一人旅
人類初の有人火星探査計画、ミッション・ペガサスは、もう何年前の事だろう。
目的地である火星の手前で、宇宙船ペガサス2号がトラブルに見舞われて爆発を起こし、私一人だけが命からがら、非常脱出船で脱出出来たのだが、爆発の影響で脱出船の操縦システムが破壊されていたので、地球への帰還方向とは反対へと脱出船は飛び出していた。
それからもうかなりの年月、脱出船は宇宙空間を飛行している。
半永久酸素・水供給システムと、微細胞生物等無限増殖機によって食物は生産されている為、安定的に酸素と食料と水は入手出来ている。乗組員8人が乗ったとしても、ゆったりと寛げる程の大きさに設計にされた船内で、私は何年も孤独と戦ってきた。
地球との通信システムも、爆発の影響で最初から機能しておらず、最後に聞いた人間の言葉も忘れてしまった。
「メーデー、メーデー。こちらペガサス2号。誰か応答願います」
無駄な事だと理解しつつも、私はたまに無線で呼びかける。
地球人じゃなくてもいい。誰でもいいから、声が聞きたいと、私は常にそればかりを考えるようになった。
地球で暮らす家族も、友達も、同僚も、皆私が死んだものだと思っているだろう。
私が地球に戻れる事は、永遠に無いのだと考えると、この船が巨大な棺に思えた時もある。私は生きながらにして、死んでいるのだと。
爆発が起きた時、仲間たちと共に私も死ねば良かった。この船に酸素も食料も水も、何もなければ良かった。そうすれば、こんなに生きる事で苦しまなかったのだ。
たまに私は船の窓から、宇宙を眺める。そこには数多の星が美しく瞬き煌めいている。
孤独という見えない重圧を引き連れながら、死ぬまでの一人旅は、残酷に続く・・・。
「メーデー、メーデー。こちらペガサス2号。誰か応答願います」
「メーデー、メーデー。こちらペガサス2号。誰か応答願います」
「メーデー、メーデー。こちらペガサス2号。誰か応答願います」
「メーデー、メーデー。こちらペガサス2号。誰か応答願います」
「メーデー、メーデー。こちらペガサス2号。誰か・・・・・・・」