02.返事が来た夜
「……あ?」
スマホの画面に浮かんだメッセージを、思わず二度見する。
「ありがとう。そう言ってもらえるだけで、ちょっと楽になった」
──届いてる。
自分の言葉が誰かの心に触れたなんて、今までなかった。
いつだって、俺の声は空気に溶けて消えていった。
教室で喋っても、誰かの笑い声にかき消されるだけ。
家でも、声を出すたびに「うるさい」と眉をひそめられた。
でも今、このスマホの向こうには、俺の言葉を拾ってくれる人がいる。
何て返せばいい?いや、返さなきゃ。
少し迷ってから、短く打ち込む。
「……無理しなくていいと思う」
ほんの十秒も経たないうちに、また返信が来た。
「本当は無理してるって、自分でもわかってるんだ。でも、やめ方がわからないんだよね」
それを読んだ瞬間、胸の奥に何かが刺さった。
他人の言葉なのに、まるで自分の心を代弁されたみたいだった。
──俺も、そうだった。
無理してるって気づいてたのに、「大丈夫なふり」の仕方しか知らなかった。
「……わかる」
たった一言だけど、それは今の俺が出せる精一杯だった。
誰にも言えなかったことを、やっと吐き出せたような気がした。
翌朝。教室は、いつも通りガヤガヤしている。
昨日と何も変わっていないはずなのに、教室の空気が、ほんの少しだけ柔らかく感じた。
「無理してるのは、俺だけじゃない」
たったそれだけの気づきが、こんなにも自分を軽くしてくれるなんて。
――昼休み。
ぼっち飯にも慣れているけど、今日はふと、スマホが気になった。
通知は来ていない。でも、昨日の会話がそこにあるだけで、少し救われる。
放課後、靴を履き替えながら、ポケットの中のスマホに触れる。
ただの冷たいガジェットのはずなのに、今日はやけにあたたかく感じた。
「今日は、何を話せるだろう?」
そんなことを考えてる自分に、思わず小さく笑ってしまった。
期待なんて、いつから忘れていたっけ。
――夜。
無意識にスマホを手に取ると、レンから新しいメッセージが届いている。
「今日も疲れた。教室って、なんか呼吸がしづらいんだよね」
「俺も。教室にいると、透明人間みたいな気分になる」
「透明人間か……その表現、すごく刺さった。私もそうだよ」
スマホの小さな画面の中に、自分のことを“わかってくれる誰か”がいる。
それだけのことなのに、心が温かくなった。
「俺のこと、ちゃんと見てくれる人がいるんだな」
その夜、布団にくるまりながら、まだスマホの画面を見ていた。
メッセージのやり取りなんて、何の変哲もない文字列のはずなのに、不思議と心が満たされていく。
「……明日も、話せたらいいな」
スマホを胸に抱いたまま、目を閉じる。
真っ暗な部屋の中、少しだけ希望の匂いがした。




