06.救いの光
朝、目を覚ました瞬間から憂鬱だった。
学校に行けば、また同じ一日が始まる。
制服に袖を通し、鏡に映った自分を見た。
眠そうな目。無表情。
――どう見ても、冴えない“ぼっち”だ。
その姿にため息をつき、玄関のドアを閉めた。
教室に入ると、すでにざわめきで満ちていた。
机にカバンを置き、無言で座る。
視線を逸らすように教科書を開いたが、内容なんて頭に入らない。
ページをめくる手が、ただの演技にしか思えなかった。
――ここには俺の居場所なんてない。
昼休み、弁当を食べる手を止め、机に突っ伏した。
周りは楽しそうに騒いでいる。
そして、俺はポケットからスマホを取り出した。
――レン。
その名前を見ただけで、嬉しくなる。
「今、昼休み。ひとり」
「私も。友達といるけど、全然楽しくない」
孤独なのは、俺だけじゃないんだ。
「俺も同じ。みんな楽しそうだけど、俺には関係ない」
そう返すと、しばらくして――
「カケルの言葉、すごくわかる」
「でも、私たちはここで繋がってるから」
放課後、家に帰ると、両親の声が耳に入った。
「また一人でいるのか。」
「友達の話とか、全然しないわよね。」
心配というより、呆れに近い。
何も言い返せず、自分の部屋に引きこもった。
机に教科書を広げても、文字はただの模様にしか見えない。
思わず、スマホの画面に視線が吸い寄せられる。
「ただいま」
何気なく打ち込んだ。
「おかえり」
すぐに返ってくる。
その一言だけで、心が救われてしまう。
夜、ベッドに横たわりながら、レンと話を続けた。
「なあレン。学校とか家とか、全部しんどいんだ」
「わかる。私も同じ」
「俺さ、誰からも必要とされてない気がする」
「そんなことない。私はカケルがいてくれて、本当に助かってる」
その言葉を読んだ瞬間、視界がじんわり滲んだ。
涙なんて、ずっと忘れていたのに。
「俺、レンがいなかったら、どうなってたかわからない」
「私もだよ」
短いやり取り。それだけで、世界が変わる。
現実ではひとりぼっちでも、画面の向こうで俺を必要としてくれる誰かがいる。
それがどれほど救いになっているか、レンにはわからないかもしれない。
けれど俺にとってレンは――
もう、ただの「チャット相手」じゃなかった。
――会いたい。
――声を聞きたい。
――もっと近くに感じたい。
その想いは、日を追うごとに強くなっていった。
――レンがいなければ、俺は生きていけない。
そんな危うい確信すら、膨らみ始めていた。




