19.揺らぐ仮面
放課後、スマホに届いたレンからの通知。
いつもの軽い調子じゃない短文に、いやな予感がした。
「今日は、ちょっと笑えなかった」
「何があったの?」
既読がついてから、しばらく返事が来ない。
その沈黙が、俺の心を妙に落ち着かなくさせる。
ようやく届いたメッセージには、彼女の疲れがそのままに滲んでいた。
「学校で友達に合わせてたけど、途中でしんどくなった。
無理して笑ってたら、どこかで“音”がした気がする。
仮面がひび割れた、みたいな」
俺には想像しかできないけど、彼女にとっては深刻なんだ。
「そのとき、周りは何か言ってきた?」
俺はできるだけ落ち着いたふりで訊いた。
「ううん。誰も気づかなかった。
私だけ、自分の中で崩れてるのがわかった」
――誰にも気づかれない孤独。
彼女の言葉が、まるで冷たい風みたいに心を通り抜ける。
「レン、それでも大丈夫だよ。
俺がちゃんと気づいてる。
無理に笑わなくても、ここでは平気だから」
俺なんかに、彼女を支える力はあるのかと自問自答する。
でも今は、それでもいい。
せめて“ここ”だけは、彼女が弱さをさらけ出せる場所でありたい。
返事は、少ししてから届いた。
「カケルに言うと、ほっとする。
いつも崩れないように必死だけど……。
ここなら、少し壊れてもいいんだよね?」
その文字を見た瞬間、何かが弾けた。
壊れてもいいなんて、俺以外の誰に言えるんだろう。
彼女の中で、俺が特別な存在になっている――そう感じずにはいられなかった。
「もちろんだよ。
壊れても、崩れても、俺はちゃんと受け止めるから」
返したその言葉は、俺自身への誓いでもあった。
彼女がどんなに揺らいでも、俺は揺らがない。
そう決めたんだから。
レンの「壊れてもいい」という言葉が頭から離れない。
その弱さを託してくれたことが、俺には重たくも嬉しかった。
けれど同時に、不安もある。
彼女が完全に壊れてしまったら、俺はどうすればいいのか。
支えきれるのか――そんな問いが胸の奥で渦を巻く。
それでも、俺は逃げないと決めている。
レンが崩れるなら、その隣に立ち続ける。
どんなに不格好でも、必死に手を伸ばして。
――それが、俺にできる唯一のことだから。




