20.心の軋み
夜、レンから届いた通知は、いつもよりもずっと重かった。
「今日は、どこにいても居場所がなかった」
彼女がどんな顔をして過ごしていたのか、想像するだけで苦しくなる。
俺はすぐに返す。
「何があったの?」
返事は遅い。待っている間の数分が、何倍にも膨らんで感じる。
やっと既読がついて、画面に文字が並ぶ。
「友達の前では明るくしてたけど、途中から息が苦しくなった。
笑ってるのに、どこかで“違う”って声が聞こえてきた。
帰ったら、親にまた比べられて……
もっとちゃんとしなさいって」
俺は思わず拳を握った。
彼女がどれだけ必死に頑張っているのか、俺は知っている。
それでも誰も、その努力に気づいてくれない。
「レンは十分頑張ってるよ」
「無理に笑わなくてもいいし、ちゃんとしなくてもいい」
「少なくとも俺は、そういうレンを責めたりしない」
ほんの少しでも彼女の心を軽くしたくて、矢継ぎ早にメッセージを送った。
やがて届いた返事は、弱々しいけど、確かな声だった。
「カケルがそう言ってくれるの、ほんとに救われる。
でもね……
陽咲の私は、そうじゃなきゃいけないの。
だから苦しい」
――陽咲。
その名前に縛られて、彼女は押し潰されそうになっている。
「レン、俺の前では陽咲じゃなくていい。
本当の気持ちを言ってくれるだけで十分だから」
これは慰めなんかじゃなく、心からの言葉だった。
少しして、返ってきたのは短い一文。
「ありがとう。カケルの前だけは、本当でいられる」
――本当でいられるのは、俺の前だけ。
それは、嬉しさと同時に、彼女の孤独の深さを突きつける。
もし彼女が俺を失ったら、どうなるんだろう。
そんな不安が一瞬よぎる。
けれど同時に決意も生まれた。
俺がいる限り、レンを独りにさせない。
誰にも理解されなくても、俺だけは必ずそばにいる。
そう心の奥で繰り返し誓った。
「どこにも居場所がない」
その声が、何度も頭の中で響いて消えない。
――なら、俺が居場所になるしかない。
どんなに脆くても、どんなに歪んでいても。
彼女の心が軋んで崩れるなら、その音ごと受け止める。
夜が更けても眠れない。
それでも不思議と苦しくはなかった。
レンの痛みを抱え込んででも、隣にいたいと思えたから。




