第4話:図書の鍵
屋敷に戻った翌朝、織音は書斎に向かった。
前夜の救護活動で得た信頼は、まだ小さなものだ。しかし、蔵書を活用すればもっと大きな変化を起こせる――そう確信していた。
机の上には、前日整理した薬草と、既存の古文書が山積みになっている。
その中に、見覚えのない古びた巻物が一冊。背表紙にはほとんど消えかかった文字があり、手に取ると微かに埃の匂いがした。
「……これは?」
慎重に巻物を開くと、驚くべきことに、古代の図式が描かれていた。
薬草の特性、調合の手順、そして何やら「知識を技能化する方法」の記号――まるでスキルツリーのように整理されている。
「これ……もし読めれば、薬学の知識をより効率的に応用できるかも!」
織音は手元のノートと巻物を照らし合わせ、記号の意味を解析し始めた。
文字だけでなく、形、線、色の違いすら意味を持つことに気づく。これを解読できれば、ただの薬草の知識が、実践可能な“クラフトスキル”として可視化できるのだ。
その作業に没頭していると、ミラが小さな声で呼びかけた。
「お嬢様……また、本を……?」
「うん。でもただ読むだけじゃないの。これを理解すれば、薬の効果を最大化できる処方書が作れるのよ。」
ミラは首をかしげながらも、織音の真剣な眼差しに、何も言えずに見守る。
知識を信じ、実務で示す――これが織音のスタイルなのだ。
午後になり、織音はついに巻物の一部を解読した。
「薬草の効能と組み合わせを可視化する図式……これで調合の失敗がぐっと減らせる!」
早速、庭で育てている薬草の一部を使い、簡易的な“処方書付きの試作薬”を作ることにした。
調合しながら、効能をノートに記録し、巻物の図式と照合する。
思った通り、効能の相性や副作用の回避法が目に見えて整理され、前世の知識以上の精度で薬を作ることができる。
「これが……図書の力。正しく使えば、人の命も助けられる。」
夕暮れ時、織音は窓の外を見つめながら小さく呟いた。
町や宮廷の病気、屋敷の困窮……まだまだ解決すべき課題は山積みだ。しかし、図書と薬学の融合で、一歩ずつ道は開ける。
その夜、巻物をそっと書斎の奥にしまう。
誰も知らない秘密の知識――だが、これこそが未来の図書館を作る鍵になるのだと、織音は確信していた。