03.居場所の予感
スマホの通知が鳴るたびに、心が躍る。
「今日もお疲れさま」
「学校どうだった?」
そんな他愛のないメッセージが、俺にとっては救いだった。
誰かとやり取りするのは、いつ以来だろう。
いや、もしかすると初めてかもしれない。
“本当の自分”を出せる相手なんて、今まで一度もいなかった。
学校では、相変わらず一人だ。
教室に入れば、席について教科書を広げる。
前の席のグループがふざけ合って大声を上げても、誰も俺を巻き込もうとはしない。
昼休みになれば一人、弁当を机の上で広げる。
けれど、今日は違う。
休み時間のたびに取り出しては、レンの名前が並ぶ画面を確かめる。
返事が来ていなくても、昨日の会話を読み返すだけで心が落ち着いた。
「――新堂、何してんの?」
不意に声をかけられて顔を上げると、同じクラスの男子が立っていた。
名前は……思い出せないが、クラスの中心にいるやつだということはわかる。
「べ、別に」
咄嗟にスマホをしまい、視線を逸らす。
「ふーん」
それ以上話しかけられることはなかった。
俺には、この教室での繋がりはない。
けれど、レンがいるから十分だった。
放課後、玄関で靴を履き替え、校門を出るとすぐにスマホを取り出す。
「お疲れさま」
短い言葉を送る。
「カケルもお疲れさま。今日も疲れた?」
俺は笑ってしまう。
どうしてだろう、学校で誰かに話しかけられると緊張するのに、レンにだけは素直になれる。
「うん、疲れた。ずっと透明人間だった」
「わかる。私も教室にいるとき、誰も自分を見てないんじゃないかって思う」
本当に同じことを感じてる人がいるとは。
「レンがいるだけで、少し楽になった」
思わずそんな本音を打ち込んでしまった。
――重いって思われるかもしれない。
――引かれるかもしれない。
けれど、返ってきたのは――
「私もだよ。カケルがいてくれるから、今日も頑張れた」
スマホの画面を見つめながら、知らないうちに笑みがこぼれていた。
その夜、机に教科書を広げてみるものの、気づけばスマホを手にしている。
「俺、変だな……。」
レンと繋がっていられるなら、それで良い。
布団に入っても、スマホは手放せない。
その向こうにいる誰かが、俺を見ていてくれる。
「ありがとう。」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いて目を閉じた。
翌日、学校へ向かう足取りが、ほんの少しだけ軽くなっていることに気づいた。
孤独は変わらないし、クラスの中に居場所はない。
けれど、レンがいる。
その事実が、俺を前に進ませてくれる。
こんなふうに思える日が来るなんて、少し前の俺には想像もできなかった。




