07.もっと近くに
昼休み、いつものように一人で弁当を広げていた。
教室のざわめきは相変わらずで、俺の存在はやっぱり空気のように薄い。
だけど、今日は少し違う。
(レンに、もっと近づきたい。)
そう思ってしまう自分がいた。
「今日さ、授業ほんと眠かった」
何気なく送った俺の言葉に、すぐ返事が返ってくる。
「私も!黒板がもう子守歌みたいで」
それを見て思わず笑ってしまう。
そして、ふと考える。
――同じ時間を過ごしてるんだ。
離れていても、同じ空気を吸って、同じようにしんどいって思ってる。
「なぁ、レン。一度会いたい。」
そう打っては消してしまう。
理由は簡単だ。
もし拒絶されたら、俺はきっと立ち直れないから。
放課後の帰り道。鞄を肩にかけながら、スマホを握りしめる。
「レンって、どこに住んでるの?」
そう打ち込んだ。
既読がつく。
――返事は、しばらく来なかった。
やっぱり、聞くべきじゃなかったのか。
焦りで指先が汗ばむ。
ようやく返ってきた短い文。
「秘密。でも、そんなに遠くないよ」
拒絶されなかった。それだけで十分だった。
けれど同時に、「もっと近くに」という想いがさらに膨らんでしまう。
「俺さ、会ってみたい気持ちがあるんだ」
勇気を出して打った。
しばらく返事は来なかった。
画面を見つめる時間が、永遠みたいに長く感じられる。
数分後。
「私も……少しだけ思うことあるよ」
拒まれなかった。
それどころか、同じ気持ちでいてくれた。
「ほんとに?」
「うん。でも、まだ怖い。私、会ったらがっかりさせるかも」
――がっかり?
そんなはずがない。
俺は思わず、強く打ち込んだ。
「絶対そんなことない。俺はレンのことを知りたい」
目を閉じるたびに、レンの文字が浮かぶ。
笑ってくれる顔を想像してしまう。
どんな声で、どんな瞳で、どんな仕草で俺と向き合ってくれるんだろう。
――会いたい。
その気持ちは、もう抑えられそうになかった。
けれど同時に、心の奥にかすかな不安もあった。
もし、現実のレンが想像と違ったら?
もし、ただの幻想だったら?
それでも構わない。
レンがいなければ、俺はここまでやってこれなかったんだから。
だから俺は、次の一歩を踏み出す。
“画面の向こう”じゃなくて、“隣にいる存在”として、レンに触れたい。
それが叶ったとき、きっと俺の世界は変わるはずだから。




