の場所だった。

次なる目的地はファイナルタワーとなる。

かつてのウオ達とレイザーとの激戦が繰り広げられた場所だ。

そしてウオが初めてその力の片鱗を見せた始まりの場所。

ラザールさんは私達のために先行してくれたのだ。

私達がたどり着くのを信じて。

私達の進むべき道は決まった。

ジェイクさんの意志を継ぎラザールさんの元へ。

そして全ての因縁に決着をつけるために。

私達はハーメルンを後にした。

その心には一抹の不安とそしてそれを遥かに上回る、燃えるような決意を抱いて。

ファイナルタワー。

その不吉な塔が私達を待ち受けていた。

私達の旅がいよいよ最終局面を迎えようとしていた。


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